第二十話 創造の力
エレンは、三百年前に天国塔を登り、願いで天使になった。だが、天使になった時のエレンの年は、まだ十代半ばの年頃の少女だったのだ。
たかだか十数年程度しか人と関わっていなかったのに、その状態で三百年の月日が流れたのだ。精神年齢も三百年前の人間だった時とさほど変わらない。それに、大切な人との別れは母親以外は経験していないのだ。
なので、もし誰かと友達になったりした場合──突然来る『別れ』というものに、心が耐えられるはずもない。
いわば、エレンは子供のままなのだ。人と関わってきた経験が極端に少なく、友達も今まで作れる状況ではなかった。精神的にも成長しきっていない十代半ばの少女よりも子供なのかもしれない。
レイコはそう考え、エレンの心を暴いたのだ。エレンの心の在り方について黙っておくべきかと思ったが、エレンの寂しそうな表情を見てしまい、思わず指摘しまった。
「……二人共、もう大丈夫よ。ありがとう。みっともない所を見せて、ごめん」
エレンにそう言われ、ルビアとレイコはエレンに回していた腕を放す。恥ずかしそうな表情をしたエレンが二人の目に映った。
ルビアとレイコはエレンのその表情に驚いた。出会って初めて見せる、“人間らしい表情”をエレンがしていたからだ。
レイコは本当の意味で、今初めて、エレンと仲間になれた気がした。ルビアも同じ気持ちなのか、嬉しそうな表情をしている。
「……あんまし道草食ってる時間もないから、先に進むわよ」
エレンがそう言い、歩き始める。ルビアとレイコも、エレンに着いていく。
先程までの道中とは違い、エレンの発する雰囲気は柔らかいものになっていた。エレンの心境の変化だ。
「そういえばエレンちゃん。さっきの水晶での戦いで大分魔力を消耗したんじゃない?身体の方は大丈夫なの?」
レイコがエレンの身体を心配する。エレンは少し疲れた顔をしていたが、レイコに答える。
「少し疲れてるけどまだ大丈夫よ。早くクロエに追いつかないと」
「そうね。でも辛かったら私とルビアちゃんに言ってね。遠慮は駄目よ」
「わかってる。頼りにしているわ」
「……なんだか急に素直になったわね。いつもの仏頂面じゃないエレンちゃん」
「……うるさいわね、レイコ。そういうあんたはさっきからニヤニヤしすぎよ」
「だって、やっとエレンちゃんと本当に仲間になれた気がしてるもの。それが嬉しくてね。ルビアちゃんもそうでしょ?」
レイコがルビアに話を振る。だが、ルビアは真剣な表情で考え事をしており、ブツブツと小言を口にしている。
「……どうすればもっと強く……私の剣術はきっと父よりも上。……でも私は魔法を使えない。なら剣以外に私が強くなる方法はない。でも剣だけじゃ、クラディウスみたいな強さには追いつかない。だとしたら、一体どうすれば……」
ルビアの独り言が聞こえたエレンはルビアに話し掛ける。
「大丈夫よ、ルビア。あんたは充分強い。それにクラディウスと戦うのは私だから」
「……でも」
「そもそも神器を使う存在に只の人間が追い抜くのは絶対に無理なのよ。私は一度、地獄でアウローラ様と戦った事があるけれど、神器のもたらす力は……次元が違うわ」
「だとしても私はもっと強くなりたいんです!でも、一体どうすれば……」
ルビアは人間が辿り着くであろう強さに辿り着いてると言っても過言ではない。無類の強さを誇る剣術に、常人では考えられないほどの素早さ。血の滲む努力をしたからこそ、今のルビアがあるのだ。
だが、魔法を使えないルビアは、どうやっても身体一つで戦うしかない。
これ以上どうやれば強くなるのか──それはとても難しい問題なのだ。
ふとレイコが思い出したのか、ルビアに話し掛ける。
「そういえばルビアちゃん。魔道具を試した事ってある?」
「いえ、ないですけど」
「なら私の家に魔道具があるから試してみる?」
「でも魔道具って魔法を使えないと使えないんですよね?」
