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元悪役令嬢たちがやってきたこと

 ある程度のメニューが固まるまで、一月は掛かった。その間に私の元に、兼ねてから待っていた人たちが到着したのだ。


 ベアトリクス・オルドレンジとカチュア・レイル。


 ベアトリクスは見事な黒の巻き毛のゴージャス美女で、私と同い年だというのに色気がはんぱない。かつて彼女は生徒会副会長を務めており、言葉は厳しいものの、校則を遵守して規律を正そうとする真っ直ぐな人間だった。


 彼女は王国の第二王子フィリップ殿下と婚約していて、彼につきまと……ゴホゴホ、彼と行動を共にすることが多いメルティに嫉妬の欠片を見せていた。それが原因で、ゲームでの彼女はフィリップ王子に嫌われ、最後にはどういうルートであれ、攻略キャラたちによって断罪を受け、学院から追放されてしまう。


 でも実際のベアトリクスは、途中でフィリップ王子がどうでもよくなったらしい。婚約解消したという話は聞かないけれど、彼女の中では吹っ切れてしまったようだ。まあ、ベアトリクスがゲームであったような高圧的な女王キャラじゃなくって、とても真面目な人柄だって分かったからそれでいいんだけど。


 そしてカチュアは、運動神経抜群で私たちの隣のクラスの学級委員長を務める才女だった。ゲームでの彼女は従者であり攻略キャラのラルフ・オードリーに恋していて、ラルフと主人公が仲よくなるとネチネチ絡んで来るというキャラだった。そして主人公がラルフルートを選んだ場合、彼女をラルフがナイフでメッタ刺しに殺してしまうというとんでもない運命を辿ることになっていた。


 でもそのカチュアもラルフを見限った。伯爵家の執事としての仕事をほったらかしてメルティの尻を追っかけるような使用人は要らないと、さくっと除名してしまったそうだ。ガチのニートになってしまった彼は、学院内で私を殺そうとナイフをちらつかせたもんだから、出入り禁止令を食らったと聞いている。さて、職もメルティに合う方法も失った彼は、どうなったんだろう? しーらないっと。


 ああ、ついでに私をリンチしたその他の野郎……ゲホゲホ、男性陣の処遇はというと、フィリップ王子は国王陛下からお叱りを受けて、一月間の謹慎処分を受けたらしい。王子は暴行には及んでいないから、罪は軽かったらしい。王族ってのもあるんだろうね、ちっ。

 ということは、今はもう学院に戻ってるんだ。戻って、早速メルティとの感動的(笑)再会を果たしている頃だろうかね。しーらないっと。


 明るい子犬キャラのロット・マクレインは私に暴言は浴びせたけど、王子と同じく手は出していない。それはベアトリクスたちも証明したから、罰則を受けただけらしい。とはいえ、みんなのいる教室で反省文を書かせられるというある意味羞恥プレイであったらしく、それまでクラスのムードメーカー的存在だった彼は一気に白い目で見られるようになったとか。そりゃそうか。


 担任のリットベル先生は、メルティを構い過ぎて授業放棄したらしく、二ヶ月の謹慎の上、経過観察が付くそうだ。つまり、同じことが二度あれば今度こそクビが飛ぶってこと。執行猶予なんかせずに、もうさっさとクビチョンしちゃえばいいのに。


 んでもって、もう一人の犯罪者予備軍がルパード・ベルク。剣術の授業に講師としてくる近衛騎士だけど、この人もガッツリ剣を持ち出して私を脅してきた。それはベアトリクスたちも見ているから、速攻で近衛騎士団に通報。即日で騎士団から追放を受けたそうだ。


 メルティ・アレンドラ親衛隊五人のうち、二人がニートになってしまった。まあ、私を斬り殺そうとした人なんだから、ニートになろうが知ったものか。今はどっかの鉱山で低賃金労働してるって噂だけど、どうなんだろう。少なくとも犯罪者予備軍なんだから、監視の目が行き届くところに詰め込んでおいてほしい。






