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ホラーとサスペンス

 着いた先は、真っ黒な空間だった。

 バグか? と思ったが目の前に透明なウィンドウが出てくる。

 

『ようこそ、ABゲームへ。下記の質問にお答え下さい ※なお、途中でログアウトした場合招待無効になります』

 

 真っ黒な空間でウィンドウだけか、確かに気持ち悪い感じはあるな。

 とはいえ、この程度なら全然余裕だ。

 そう思っていた。

 

『ゲームは好きですか? はい いいえ 1/1000』

 

 質問は、はいかいいえの二択だった。

 俺は勿論はいを押す。

 そしてそのウィンドウの右下に表示される1/1000。

 ああ、本当に千問あるんだなと少しばかりげんなりする。

 そうして、質問に答え続けていく。

 すると、ある質問が出た。

 

『中年の男性が若い男たち3人にカツアゲされてます。助けますか? はい いいえ 123/1000』

 

 さて、こういった質問の回答の仕方は、俺は2パターンあると思っている。

 一つは現実的な目線。本当の現実で起きた場合、まず助けれる人間はいないだろう。

 数で勝る相手で、しかも相手は男で無関係の人間なのだ。大概は見捨ててしまう事になる。

 もう一つは理想な目線。いわゆるゲームなら助ける一択、と言った物だ。

 ふむ、今回はゲームだし、理想で行くか。

 

「はいっと……」

 

 次も同じような質問だ。

 流石に疲れてくるのでぽちぽちと進めていく。

 とはいえ、こういうのも嫌いじゃないので適当ではなくちゃんと選ぶ。ゲーマーだしな。

 その他にも色々な質問があった。流石1000問だけあるラインナップだ。しかし一つとして同じのがないって事はスタッフ全部作ったのか。

 

「ふー……ようやく799問目か。きっつ」

 

 はい、いいえの簡単作業とは言え問題数が問題数なため、疲労が溜まってくる。

 時間も結構経っているだろう。この空間だと見れないようになっているが、『アウェイク』を外すわけにもいかない。

 とはいえ、これを答えてあと200問。さて、頑張るかと気合を入れ直し、はいのボタンを押した瞬間。

 

 俺は、少し背筋が冷える事になった。

 

『貴方は24歳ですか? はい いいえ 800/1000』

 

 例えば、これが20代ですか? と言う問いなら、何も問題はなかった。

 問題なのは、キッチリと、俺の年齢をピタリと当てている事だ。

 俺は、はいのボタンを押す。

 

『貴方は会社員ですか? はい いいえ 801/1000』

『貴方は男性ですか? はい いいえ 802/1000』

 

 質問内容が、変わってきている。

 これは新手のスパムとかそういうものなのかと疑うほどだ。

 それでも俺は、質問に答えていった。

 ……そして、俺はヤハウェがあれ程念を押して、止めるなと言った事を、今更ながら実感した。

 

 

『貴方は都内に住んでいる はい いいえ 994/1000』

『貴方は文字のチャットツールを使っている はい いいえ 995/1000』

『貴方は一人暮らしだ はい いいえ 996/1000』

『貴方は過去に課金で苦い経験がある はい いいえ 998/1000』

『貴方はバトルスペックを引退した はい いいえ 999/1000』

 

 もはや、質問ではない。

 俺、個人を狙い撃ちした詰問だ。

 疑問形ですらなくなり、確かめるような質問。

 それに、バトルスペックを引退したのは、先程の話だ。

 そして、そもそも、それが質問に出てくること自体が、おかしい。

 気づけば、選択する指が震えていた。

 そして、最後の質問が来る。

 

 

 

『貴方は水月 悠(みづき ゆう)ですね  はい いいえ 1000/1000』

 

 心臓が、跳ね上がった。

 やはりウィルスだったのだろうか。詐欺サイトなのだろうか。

 いや、そのどれでも、個人を特定する事が、そんな質問が、来るのだろうか。

 

 冷たい汗が背中に伝わる、気がする。仮想世界なので、実際の自分がどうなっているかわからないが、冷や汗でびっしょりだろう。

 完全に、特定された。

 その恐怖を押し殺して、はいを押す瞬間、俺は思い出し、にやりと笑って

 

「いや、違うな」

 

 いいえを、押した。

 恐怖に負けたわけじゃない。確かに、俺は水月 悠だ。

 しかし、この回答をしたのは違う。理想の自分だ。

 これは自信を持って言える。

 

「ふー……凄い、気持ち悪かったな」

 

 あとでヤハウェを問いただそう。

 そう思った時、ウィンドウが出ていた。

 

 

 

 

 

『貴方は理想の水月 悠(みづき ゆう)ですね  はい いいえ 997/1000』

 

 

「99、7……!?」

 

 そんな、馬鹿な。なんでそんな数字が。

 いや、何より千問ではなかったのか。

 その考えがぐるぐると回っていたが、ふと頭に過ぎったのは、その質問の所だ。

 

「……俺、997は、答えて、無い?」

 

 薄っすらとした記憶だが、なんとなく、一問抜けていた様な気はある。

 だが

 

「俺が、理想の自分だと答えることを予想して、一問ずらした……?」

 

 そんな馬鹿なと思いたくなるが、俺の心を見透かした様なその問いに背筋が凍るのは止められなかった。

 恐怖を感じた。

 だが、それと同時に

 

「面白い……」

 