「それは違うわ、ルビアちゃん。魔法を使えなくても基本的には人間には魔力が備わっているのよ。たとえ微小でもね。私達オリヴィエの一族は魔法を使えない人達に魔法を使う喜びを知って貰う為に魔道具を色々と開発したのよ。そして魔道具は、人間に流れてる魔力に反応して発動するの。だからルビアちゃんでも魔道具は使えるのよ」
「なるほど……なら、試してみたいです!」
「お安い御用よ。エレンちゃんも試してみる?」
「興味あるわね。後で色々と見せて頂戴。……え!?」
エレンがレイコにそう答えた時、突然エレンが驚き、立ち止まる。疑問に思ったルビアとレイコ。レイコがエレンに何事かと訪ねる。
「エレンちゃん、どうかしたの?」
「……前方からクロエがこっちに歩いてくる」
天使の目に切り替えたエレンは遠くの方の景色も視認できる。ルビアとレイコにはわからないが、エレンは天使の目のおかげでいち早くわかったのだ。
そして、ここでの問題は、なぜクロエが引き返してくるのか、だ。
「二人共、どうする?」
エレンは二人に相談をする。レイコとルビアは少し考えて、自分の考えを口にした。
「私は様子を見るべきだと思うわ。進むべき方向から戻って来るのなら、何かあると考える方が自然だもの。ルビアちゃんは?」
「私も様子を見るべきだと思います。何もなければわざわざ引き返す必要もないですし」
二人の意見を聞いたエレンは頷き、前方に目を凝らす──そこでエレンは気付いた。
「私達とクロエの間に転移装置があるわね。おそらく転移装置に向っているんじゃないかしら?でも、念の為に少し様子を見よう」
エレンはそう言うと近くの柱に向って歩く。ルビアとレイコもエレンの後に続いた。
クロエの様子を近くの柱に隠れて観察するが、やはり転移装置の前まで辿り着くと、クロエは転移装置に触れ天国塔の外に出てしまった。
エレンは二人の顔を見る。
「どういう事?なんでクロエは先に進まずにわざわざ戻って転移装置から外に出たのかしら?」
レイコはエレンの言葉に少し考えを巡らせ、ある可能性を提示する。
「多分なんだけれど、この先には転移装置がないんじゃないかしら?」
レイコの考えを聞いたエレンは、確かに考えられる一番可能性の高い答えに納得する。だが、もしこの先に転移装置が無いのであれば──。
「私達とクロエ以外に第四の試練より先に進んだ者はいない……?」
ルビアとレイコの話だと、ルビアの先祖が過去にオリヴィエの一族に依頼をし、天国塔の内部に転移装置を設置したという話だ。
だがもしも、この先に転移装置が設置されてないのであれば、転移装置を設置する為に天国塔の試練に挑んだオリヴィエの一族の者は、あるいは者達は、第四の試練で躓いたという事になる。
しかし今考えるべき問題はそこではない。もしこの先に転移装置がないのであれば──。
「堕天使である私は最上階に辿りつくのが非常に困難になる」
今までも聖域である天国塔の聖なる”気”──いわゆる聖気に体力を奪われ続けられていたのだ。現に今でも聖気に体力を奪われ続けられている。
天国塔の内部の転移装置から外に出て体力が回復したら、また先に進むという選択肢が取れなくなるのだ。
そうなるともはやほとんど詰んでしまっている。まだ確定はしていないが、先に進むのに必死なクロエがわざわざ引き返し、転移装置から外に出たのだ。相応の理由が無い限り、わざわざ引き返し天国塔の外に出る必要は無い。
どうするべきかとエレンは必死に考えを巡らせようとする。どうすればこの詰んでしまった状況を打開できるかと思考を働かせようとした所で、レイコが深刻な表情をしているエレンに声を掛ける。
「大丈夫よ、エレンちゃん。さっき話した魔道具の中に状況を打開する物があるわよ。少し癖のある魔道具だけれど、少なくともエレンちゃんが聖域に居続けても大丈夫な魔道具があるわよ」
レイコの言葉にエレンは心底驚いた。
「え!?本当に!?」
「ええ、本当よ。ただ私もどういう効果の魔道具かは知ってはいるけど、少しエレンちゃんが困る性能の魔道具でもあるのよ。後で実物を渡す時に説明するわね」
「わかったわ。とりあえず、私達も外に出よう」
エレンの言葉に、ルビアとレイコは頷いた。
◆