 そういうわけで、乙女ゲームのシナリオは既にボロボロ。彼らの近況報告は、レグルス王子から聞いている。


 レグルス王子はフィリップ王子の異母兄弟で、学年は一緒だけれど兄弟仲が最悪なので、クラスはいっつも分けられている。そりゃそうか。


 私はなぜかずっとフィリップ王子と同じクラスだったから、必然的にレグルス王子とはクラスが違った。そういうわけで接点もないモブ同士だけど、昨年の学院祭で偶然繋がりを持った。


 彼はベアトリクスたちと一緒に私を救出に来てくれ、その後も学院に残っている。彼は、学院を離れた私たちに代わって、メルティたちの今後を見張ってくれていたんだ。


 レグルス王子からの手紙は最初、男爵邸に届いていたけれど私が田舎に移ってからは、直接こっちに届くようになった。彼の報告を読む限り、メルティは相変わらず学院生活をエンジョイ(笑)していて、学院に戻ってきたフィリップ王子やロットともよろしくやっているそうだ。


 ただ、メルティの脳内お花畑っぷりはいよいよ他の生徒にも影響を及ぼしたようで、皆もそろそろイライラしている頃だとか。彼らは私を教訓に、彼女に接しないよう接しないように気を付けているそうだけど、何人かは「強制イベント」という名の罰ゲームに巻き込まれ、攻略キャラに泣かされているとか。

 もう学院終了じゃん、と言いたいけど、そこはレグルス王子が踏ん張っているという。もうすぐ生徒会役員選挙があって、何を思ったのかフィリップ王子だけでなくメルティまで立候補してきたのでどうにかする予定だ、と書かれていた。


 ……そういえば、ゲームストーリーによっては主人公が生徒会に入ることもできたっけ。ただし当選するには知性や魅力はもちろん、「人気レベル」というのが必要だった。この人気レベル、実は攻略キャラとは全く関係ない。主人公の普段の行いやテストの成績などによって上下する、いわゆる「モブから見た主人公の評価」ってやつなんだ。生徒会に入るには、攻略キャラべったりじゃなくって、授業も頑張って、他のモブからの印象もよくしなければならなくて、かなり難易度は高かった。


 そう、つまり今のメルティだと、ゲーム通りならばまず確実に生徒会選挙に落ちる。


 しかも、だよ? ゲームストーリーだと、フィリップ王子は百パーセント当選して、同じく立候補したレグルス王子(名前だけのモブ)はさくっと蹴落とされるんだ。これは主人公が誰を選んでも同じ。しかも生徒会の顧問がリットベル先生という、とんでもない面子になる、はずだ。


 でもレグルス王子の報告を見る限り、リットベル先生は生徒会顧問から外されていて、フィリップ王子の当選も危ういくらいだとか。しかもどうやら、立候補者の中に私が所属していた料理研究グループの先輩であるリーダーも名乗りを上げているとか。彼女には本当にお世話になったし、優しくていい人だった。レグルス王子と一緒に是非、当選してほしいところだ。








 話は戻って――ベアトリクスとカチュアは実家と話を付けたらしく、揃って来店してきた。


「これからは、わたくしたちもアリシアと一緒に商売をしますのよ」


 そう言うのは、きらきらしいドレスを纏ったベアトリクス。あまりにも眩しすぎて……目が、目がぁ! ってなりそうだ。


「わたくしたち、お金の勘定についても勉強してきましたのよ」


 そう言うのは、髪と同じ青銀色の軍服(ドレスじゃない。軍服だよ軍服!)を纏ったカチュア。麗しすぎて……いよいよ目がチカチカしてきた。


 ……うん、侯爵令嬢と伯爵令嬢がこんな鄙びた土地に来るなんて、本当に皆様ビックリだよね。現に今も、この小さな店の前に豪奢な馬車が二台も停まっているもんだから、近くの奥様方がちらちら見てきている。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] さて、職もメルティに合う方法も失った彼は、どうなったんだろう? しーらないっと。 会うじゃないでしょうか?
[一言] 反省文を書くよりもみんなの前で音読させた方が面白そう
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