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既知との遭遇

 ――こうして、私の学院生活は幕を下ろした。

 ――私はこれから、彼と一緒に日々を歩んでいく。

 ――どんな時でも私の側にいてくれた、最愛の人と一緒に――









「はい、お疲れ様。無事に終えることができたみたいで、僕も何よりだよ」

 ……ん?


「おや、きょとんとした顔をしてどうしたんだ? ほらほら、僕の指、何本立ってる?」

「……さんぼん」

「よし、大丈夫そうだね!」


 ……いや、全然大丈夫じゃないけど。

 むしろ、ここどこ? あなた誰?

 私は確か、聖堂でドラゴンの暴発に巻き込まれて、瓦礫に飲み込まれてしまったはずじゃ……。


「うん、でも大丈夫。何とか生きてるから」

 ……なんとかって。そんな適当な……。

 というか私、今、ナチュラルに日本語喋ってるね。というより、相手方が日本語だからこっちも釣られて前世の言葉を使ってるんだけど。


「えーっと……とりあえず、ここ、どこですか?」

「ん、その前に一応自己紹介しておこうか。君はアリシア・ティリスさんであってるね?」

「ええ、はい」

「じゃ、僕の方から。僕の名前は、杉森章太郎。センセイショナル・プロダクションのプロデューサーだよ」

 センセイショナルの杉森章太郎……えっと、待てよ。聞き覚えが……。


「ちなみに巷では、S森と呼ばれている」

 S森……あああああ! 分かった!


「『恋花』のプロデューサーで、お得意のRPGではイカレた難易度でプレイヤーをヒイヒイ言わせ、最低難易度でも初見殺しのギミックばかりをねじ込む、鬼畜プロデューサー! シリーズビギナーを叩きのめし、ベテランプレイヤーも容赦なく奈落の底に突き落とす、その名もサディスティックなS森!」


「……うん、よく分かってるね。まあ、乙女ゲームを手がけたときにはさすがに鬼畜難易度はやめておいたけど」

「ほ、本物のS森!? 生きてるうちに会えるなんて!」

「君、一度死んだでしょ」

 あ、そうだった。


「それより……えっと、どういうことですか? かの有名なS森がどうして私の前に? というか、私また死んだんじゃないの? どういうこと?」

「うーん……それじゃ、まずは僕から質問ね。RPGにしろ乙女ゲームにしろ、僕たち制作陣は基本的に、ゲームの中に登場できないよね」

 確かに、制作者がゲーム中に登場することは滅多にない。


「では、僕たちが堂々とゲーム中に登場できるのは、それはいつのことでしょうか? ほとんどのゲームは、この時になったら僕たちも登場できるんだ」

「……えー?」

「ヒント。姿は登場しないけど、名前だけ出てくるんだ」

 名前だけ? RPGでも乙女ゲームでも?

 ……あ。分かった!


「ゲームのエンディングの、エンドロール?」

「正解! つまり君は……いや、君じゃなくってヒロインはメルティ・アレンドラだね……とにかく、見事この『恋花』のエンディングを迎えることができたんだ。永きに渡る奮闘、お疲れ様!」

「ど、どうも?」

 エンディング? あの、「兵器」と呼ばれたドラゴンが暴走して私も瓦礫に押し潰されておだぶつしてしまった、あれが、エンディング?


「どう考えてもバッドエンドでしょ!」

「うん、確かにハッピーエンドとは言えないね。まさか僕も、こんな無茶苦茶なエンドを迎えるとは思ってなかったから、てへっ」

 S森ってこんなキャラだったのか。雑誌の座談会とかでは冷静なオジサマって印象だったから、意外だ。


「……じゃあ、私がこの世界に転生して、メルティがいろいろとやらかしたってのも、ゲームのシナリオ通りだったのですか?」

「途中まではね。本当はヒロインは、王道的な子を設定したはずなんだけど、ちょっとバグっちゃったみたい。ほら、ゲーム中でもヒロインの個人データを見られたでしょ? 知性とか人気とかの。あの数値が桁外れで低くって、しかもどれだけゲームを進めても全く上昇しないダメイン設定になっちゃったんだよ」

 道理でメルティの行動がぶっ飛んでいて短絡的、攻略キャラ以外の人望がない残念ガールだったのか。バグなのか、そうなのか。


「……でも、確かゲームのエンディングは、ヒロインが学院を卒業するところでしたよね。二年目から攻略キャラを選んでそのルートに入って、選んだキャラとの好感度を上げまくればラブラブエンドになるんじゃ……」

「そのはずだけどね。いやぁ、ゲームの世界に転生者がいると、色々予測不可能のことが起きるんだねぇ」

 え、何、じゃああの悲惨な日々は、私のせい?


「別に君を責めようとは思わないよ。だって、君だって何かの弾みにこの世界に転生したんだし。君も気づいてるだろうけど、メルティ・アレンドラはゲームの枠からいろんな面でぶっ飛んだ。一番のぶっ飛びは、君が前世の記憶を取り戻す前から始まってたんだ」

 つまり、私が十五歳の時よりも前ってこと?


「そう。何かというとね、本来なら二年目でヒロインは攻略キャラから一人を選ぶんだけど、何を思ったか彼女、ゲーム開始前から隠しキャラであるヨハンルートを選択してたんだよ」

 な……何だ、それ……?


