A面
とっても難産でした。
次は、彬視点予定です
私の名前は、茅野 文香。今年から横手大学に通い始めた、19歳の腐女子です。腐女子と言っても、ディープなモノではではなく、BL臭の漂うモノが好きなだけ。本物・本番は遠慮したいし、男の友情に萌えたり、関係を匂わせるような冗談や軽口が好き。
まあ、中途半端に腐りかけているって感じでしょうか?
こんな私の、他に萌えるポイントは、“男の人の背中”。Yシャツ越しに、薄っすらと感じられる肩甲骨のラインや、腰のあたりのラインにクラクラしちゃいます。
好みの背中を見つけると、ついフラフラと後を付いていってしまうので、友人からは“ストーカー予備軍”なんて呼ばれてしまってます。
まあ、私の見た目が、中学生に間違われるような童顔に眼鏡をかけて、肩より長めの髪を二つ分けにして緩く編んで括っている、身長155cmの、見た目“子供”じゃなければ、何度か通報されていたでしょう…。
そんな私の通う横手大学は、我が家から3駅先にあり、私はこの春から初めての電車通学なるものを、体験しているのです。そしてこの電車通学は、私にとっては正にパラダイスだったのです!
私の利用する沿線は、朝のラッシュ時でもさほど混み合う事はありません。それでも座る事は出来ないですし、車内の人との距離は結構近いです。
そう、「触れ合うほどではないけれどもかなり近い距離」にいつも男の人の背中があるのです!正に眼福!!
好みの背中には中々出会えませんし、スーツの背広越しでは大好きな背中を堪能する事は出来ませんが、それでもココは楽園です!
さらに、5月に入ってからは薄着の方もチラホラと目立ち始め、背中の品評会が出来るようになって来たんですよ!
ビバ!電車通学!!
その背中に出会ったのは、6月に入った正にその日でした。
いつものようにルンルンで電車に乗り込んだ私の目の前に、その背中は存在していたのです…。その背中が纏っていたのは、私の通う大学のすぐ近くにある進学高校の制服。
衣替えで、ブレザーのジャケットを脱ぎ、ズボンにYシャツという格好に変わっていたその背中が……。
まさに一目ぼれでした!Yシャツの下に、カラーのTシャツが透けているのですが、身体のラインにフィットしたそのTシャツが、色気を倍増させていて…!
鼻血が出なかったのが不思議なくらいの、運命の出会いでした!!
背中の君とは、学校も近いので、フラフラと後を付いていっても、怪しまれる事はありません。思う存分好みの背中を眺めながら歩く。
「ホウッ…」ウットリとため息を吐いてしまいます…。
これからは、毎朝この背中を探しましょう!毎朝、この背中に付いていきたいと思います!!
私が幸せ気分に浸って、明日からの楽園に思いを馳せていると、更に幸せな出来事が起こりました!
「おっはよー!彬!!」
背中の君に、同じ高校の制服に身を包んだ男子が、声をかけて肩を組んで行ったのです!
今日は、ご褒美デイですか!そうですか!!ありがとうございます!!!
「ああ…、おはよう。猛。」
「どうした彬、なんか顔、赤いぞ?」
「うっせぇ!」
悶 絶!!
背中の君が友人に挨拶を返しているのですが、その横顔が……何だか赤い!?
ふぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!
何ですか!?その表情!!
何ですか、その意味深な掛け合いは!!!
背中しか見ていませんでしたが、背中の君の横顔はとても整っていて、いわゆる美少年系のイケメンさんでした!大きな瞳に、長いまつげ。スッと通った鼻筋と、薄い唇。
身長も高く、私よりも20cmは高いんじゃないでしょうか?
イケメンから出る声も、やっぱりイケメンに相応しい、素敵な声で!
短く切りそろえられた髪も、高校生らしくて清潔感に溢れていて、二次元から出てきたような容姿をしています。
ご友人も、少し長めの茶髪が、やんちゃな雰囲気のイケメンさん。
身長は、背中の君ーーー彬君より少し高い位。背中の君に向けるニヤニヤした意地悪な笑顔が、私の妄想に火を着けます!!
まぁ、背中は普通でしたが…。
背中の君!あなた程、私の理想のドストライクを打ち抜いた方は、初めてです!!不肖、“ストーカー予備軍”の私、茅野 文香!
今日から、あなただけのストーカー予備軍にならせていただきます!!
背中の君のストーカー予備軍になって、早数日。私は毎日、彼、彬クンの背中を見つめております。運の良い事に、帰りも一緒の時間になる事が多く、あの背中と、友人との素敵なじゃれ合いを眺める事ができています。
どうやら彬君は部活をしているらしく、毎日帰りが7時頃になるようなのです。私が、サークルに参加して、帰る時間にピッタリ合うんですよね!なので、あの日から私は、毎日サークルに参加してます。それまでは、週に2日程しか出ていなかったのですが、あの背中に会うためなら、それ位の時間の浪費は惜しく有りません!
皆様お察しの通り、私の入ってるサークルは“マンガ・文芸研究サークル”という、オタク臭満載のサークルです。活動内容は、集まって本(マンガ含む)を読むだけ。
とても良い時間つぶしになります。
そして、彼のやっている部活は、どうやら弓道のようです。お友達との会話を盗み聞きしていたので、間違い無いと思います。
これ、萌えポイント高し!!ですよ!