転移装置から外に出た瞬間、エレン達は目を見開き、絶句した。目の前の悲惨で壮絶な光景を理解するのに数秒掛かってしまう。
そこら中で炎が燃え盛り、人々の悲鳴がそこら中から木霊し、ノアの街が半壊していた。
「……なにこれ」
思わずそうエレンが呟いた時、ルビアが空を見上げて呟いた。
「……天使?」
ルビアの言葉にエレンとレイコは空を見上げる。街がそこら中で燃えてる為、黒い煙が空を覆っており、非常に視界が悪いが、物凄い数の天使が空を飛び回っている。
天使達は、魔法を街の人間達に放ったり、建物を燃やしたり、空まで人間を運び、手を離して落下させたり、等といった行動がエレン達の視界に映る。
「反逆者のエレンはどこだ!!」「裏切り者の堕天使を匿っているのは、お前か!?」「死ねぇぇ!」「反逆者のエレンが滞在しているだけでこの街は罪。裁くべき存在だ!」「どこだエレン!出てこい!!」等と、様々な天使達の怒声がそこら中から聞こえてくる。
「クラディウスめ、やってくれたわね。私を追い詰める為にこんな強行手段に出るなんて!!」
「エレンちゃん、ルビアちゃん、どうする?」
レイコの質問にエレンとルビアは考える。レイコの問いの「どうする?」とは、街の人間達を助けるか否か、だ。助ける場合、空を飛び交う物凄い数の天使達を敵に回すという事だ。更に街の人間達も天使達と戦いながら救助出来る人達は救助しなければならない。無論、全員を助けるのは不可能なのもわかっているが、助けないよりは、助かる人達が遥かに多いのは事実である。
逆に街の人間達を助けないと選択した場合。レイコの家に先程話していた魔導具を取りに行き、天国塔に逃げ込む事で物凄い数の天使達との戦闘を回避する事が出来る。レイコの地下室に横たわっている娘は、レイコの話だと、厳重に見つからないように色々な対策を施しており、魔法を放たれても崩れない程頑丈に作られているそうだ。
先にエレンがレイコの問いに応える。
「私はこの街の人を助けるわ。容易な事じゃないのはわかってる。でも、助けないと絶対に後で後悔するし、クラディウスのもとに魂が行くのを少しでも防がないといけないわ!」
エレンの言葉にルビアも続く。
「私もこの街の人達を助けます!皇帝である父の事は嫌いですが、この街の人達は悪くないです!ですから、一人でも多くの人を救いたいです!」
エレンとルビアの言葉にレイコは頷いた。
「わかったわ。なら、私も協力しましょう」
レイコは、自分の娘を蘇らせるのが目的だ。なので今、天使達と戦闘をし、もしも命を落としてしまった場合、娘を生き返らせる目的が果たせなくなる。レイコにとったら、街の人達よりも自分の家族である娘の方が大事なのだ。当たり前の感情である。
故にレイコはエレンとルビアに選択を託したのだ。二人がどうするかで、己の行く道を決める。主体性がないと言えばそれまでだが、そういう事ではない。
仲間だからこそ、二人に選択を託したのだ。
エレンとルビアはレイコの考えを理解した上で、街の人達を救うという決断をしたのだ。
「そうと決まれば早速……」
レイコがそう言い、行動を開始しようとする。が、エレンが慌てて止めに入る。
「ちょっと待って!ほんの少しで良いからどう行動するか考えさせて!」
エレンは目を瞑り、物凄い思考速度で必要な事を考える。
まず、天使達と戦闘し、天使達の進軍を止めなければならない。次になるべく多くのノアの街の人達を助けなければならない。
それらの目的を果たす為にはエレン達三人だと明らかに人手が足りない──故にエレンがまずやるべき事は。
エレンは詠唱をし、自分が召喚出来る魔獣を全て召喚する。ブラッド・モルフィン、ブラッド・ペガサス、ナイトメア・バッド、ナイトメア・フェニックス、デス・スコーピオン、デス・ホース、ヘル・ケルベロス、ヘル・タイガー、ルナティック・ラビット、ルナティック・レオ、ダーク・タウラス、ダーク・アリエスを召喚した。名前はシルヴィアの趣味らしい。そして、召喚した魔獣達に特殊な言語で何かの内容を伝えた。魔獣達に伝え終え、エレンはルビアとレイコに向き直る。
