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働くって悲しいことなの

「水月君、ちょっと」

 

「あ、はい、今行きます」

 

 そう声を掛けられたので、モニターから視線を放すと、部長の方向を見ながら声を上げる

 作業途中のデータを保存してから、一応社内セキュリティの為に画面ロックをして椅子から腰を上げる。

 

「どうしました?」

 

「いや、大したことじゃないんだがね」

 

 そう言いながらちょいちょいと、親指で外を差す。

 

「ああ、良いですよ。仕事も一段落してますし」

 

 いつもの要件だろう。

 小休止したかったのもあって、俺は快く返事をした。

 

「うむ、じゃあいつもの所にするか」

 

 部長も立ち上がり、二人で会社を後にする。

 少し歩いた先にある、定番の喫茶店に入ると淀み無く部長はブラックコーヒーを注文した。

 

「君は?」

 

「コーヒー砂糖多めミルク多めで」

 

「相変わらず甘党だねえ。……糖尿になるよ?」

 

「まだ大丈夫ですよ」

 

「あっと、君は確か24だっけか。若いよねえーでも油断しているとすぐ……」 

 

 おっと、これは長くなる振りだ。

 さっさと本題に入らせることにしよう。


「そうだ部長。今日はまたアレですか?」

 

「ん、ああそうなんだよ。実は今度は孫がなんとかの挑戦状だかをやっているらしくてね。それが難しいなんのって、よく聞かれるんだよ」

 

 こういった話を聞くのは初めてではない。

 この部長の孫がレトロゲームにハマっているらしく、ただあんまり腕前は良くなく、色々部長に聞いてくる様なのだが部長自身ゲームを殆どやらず、聞かれても答えれないのを、見栄なのか孫への思いやりなのか、どっちかわからないが俺に聞いてそれを孫に伝えているらしい。

 

 勿論俺も全てに詳しいわけではないが、ある程度は知っているし、攻略情報も調べれば出て来る。

 なら孫か部長に調べろよ(ググレカス)と言いたいのは分かるが、使い方が分からないとかで結局人に頼るのが一番ということらしい。

 それもそれでどうかとは思うが、まあこうやっておごってもらっている手前、別に俺としては構わないのでWIN-WINである。

 

「ああ、それ2Pコントローラーが必要なんですよ。ヴァーチャルコンソールとかでやってるなら多分オプションで……」

 

「ばぁうちゃるこんそうる?」

 

「あとで内容をテキストで送っておきます」

 

 説明していると日が暮れそうなので即座に方向転換。

 その後は雑談しながらコーヒーを飲み干していく。

 

「む、もうこんな時間か。時間だしこのまま帰っていいよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「んじゃ、お疲れ、ありがとさん」

 

 そう言いながら伝票を持っていく部長。

 いやあホワイトな企業で素晴らしい。

 そんな小さな事で大きく喜びながら残ったコーヒーを口に運びながら外の様子をふと見る。

 結構な情報化社会になっているものの、まだ車は空を飛ばないし、宇宙人と接触したり、タイムマシンも瞬間移動も無い。

 上の世代になれば、今のようにまだ上手く情報端末を使えない人もいる。

 

 当初は完全に仮想世界に入れる、フルダイブの技術が確立し、一般家庭にも配備出来るほどになった時は技術の革新を確信したものだったが、実際はその他のレベルは据え置きである。

 まあ、中には仮想世界で全て仕事をこなす人もいるので、一部の最先端企業では有用活用しているのだろうが、中小レベルの議場づとめの俺にはまるで遠い未来の話と変わらない。

 

 と、コーヒーを飲み終えたので帰宅する事とする。

 ああ、そう言えば、ほぼ紙の資料は使わなくなったので鞄を持ち歩く必要がなくなったのは楽になった点だろう。

 ……小せえな技術革新。

 