「せ、選択って……そんなこと、できるの?」

「しちゃったもんは仕方ないじゃないか。学院に編入する前から、もうヨハンとの好感度はマックスに達してたんだ。だから、フィリップ王子を始めとした他の攻略キャラがどんなに揺さぶりを掛けても、好感度を上げても、彼らのルートは発生しない。彼女も一応考えてて、どうやらフィリップ王子からの求婚も流していたみたいだし」

 そういえば言ってたな……フィリップ王子にプロポーズはされたけど、イエスの返事はしてないって。

 加えて、ヨハンとのあのラブラブっぷりだ。二巡目だの何だのはもう、些細な問題だ。まさか、編入前からヨハンルートに突入とは。恐ろしい義兄妹だ。


「たぶん、そこからもう色々狂ってたんだろうね。ベアトリクスとカチュアが悪役令嬢ポジションから脱落したのは、君の立ち回りのおかげ。ぶっちゃけ、ゲームのシナリオ上、悪役令嬢二人が退学してもさほど変化はないんだよ。問題なのは、パラメーターが異様に低いまま強引にストーリーを進めたヒロインだ。本当なら卒業式でエンディングだったんだけど、まだ彼らにとっては終わっていなかった。それは、僕がデバッグルームに仕込んだ裏設定も原因だけど」


「裏設定?」

 そんなのあったのか?


「あれ、ラジオを聞いてなかった? ……あ、そうか。放送する前に君は死んでしまったのか。ま、とにかく、僕はS森と呼ばれるくらいの根っからのRPGプロデューサーだからね、本来は。だからちょっとだけ、ヒロインにまつわる設定を盛り込ませてもらったんだよ。もちろん、本来のゲームにはあまり影響を及ぼさない程度で」

「それって、どんな……?」

「君もさっき直面しただろう? メルティの出生の秘密と、彼女に託された使命だよ」

 ……ああ、大賢者の言葉を伝えるとかなんとかの件か。


「ヒロインの裏設定は、こうだ。ヒロインは元々、『大賢者』の言葉を代々伝える神官職の娘として生まれた。ヒロインは物心着く前からあの言霊を教え込まれていた。もちろん、意味も分からずね。彼女の父親はいずれ彼女が大きくなったら真実を伝えるつもりだったけど、同僚との争いに巻き込まれ、彼らの一族は没落してしまった。父親はヒロインと引き離され、生き別れた娘を捜し求めて十数年世界を彷徨う。娘の方は巡り巡ってアレンドラ侯爵に引き取られ、十五歳の冬、やっとのことでヒロインを見つけ出した虫の息の父親に、全てを明かされるんだ」

 ああ、それってさっきメルティが恍惚として言っていた件だね。じゃあ、あれはメルティの妄言じゃなくってS森が考えていた裏シナリオ通りだったんだ。


「でもね、本当なら純真で正義感の強いヒロインは、父親の言葉を胸に刻んで攻略キャラと一緒に国を守る誓いを立てるって筋道だったんだ。場合によっては今回みたいに聖堂が襲撃され、ヒロインがその言霊を胸に立ち向かうってはずなんだけど……どうしてこうなったんだろう? まさか、ヒロインが離宮を襲撃して攻略キャラを引き連れて聖堂に乗り込むとはね。ハハッ、さすがバグキャラだ! これを売り出せばクソゲー間違いナシだ!」

 そうか……メルティはバグキャラだったのか……だからあんなにぶっ飛びお花畑だったのか……。


「というわけでやりたい放題やりまくったヒロインだけど、攻略キャラの大半はお亡くなりになったし、聖堂は吹っ飛んだし、もうどうしようもないからね、ここでずっと延期していたエンディングを迎えることにしたんだよ。いやぁ、プロデューサー始めて以来のビッグなバグ作品だね!」

「……そのバグ作品中で奮闘した私たちは、このまま絶望エンドですか……」

「いや、だから大丈夫だって。さすがにここまで踏ん張ってくれた君たちを瓦礫の下に埋葬するわけにはいかないから。降ってきた瓦礫、その隙間に君が入ってるから。今は気絶してるけど、もうしばらくしたら仲間たちが掘り起こしてくれるよ」

 掘り起こすって……まあ、その通りになるんだろうけど。


「じゃあ、レグルス様たちもご無事なんですね!」

「うん、彼らのおかげで僕の力作がクソゲーにならずに済んだものだからね。大賢者様からのお礼だよ」

「大賢者様……ええ、じゃあ……!」

「そう。君のお兄さんからも聞いただろうけど、うわさの『大賢者様』。それって、僕のことだよ」

「S森が大賢者!?」

 そ、そうなのか! 言霊ってのが日本語な時点で怪しいとは思ってたけど!


「そう。だって制作者が一番偉いんじゃないの? 裏設定の中くらい、僕が超偉い人でいさせてもらってもいいじゃないか。というわけで、僕は古の大戦争を集結させた大賢者の役になって、封印の言葉として、あの世界では使われない日本語を鍵にしたんだよ」

「なんで、そんな手の込んだことを……」

「だってその方が楽しいじゃないか!」

 はいはい、聞いた私が馬鹿でした……。


「……ふー、長く話したら疲れた。それじゃ、そろそろ現実世界に僕も降臨しますかね」

「えっ、来るの?」

「行くよ。ただ、僕はあっちでは偉ーいすごーい賢者様でいたいからね。ちょっと猫被るけど、勘弁してね」

「……了解です。で、こっちに来て何をするんですか?」

「ん? ふふふ……それは、目が醒めてからのお楽しみだよ!」

「えー……」

「じゃあヒント。君も前世で『恋花』をプレイしたようだけど……その時、エンディングのスタッフロールの後に何があった? 二巡目をする前にあった出来事だよ。それをしに行くから!」

 スタッフロールの後? えっと、えーっと……。


「あ、そろそろ時間だね。それじゃ、僕は君が目覚めてからノーブルな感じに降臨するからね! それじゃ、ほら、君の愛しい王子様が待ってるから、先に行ってらっしゃーい!」

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