弓道をしているから、あの背中になったんですね、きっと!あの競技は、かなり背筋を使いそうですもんね!!
嬉しい事に、電車の中でも彬君は私に背中を向けている事しか無く、何時も間近で彼の背中を見つめる事ができるんですよ。
だいたい好みの背中を見つけても、席に座っていて見れなかったり、私の方を向いて立っていたりする事もあって、必ず背中を見れる事なんてないのです。でも、彬君の背中は、毎日、必ず、間近で見れるんですよ。
何だか運命を感じてしまいます!
その事を同じサークルの友人、鳥海 光チャンに話したら、「えっと……。それって…。」とかブツブツ言ってました。光ちゃんは、ぱっと見た感じは美少年に見えます。少年の様に短い髪と、あまり凹凸のない細い体、綺麗な美少年顔は長い前髪と、野暮ったい黒ぶち眼鏡で隠しているのです。
そして、とても秀才さんなのです。私には光ちゃんの話している事は、理解できない事の方が多い位です。
今も、私の話に何か気になる事があるようですが、私には光チャンの考えている事はいつも解りません。
いつも必要だと思ったら、説明してくれるので、それまでは気にしなくて良いと思います。
そうして、私が彬君の背中を見つめ始めて2週間が経ったのですが…。今、私にはとんでも無い出来事が起こっています!
私は今、彬君の胸に抱きしめられているのです!!彬君は、背中だけじゃなく、胸筋も素晴らしいものをお持ちでした!!
…じゃ、なくて!
何故こんな事になっているかと言いますと……。
いつものように電車に乗って、いつものように彬君の素敵な背中を堪能していたら、突然電車が大きくゆれて止まってしまったのです。
あまりにも突然過ぎて私は態勢を崩してしまい、さらに、近くに居た同じように態勢を崩したOLさんが、思わずと言った感じで私の腕を掴んできたのです。「あ、これは確実にコケル。」と、思った瞬間には強い力で反対の腕を引かれ、気付くと彬君に抱きしめられていたのです。
私に背中を向けて立っていた彬君が、どうやって私の状態に気付いて助けてくれたのか……。不思議な事もあるものですよね。
周囲では、かなりの人たちが倒れていたりするのですが、彬君は片手で吊革につかまり、片手で私を抱きしめた状態で、安定して立っています。武道を嗜む人は、下半身が安定すると言いますが、彬君もきっとそうなんでしょう。
それにしても……。
彬君の腕の中は、とても気持ち良いです…。なんだか安心するし、だんだんウットリしてきちゃいました。
気付いたら、彼の胸元のシャツを握りしめて、おでこをスリスリしちゃってましたよ。今の私って、間違いなく痴女ですよね?
どうしましょう?
離れた方が良いのは解っているのですが、居心地が良すぎて離れられません…。
そして何故か、彬君の腕も私を抱きよせたまま、離れないんですよね。しかも、私の頭に顔を付けていませんか?
「はぁ、可愛い……。しかも、すげぇ良い匂いするし…。反則だよな、この可愛さ…。」
良い声が頭の上から聞こえてきます。彬君の声でしょうね、きっと。
でも、何の事を言っているのでしょうか?私に話しかけている様ではないので、たぶん独り言なのでしょうが…。
いまいち何を言っているのか解らないので、胸に押しつけていた顔を離し、彼の顔をジッと見上げてみました。
あ!!私ったら、まだお礼も言ってないじゃないですか!
「あの、ありがとう、ございます?」
何故、疑問形なのですか、私?でも、なんて言ったらよいのか、解らないんですよ。
「迷惑おかけしました」と言った方が良い気もしますし、「助けてくれてありがとう」と言うのも、助けるつもりだったのかハッキリしないのに、違う気がするし……。
私の中途半端なお礼を受けて、彬君は大きな瞳をさらに見開いて、私の顔をジッと見つめ、次に真っ赤になってしまいました。
真っ赤になった彬君!すごい、可愛いです!!
でも、何故真っ赤になっているのでしょう?不思議に思いながら見つめていたら、「もう、ダメ。もう、無理!」と声が聞こえてきました。
なにがダメで無理なのでしょうか?
思わず彬君の顔を見つめたまま首を傾げてしまうと、また、今度は両腕で抱きしめられてしまい、私の肩に彬君のおでこが乗せられます。
「好きです!茅野 文香さん、俺と付き合って下さい!!」
ほよぉぉぉぉぉおおおお!?
なんですとおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!
こ、告白されちゃいましたよ!?これは夢ですか!!??
夢でも構わないので、お返事しちゃいましょう!このチャンスは逃してはいけません!!しかし、私の嗜好はちゃんと伝えておかなければ!!!
あとでバレて嫌われたら、立ち直れませんからね…。
「私は、背中が大好きな変質者ですけど、それでも良いんですか?」
「知ってます!俺の背中が好きなのも!!」
「え!?(なんで、ばれてるんですか!!??)」
「俺と付き合ったら、俺の背中、文香さんの好きにできますよ?毎日でも、抱きついても良いんですよ!?」
「!!付き合います!!!」
彬君の背中、ゲットだぜぇ!!
この日私は、周囲で巻き起こっている混乱を丸っと無視して、初彼氏をゲットしたのでした。
R18になりそうで、ヒヤヒヤしました。
何とか軌道修正しながら、ポヤポヤした話に……なったかな?
次の彬視点も頑張って、ほのぼの目指します!!