 未だ変わらずに走る地下鉄にのり、最寄り駅までトレイン・トレインすれば空は茜色に染まりつつあった。

 駅前の広場を通過し、住宅街を数分歩けば、我が家である。なお、社宅の模様。

 だが社宅と言っても、住める家を選んで良いと言うことで自分で選んだ家だ。色々総務部に便宜を図ってもらった甲斐があり、会社規定をちょっとだけ外れた家だが許可はもらったので問題はない。マンションでもアパ-トでもない一軒家だが問題はない。友人にも手を回してもらったが最終的には問題ないのである。

 

 鍵を開けて向かうのは自分の部屋。

 そこから真っ先に向かうのは仮想世界へのチケットである機器、『アウェイク』である。

 迷わずに被り、ベッドへ横になれば意識が飛ぶ。

 そう、あのABゲームへ。

 

 

 

 

「ふむ、君はこういう単純作業が嫌いかと思っていたが、そうでもないのか?」

 

「うん?」

 

 モンスター……このABゲーム内で設定されている敵キャラクター。通称モンスターという全く捻りのない敵を倒しながらそんな声を上げる。

 と言うか、狼型のモンスターで「ウルフ」。こうもり型の敵で「バット」ってまんまだろうが。

 

「単純作業って、ああ、レベリングの事か?」

 

 レベリング。このABゲームはレベル制だ。最初プレイヤーはレベル1だがモンスターやクエストをこなすことで経験値がたまり、一定以上にあればレベルが上がり同時に、ステータスが上がる。まあよくあるRPGと同じシステムだ。

 レベリングとは、このレベルをひたすら上げる作業。つまり、モンスターをただ無心で狩り続ける事である。

 実際はパワーレベリング(強い奴に頼む)寄生プレイ(あとやっとけよ)姫プレイ(私女だけど)等、レベルの上げ方やプレイ方法もいくつかあるがまあ、説明の必要はないだろう。

 レベル上限はあり、このゲームではレベル100がマックスだそうだ。

 

「別に好きって訳じゃないが、嫌いでもないぞ。強くなるのは急務だしな」

 

 WBWで勝つためには、まずはレベルが必要だ。武器や防具やスキルなども大事だが、何よりレベルがなければどうにもならない。

 

「確かに、レベルがないとスキルツリーも進まないのは確かだが」

 

 スキルか。このゲームの糞運営が光るところだ。

 スキルツリーと言うのは、1つのスキルから木の様に繋がっている事を差す用語だ。

 例えば剣のスキルと短剣のスキルがあったとして、そのスキルをとらないと次のスキルは選べない。

  剣のスキルを取ったとして、その次に縦斬り、次に横切り、最後に十文字斬り、と繋がっていたとすればいきなり十文字斬りを選ぶことは出来ず、順番でないといけない。

 そして、その場合短剣のスキルを取る時はまた別で取らないといけないのである。

 そのスキルを取る時はスキルポイントが必要だが、それはレベルアップで手に入る。

 

 さて、この場合何がクソかというと、スキルツリー制だと合計で取れるスキルが決まっているのだ。

 レベルアップで手に入るスキルポイント。それが最大100(一番最初に1だけスキルポイントを持っている)だが、実際にポイントを振れるスキルはかなり多い。

 

 先程の剣系は勿論だが、交渉術、鍛冶術、と言ったバックヤード的なものから生存術、夜目、潜伏等所々で有用性がありそうなスキルもある。

 つまり、勝つためには効率的、あるいは有効的なスキルを取っていきたい所だ。

 が、攻略情報の禁止という縛りプレイの強要により、ネットで調べる事はできない。

 

 ならば、ゲーム内で調べれば良いのだが、さて、そんな貴重な情報をホイホイ流すだろうか?

 答えは、ノーである。

 ライバルを蹴落とせ足引けスタイル推奨のこのゲームではそう言った有益な情報は秘匿されている。

 勿論、調べたり聞いたりすることも出来るが、対価を払わなければならない。

 

 ゲーム内での情報の売買もあり、ゲーム内の貨幣の価値は高く、ちゃんとお金として機能している点は評価できるが、高いのである。

 初心者がちょっと頑張った程度の稼ぎでは到底手が出ない。初心者お断り! ステ振りとスキル振りで間違っても知らん!



 うん、クソゲーだな!

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