「ルビア、レイコ。目的を果たす為に人手が足りないわ。だから、私の魔獣達にも手伝って貰うわ」
「それはいいけど、私とルビアちゃんじゃ、エレンちゃんの召喚した魔獣達とは意思疎通が出来ないわよ?」
「ああ、それね。大丈夫よ。今、魔獣達の言葉がわかるようにするから」
エレンはそう言うと新たに詠唱をし、ルビアとレイコに魔法を掛ける。
「今二人に掛けた魔法は魔獣達の言葉がわかる魔法よ。試しに何か話し掛けてみて」
エレンにそう言われ、まずはルビアがブラッド・モルフィンに話し掛ける。
「あの、私達に力を貸してくれますか?」
ブラッド・モルフィンはエレンの方をチラッと見てルビアを見る。
「モチロンダ。アルジノメイレイダカラナ。ルビア、トイッタカ、ヨロシクタノム」
傍から見たら魔獣がギチギチと口を鳴らしてるようにしか聞こえないが、エレンの掛けた魔法のおかげで魔獣の声がちゃんと聞き取れた。
レイコも試しに魔獣に話し掛けてみる。
「私の名前はレイコ。よろしくね。あなたのお名前は?」
レイコに話し掛けられた魔獣が答える。
「ワタシハ、ナイトメア・フェニックス。ワガチカラヲゾンブンニツカウガイイ」
エレンは魔獣達に特殊な言語で話し掛ける。ルビアとレイコもエレンが掛けた魔法のおかげで、エレンの発する特殊な言語の内容を聞き取れた。
「私は今から空にいる天使達の相手をする。だから、街の人達を助けてる余裕はないわ。戦闘に集中するから。だから皆は、ルビアとレイコと協力して街の人達を助けてあげて。地上は任せたわよ。その変わり空は私に任せなさい」
エレンの言葉に魔獣達は頷いた。
「ルビア、レイコ、街の人達は任せたわよ。あと、天使のあの姿は仮の姿なの。だから今から天使の本当の姿がわかるように魔法を二人に掛けておくわ。ええと、確か詠唱は……」
シルヴィアに教えて貰った魔法の詠唱を思い出す。シルヴィアから念の為と言われ、こういう魔法も教わっておいたのだ。
エレンに天使の本当の姿が見える魔法を掛けて貰ったルビアとレイコは空を見上げ空中を飛び交っている天使達を見る。二人共口を揃えて「気持ち悪い」と天使の本当の姿を見た感想を述べた。
「ありがとうエレンちゃん。とりあえず一段落したら、私の家に集まりましょう」
レイコはそう言い、ルビアとエレンが召喚した魔獣達と街の人達を助ける相談を始める。
「ルビアちゃん、別行動の方がいいと思うわ。私は空を飛ぶ魔獣と地上型の魔獣はそれぞれお互いにバランスよく連れて行くのがいいと思うの」
「はい!わかりました!あの、レイコさんの家って大丈夫なんですか?」
「少し離れた所に私の家ってあるじゃない?だから大丈夫だと思うわ。それに、家が潰れても地下の私の魔工房さえ無事なら問題ないわ。地下は頑丈だし、そんなに心配しなくて良いわ」
「わかりました!では、早速行ってきます!」
ルビアはそう言い、エレンが召喚した魔獣のうち、ブラッド・モルフィン、ナイトメア・バッド、デス・ホース、ヘル・タイガー、ルナティック・ラビット、ダーク・タウラスを連れていく。
ルビアが街の人達を助ける為に走り出す背中を見送って、エレンはレイコに話し掛ける。
「街の人達を助ける前にレイコに言っておく事があるわ。ルビアは剣があるから大丈夫だと思うけど、天使達は人間界の魔法が通用しないのよ。魔法で戦うレイコにとったら天使は天敵とも呼べる存在よ?どうするの?」
「その事なんだけど、エレンちゃんにお願いがあるの。地獄で習った魔法を二つ……いえ、三つ詠唱して頂戴」
「いいけど……ちょっとやそっと聞いただけじゃ地獄の魔法は使えないわよ?」
「いいから、お願い」
レイコにそう言われ、エレンは地獄の魔法のうち、三種類の詠唱をする。黒い炎を出す魔法と黒い炎の渦を出す魔法、黒い炎を矢の形状にして飛ばす魔法の詠唱をした。
「こんなものかしら」
エレンの詠唱を目を瞑りじっと聞いていたレイコはもう一つだけ質問をする。
「地獄の魔法って、基本的には炎系の魔法ばかりなの?どの詠唱にも同じような単語が二種類入ってるように聞こえたんだけど」