 面白い。そう、面白かった。

 恐怖はある。例えば、個人情報を抜き取られているのではないか、もしかしたら何か監視されているのでは、などといった妄想じみた事も思った。

 しかし、それを加味しても今までこんな事は無い。あるはずもない。

 そう言ったありえない事。それに対して俺は、ワクワクしていた。

 だからこそ指先を伸ばして、本当に最後の問いを答える。

 

 

「はい、だ」

 

 押した瞬間にウィンドウは消え、同時に黒い世界が白く染められた。

 

『ようこそ、ABゲームへ』

 

 最初と同じ言葉が歓迎する。

 先程の一寸も見えない様な闇はなくなり、遥か彼方まで、水平線すら見えない真っ白な世界で、唯一灰色のウィンドウだけが目の前の中空に浮いていた。

 

『このゲームでは、ネット上での攻略情報を禁じております。動画や文面等、攻略関わるあらゆる情報を開示した場合はアカウント停止、削除となり、該当の媒体も削除させていただきますのでご了承願います  ・同意する ・同意しない』

 

 これはヤハウェから聞いていた通りだ。

 しかし、ゲーム開始当初から警告文が出る辺り、余程厳しいのだろう。

 運営から絶対に攻略情報の流布はさせないと言う強い意志を感じる。

 なにせ、アカウントが紹介制と言うプレイ人口を狭める真似をしながらも、違反したら直ぐにアカウント削除だ。

 

 ちなみに、ヤハウェと話した時に言っていた詐欺、と言うのはこのアカウントの話だ。

 このABゲームのアカウントは高値で売買されている。

 

 アカウント一つにつき、およそ最低『20万』、かなりの高額である。

 オークションならもっと付くだろうし、初期登録もされていないアカウントなら更に値が上がる。

 

「まあ、そんな事はしないけどな」

 

 ヤハウェにも悪いし、なにより今はこのゲームに強い興味を抱いている。

 これから始まるゲームに期待を乗せながら、同意するのボタンを押す。

 

『プレイヤーネームを入力して下さい』

 

 続いて出てきたウィンドウにいつものニックネーム「Yuu」を入力する。

 

『確認致しました。それでは良き人生を』

 

 それだけウィンドウに出た瞬間、景色が歪んでいく。

 数秒後、そこにはあっけに取られた俺と良く想像されるような中世のような町があった。

 空は快晴。場所は路地裏の様な所。左右にはレンガ仕立ての家。

 

「……チュートリアルとか、説明とか、そういうのは無いのかよぉ」

 

 予め説明書は全部読む、攻略WIKI等は最初に見るタイプの俺はチュートリアルなしでいきなり飛ばされた事に少しばかり不安を抱いていた。

 思わず情けない声が出てしまう。

 が、気分を落ち着けるために軽く自分の頬を叩く。強く叩いたが頬にはほんの少し僅かな痛みを感じる程度。しかしそれでも意識は多少なりクリアになった。

 

「さて、どうするかな」

 

 ノーヒントでいきなりプレイするにも本気でどうすればいいかわからない。

 とりあえず手当たり次第試してみるのも手だが。

 

「一度ログアウトして、ヤハウェに連絡でも取るかね」

 

 安全策に走ることにする。弄っていたら迂闊にステ振りがされて糞ステ振り乙、なんて言われたくないのだ。

 とりあえずメニュー画面を開こうと、それっぽい小さく右下に出ている透明な歯車のマークをタッチしようとした。

 

「いいからさっさと金を出せって言ってんだよ!!」

 

 が、そこで怒号が聞こえて伸ばした指先が止まる。

 声のした方向を見れば、遠目に巨漢の男が誰かに憤っているのが見えた。

 距離が離れているせいで相手は見えないが、小さな相手なのはなんとなくわかった。

 少なくとも、好ましい状況にはとても見えない。

 

「お、イベントか?」

 

 クエスト表記の様な物は見えないが、俺は駆け出す。

 そう、理想の俺はこういった場面で助けに入れる男なのだ。現実は知らん。

 

「っち、ちっと痛い目みてもらわねえとわかんねえか?」

 

 そう言って男は拳を振り上げる。

 近づいて分かったのは、男が絡んでいるのは小さな女の子だ。

 まあ、ゲーム上だから中身はおっさんの可能性が9割だが、現状の状態で見れば助けるしかないだろう。

 これで女の子のほうが実は詐欺を働いていて、男は被害者と言う可能性もあるが、だからといって暴力はよろしくない。

 

 と、僅かに聞こえる金属音。

 なんだろうかと腰を見れば、ナイフがくくりつけてあった。

 初期武器だろうか。手にとれば、何事もなく刀身が鞘から抜ける。

 

 ナイフを手に取ったまま、どんどん距離を詰め、拳を振り下ろす本当に直前に

 

「そうはさせないぜ」

 

 男の背後をナイフで斬りつける。

 

「な……」

 

 男は驚きの声を上げる。

 

「悪いな、理由までは知らないが目の前の暴力は見逃せないんでな」

 

 などと、格好つけてみる。

 最近の良いAIが積んであれば、会話もできるはず。まあ出来なかったとしても、こういうのは気分の問題だ。

 演じる(ロールプレイ)のも悪くない。

 

 と、注意が引けるぐらいであれば別にそれでよかったのだが、男は驚愕の表情のまま倒れていく。

 え、弱……最初のイベントだしこんなもんなのかな。

 そう思った瞬間、邪魔にならない程度にウィンドウが開く。

 

『暗殺が発動しました』


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