男心をくすぐる相手は大概男
暗殺? なんだそれ、もうわかんねえから説明しろよ!! ヘルプは!?
と、そこで男が震えながら声を上げる。
「て、てめえ、何やってるかわかってんのか?」
「あーあれか。俺はどこどこの所属で、手ぇ出してどうなるかわかってんだろうな、みたいなパターン?」
ゲームのあるあると思い出しながらそう言ったが男の回答は違った。
「ばかやろう! お前オレンジネームになるのが怖くねえのか!?」
「オレンジネーム?」
「予備犯罪者の事だ! プレイヤーを死亡させた奴は名前がオレンジになるからだよ!」
「ああ、そういう……ってプレイヤーって言葉が出てくるって事はアンタプレイヤー?」
「そうだよ!! くっそ、お前初心者かよ。なんで俺が初心者にプレイヤーキラーされるんだ……とりあえず、早く蘇生してくれ」
「え、なんで蘇生させる必要があるんだよ」
「アホか!! お前レッドネームになりたいのかよ!」
「あー初心者に分かる用語で頼むわ」
レッドネームだの、オレンジネームだのこのゲームで伝わる様な用語を使われてもわからんのだ。
「ああもう! プレイヤーが死亡した後60秒以内なら蘇生が効く、だがそれを超えると完全死亡となって蘇生出来なくなる。そうなったらお前はレッドネームとなるんだ!」
「そう言われれば、お前の所に完全死亡まであと20秒って書いてあるな」
「げ、アンタもレッドネームになりたくないだろうが! 早く蘇生させやがれ!」
「つっても、蘇生ってアイテムとかスキルとか術とか、まあそんなもんだろ? ……それって初期スタートの時に持ってたりする?」
「は? 初期スタート?」
「いえす。俺ってば超初心者君ですよ」
「ふざけんな! お、おいそこの嬢ちゃん。蘇生頼む!!」
役に立たないと判断されたのか、それとも嘘と判断されたのかわからないが、声掛けの相手を少女の方に変更する。
ちらりと少女の方に目を向ける。
流れるような銀髪が腰まで届いているが、背は小さく、服装は赤を基調としたワンピース……と言うより魔法使いのローブの様な物だ。多分、魔法使いの防具だな。
見た目はかわいいと言うより美人系だが、まあネットゲームだからな。そういえば顔のグラフィックとか決めてないが、ランダムなのだろうか?
……俺の視点は普段より高いので、多分背は高くなっている事から流石に現実と同じということはないだろう。
と、そこで少女は首を振った。
「すまないな。私も今蘇生アイテムの手持ちはない」
「ちょ、ま、え、嘘だろ!!」
そう大声で叫ぶ。
「クソが! てめえ! 『クフェルスト』か『空の大翼』かどこの誰に頼まれたか知らねえが一生後悔する事になるからな!!!」
そう言って憎悪に満ちた声を上げた時、男の完全死亡までの時間が残り0秒になった。
瞬間、男は光の粒子となって消え去った。
今際際の言葉って、多分これ暗殺者と勘違いされてるよな。……まあ、いいか。
「消えた。はー完全死亡になるとこうなるのか」
レッドネームとやらは、まあ面倒な事になりそうな気はするが、とりあえず死亡と完全死亡についてのチュートリアルは受けれた事に感謝する。
「そこの君」
と、少女に声を掛けられる。
「助けてくれた、と言う事で良いだろうか?」
「ん、ああ。襲われてそうだったんでついな」
イベント勘違いした、と言うもあるが正直に言ってわざわざ好感度を下げる必要はないだろう。
「そうか。その行為に感謝する。助かった」
そう言って頭を下げる。
「ああ、いや、気にする必要はないよ」
少しばかり照れくさい。
と、そこで少女が顔をあげると、驚いた様な表情をする。
「プレイヤーネームYuu?」
「え? ああ、設定した名前か」
そりゃプレイヤーなら見えるのか。そういえば死亡ウィンドウに男の名前が書いてあったな。
もう覚えていないが。なにせ、最初からイベントだと思ってわざわざやられ役の名前なんて覚える気がなかったからな。
少女に目線を合わせると、小さい横長のウィンドウが開く。
そこにはプレイヤーネームが記載されていた。
「えっと、君は……は?」
そこに写っている名前を見て、間の抜けた様な声を出してしまう。
「その反応。やはり君がYuuか。ようこそ、このゲームへ。そして初めまして。私こそが君の誘い人である、YHVHだ」
プレイヤーネームYHVH。
そう記載されていた少女.
それは、この少女こそがこのゲームのアカウントをくれたヤハウェその人だった。
「アンタ、ネカマだったのか……ボイスチェンジャーまで使ってまで女声出すとか、凄えガチ勢だな」
「殺すぞ」
ドスの利いた声で返すヤハウェ。
「ははは、軽いジョークだ」
重い声に対してそう軽く返す。
そう言いながらも自分の姿を軽く見回す。
「む、どうした?」
「いや、俺のグラフィックってどうなってるのかなと思ってな」
「金髪の男だな。まあ顔は良くあるゲームのイケメンな感じだ」
「へーそんな感じなのか」
無論、会社に努めている俺の髪は黒髪であり、光り輝く頭皮でも無い。
そしてイケメンと呼ばれるほど顔立ちも整っていない。
「どうした。酷く悲しい目をしているぞ」
「現実の無情さを噛み締めただけさ」
ゲームではイケメン。それでいいじゃないかと自分を誤魔化しながら話を続ける。
「で、なんでヤハウェがここに居るんだ? それとも新規プレイヤーは全員路地裏に飛ぶ仕様なのか?」
「いや、聞いた所によるとランダムらしいが、たまたま運が良かったのだろう」
「それはどっちの?」
「私のに決まっている。日頃の行いがいいからな」
「言ってろ」
いつものように軽口を叩き合う。
見た目が女のは少し驚いたし声も少女っぽいのにも驚いたが、中身は変わりない。
個人的には中身も美少女だと嬉しいのだが、エロ話やシモネタに余裕で特攻むこのヤハウェが女の確率は低いだろう。
今のボイスチェンジャーはまるで生声みたいだからな。騙されてはいけない。騙されては、いけない……っ!
く、忌まわしい一年前の小錦事件を思い出すぜ。
……と、フラグを立てておけばもしかしたら逆に、と言う淡い期待だ。
「さて、色々話したいこともあるがここでは良くないな。宿屋にいこう」
「へぇ、宿屋なんてあるんだ」
最近のゲームは宿屋なんてものは撤廃されていることが多い。
大抵は人かポータルに話しかけて全快が多いのだ。
「回復もあるが、宿屋内ではセキュリティが保たれているからな、密談には持って来いの場所だ」
「密談って、犯罪の片棒を担ぐのは勘弁だぜ?」
そう皮肉げに言ったが、それに対して冷笑で返される。
「それは、大変面白い冗談だな」
そう言って道案内を始めるヤハウェ。
その行く途中で思い出した。
なるほど。そりゃ面白い冗談だろう。
なにせ、今の俺は犯罪者なのだから、片棒を担ぐ程度、どうでも良いことだったな。