「基本的にはそうね。黒い光剣を出したり、黒い光の矢を出したりするのもあるけど、基本的には炎系の魔法しかないわ。レイコの言う通り、詠唱に入っている単語の二つは、炎の部分と瘴気の部分の詠唱よ。それと、シルヴィア曰く、炎は生命らしさ、だからほぼ炎系の魔法で統一されている、て言ってたわ」
「わかったわ、ありがとう。心配しなくて良いわよ。たぶん、なんとか出来るから。それじゃあエレンちゃん、また後でね」
レイコはそう言って、ルビアが連れていかなかった魔獣のブラッド・ペガサス、ナイトメア・フェニックス、デス・スコーピオン、ヘル・ケルベロス、ルナティック・レオ、ダーク・アリエスを引き連れ街の人達を助けに行ってしまった。
エレンは今のでなんとかなるのだろうか、と疑問に思ったが、レイコ本人は大丈夫だと言っているのだ。それにレイコは天才魔術師だ。魔法に関しての知識はエレンよりも詳しい。特に心配するような事はないだろう。
「さて……」
エレンはそう言い空を見上げる。天使達は先程と変わらず、ノアの街に対して残酷な暴挙を行っていた。
この莫大な数の天使達を相手にするには、今の状態だと明らかに魔力が足りない。先程の水晶の世界のクラディウスとの戦いでだいぶ魔力を消耗してしまったのだ。
故にエレンは自分の胸に手を当てた。
「使わせて貰うわよ、シルヴィア」
目を瞑り、己の身体の中にある神器・偽の力を呼び起こす。
そして目をスッと開き、再び空を見上げる。
「いいわ。悪魔にはまだなれないけど、堕天使としての全力を出してあげる」
エレンはそう言い、神器・偽の力を解き放つ。
力を解き放った瞬間、物凄い力の渦が身体中を駆け巡る。
「……凄い。身体の奥から力が溢れて来る。でも、なるほど。シルヴィアの言っていた通り、力加減を間違えると大変な事になるわね」
エレンは少しだけ神器・偽から溢れる力を調整した。黒い翼を広げ、空中に上がり、街全体を見回す。
「まずは街中の火を消さないと」
エレンは街全体の燃え盛る炎を消す為に水を降らせる魔法を想像する。シルヴィアの話だとエレンが神器・偽の力を使った場合、エリザベードと似たようなことが出来る、としか聞いていない。
水の魔法の詠唱をしようとした時、目の前の光景にエレンは驚愕する。
「え!?嘘!?」
エレンは街の炎を消そうと水を降らせる魔法の詠唱をしようとした。だが、魔法の詠唱をしていないのにエレンの視界には街全体を覆う水を降らせる魔法陣が展開されていた。
「もしかして、今、私は魔法を創造した?」
驚きながらも、エレンは自分でやったであろう街全体を覆う魔法陣から、魔法を発動してみる。全ての燃えている箇所の炎が、水の魔法により消え去る。
街全体の燃え盛っていた炎が、一瞬で消えた。
エレンはすぐに順応し、次なる手を打つ。目を瞑りシルヴィアから地獄で習った魔法の一つを発動させた。
発動した魔法は、心眼の魔法と呼ばれる魔法だ。
エレンの頭の中に、街全体の情報が一気に流れこむ。生きてる人達、死んだ人達、街に暴挙を働いている天使達、ルビア、レイコ、自分が召喚した魔獣達、クロエ。
全ての街中のあらゆる存在の居場所と状況を瞬時に把握する。
そして、エレンは次なる魔法を使う。一度深呼吸をし、街全体に魔法の範囲が届くように意識を集中する。
「……対象を天使に固定。空に居る天使達は……範囲が広すぎて無理か。仕方ない、地上に居る天使達の動きを止めるのに専念。……発動」
言葉にしなくても魔法を発動出来るのはわかってはいるが、まだ神器・偽の力を使い始めたばかりだ。なんとなく言葉にした方が魔法を発動しやすかったので、口にして魔法を創造し、発動させる。発動した魔法はシルヴィアから地獄で教わった魔法の一つ、束縛の魔法だ。
束縛の魔法により、地上で暴挙を働いている天使達の動きが一斉に止まった。地上で暴挙を働いていた天使達は、いきなり謎の力によって身体がまったく動かなくなり物凄く戸惑う。
そして更に、街中の束縛の魔法で動きを止めた全ての天使達の目の前に、黒い光剣を創造し、出現させた。
全ての黒い光剣は、天使の眉間の間に切っ先が向けられていた。
エレンはすぐに黒い光剣を、動きを止めた全ての天使達の眉間の間に突き刺す。
束縛の魔法により動けずに、更に言葉を発する事も出来ずに、天使達は塵になって消えた。
「次は空の天使達ね」
エレンは刀身が黒い剣を抜剣し、黒い翼を羽ばたかせ、物凄い速度で空中を漂っている天使達の中に突っ込んでいった。
◆
「ルシファー様、もう気付いていると思われますが、ご報告が」
ルシファーに頭を下げ、報告する天使──力天使の隊長であるペリエルが報告を始める。
「反逆者のエレンを見つけました。いかがなさいますか?」
ペリエルの言葉にルシファーは少し考え込む。主であるクラディウスには戦闘になったら逃げろと指示をされている。だが、エレンを捕らえるのは簡単ではないだろうというのがルシファーの意見だ。
なるべくなら、部下である天使達の犠牲を出したくないが、おそらくエレンを捕らえるとしても多少の犠牲は出てしまうはずだ。
なら──と、ルシファーはペリエルに指示をだす。
「エレンを捕らえるのがクラディウス様の目的。だが、私達には戦闘になったら逃げろ、とクラディウス様は指示を出されたが、おそらく戦闘をせずにエレンを捕らえるのは無理だろうと私は考える。例えば、ノアの街の住人を人質に取って言う事を聞かせ、捕らえるといったり、不意打ちで捕らえたりするのも、私は出来ないと判断する。故に、クラディウス様が取り込んでいない部下の天使達をなるべくエレンに向かわせる事にする。後は戦況を見て、私が戦って捕らえると判断すれば、私がエレンを捕らえに行く。クラディウス様が取り込んでいない天使達は、クラディウス様が意に掛けていないという事だ。意に掛けていないという事は、クラディウス様はその部下の天使達はそこまで大事ではないという事。そういう駒を使って、エレンの戦闘力を計る」
ルシファーの考えにペリエルは頷いた。
「確かにルシファー様の言う通りかと。クラディウス様が意に掛けられなかった部下の者達は、そこまでの価値しかないという事かと思います。では、そのようにラファエル様とウリエルに指示をお伝えしておきます」
ペリエルはそう言い、ルシファーの元から離れた。ルシファーはエレンがいるであろう方向をみる。
「なんとしても捕らえてみせる。クラディウス様のご期待に応える為に」
ルシファーは決意する。何人の部下の天使達を犠牲にしてでも必ずエレンを捕らえると。
──自分さえ生き残って、主であるクラディウスの元に戻れれば、それで良い。
ルシファーの思惑がノアの街の空に密かに存在する事をエレンはまだ知らなかった。
◆
「凄い、力が溢れてくる」
街中の火を消したエレンは、エレンに気付き襲い掛かってくる何人かの天使達を瘴気を纏った剣で斬りながら、改めて神器・偽の力を実感していた。魔法の創造──それも、規模の大きい魔法でも関係なく創造出来るのだ。
空に居る何人かの別の天使達がエレンに気付き、奇声を上げながらエレンに襲いかかる。
「邪魔よ」
エレンは一言そう言って、突っ込んでくる天使達の目の前に瘴気を纏った黒い光剣を創造し、設置する。いきなり目の前に現れた黒い光剣に勢いをそのままに突っ込んだ天使達は瘴気によって一瞬で塵になって消えていった。
「さて、次は……」
どこを見ても空には天使がそこら中にいる。一体ずつ相手にしていたらキリがない為、とりあえず視界に入る天使達に片っ端らから黒い炎の球体を創造し、次々とぶつけていく。
地獄の魔法である瘴気を纏った魔法なら一瞬で天使達を殺せるが、やはり数が多すぎる。
それに魔法を連続で創造し、発動していて気付いた事がある。魔力を使わずに無詠唱で魔法を使えるのは非常に便利だが、魔法を創造する度に精神がすり減る感覚がある。少しずつ疲れてくるのだ。魔法は本来、空気中に漂っている魔素に、詠唱により発動したい魔法を空気中の魔素に働き掛け、魔力を魔素に通して魔法に変換し、魔法を発動する、という処理が行われている。それを、行程を全て飛ばして魔法を創造して発動しているのだ。
「なるほど、こういう風に疲れてしまうのがこの神器が不完全という証拠ね」
シルヴィアが言っていた八割の神器の完成度。力は本物の神器と同様にもたらしてくれるが、欠陥がある、という事だ。無限に魔力を消費せず、魔法を使えるという事ではない。
ならば、とエレンは別の力の使い方を今のうちに試してみる。
エレンは子供の頃に読み漁った書物の記憶の中から、銃火器の書物の記憶を思い出してみる。まずは手始めに狙撃銃を思い出してみた。右手には剣を持っている為、左手に握られるように狙撃銃を創造してみる。すぐに身体の中の神器・偽が反応し、左手に狙撃銃の形を創造していく。狙撃銃の各部品の一つ一つが創り出されていく。各部品の輪郭から形成され、中身が徐々に埋まり、どんどん組み上がっていく。
「……創造出来た」
エレンの左手に創造した狙撃銃が握られていた。剣を鞘に納め、引き金を引いて動作確認をしてみるが、本物を触った事がない為、動作確認してもこれで良いのか判断がつかない。銃の構造は書物で読んで完全に理解しているので、これで大丈夫だと思うが撃ってみないとわからない。なのですぐに弾丸も創造する。
エレンが創造した弾丸は、黒い色をしていた。弾丸を創造する際に瘴気を纏わせたのだ。
今創造したばかりの黒い弾丸を、創造した狙撃銃に装填し、狙撃銃を構える。距離が結構離れている一体の天使に狙いを定め、引き金を引いた。
ダアァァンッと銃声がノアの街に響き渡る。その様子に空に居る天使達と、一時的に天使達が居なくなった地上を逃げ回っているノアの街の住人たちが驚き、動きを止め銃声がした方向、すなわち空に居るエレンの方を見る。
そして、黒い銃弾に胸を貫かれた一体の天使が、空中で青い血飛沫を撒き散らしながら弾丸の瘴気に触れた事により塵になって消失していく。
「成功ね」
エレンはそう言い、創造した狙撃銃を消失させた。銃の先端からだんだんと消失していく。自由に創造し創りだす事も出来れば、創造したものは自由に消失させる事が出来るみたいだ。
「さすがに皆驚いたようね、まあ、それもそうか」
天使達も街の住人たちも銃声で動きを止めた理由。それは、今は銃火器はほとんど存在するはずのない物だからだ。三百年前、人間達と魔物が戦争をした時は銃火器は使われていたが、戦争が終わった後は銃火器の製造は廃止されたのだ。その理由は、魔法があるからだ。それに、銃火器類を製造するには資金と材料費が掛かる為、銃火器類は今はほとんど存在しない。博物館等、記念で展示されている場所を除けば、もうほとんど世には出回っていないのだ。少なくとも、このノアの街には絶対に存在しない。もし銃火器類を持っている住人が居たら、極刑になる制度も設けられている。ノアの街が禁止しているという訳ではなく、国が禁止しているのだ。
エレンが撃った銃声に驚き、空の天使達と街の住人達が動きを止めている中、エレンは次の行動に移る。今度は手動ではなく、自動で撃つ銃火器を創造する為に自分の記憶を思い出していく。
エレンが記憶を思い出している中、先に動いたのは空にいる天使達だった。空にいるエレンを見つけ、すぐ様戦闘態勢に入りエレンに襲い掛かる。それと同時にノアの街の住人達も動き出し、避難を再開する。
エレンは先程鞘に収めた刀身が黒い剣を再び抜き、襲いかかって来る天使達に応戦する。襲いかかって来る天使達に対応しながらエレンは創造を始めた。
空中に自動で撃つ銃を創造する為に自分の中の記憶を辿る。連続で撃てて、複雑な構造の銃火器──多銃身回転式機関銃を創造してみる事にした。
それと並行し、エレンは剣を持っていない左手に機関銃も同時に創造していく。
「なんだ!?何故銃がある!?どこから取り出した!?」
襲い掛かってくる天使の一人がそう叫んでいるが、エレンは無視して創造が完了した機関銃で周りにいる天使達に瘴気を纏った黒い弾丸をばら撒く。
瘴気を纏った弾丸に撃たれた天使達は塵になって消滅していった。それと同時に多銃身回転式機関銃の創造が終わる。
「さて、次の実験よ」
エレンが試そうとしている事は手動ではなく、空中で創造した銃火器を操る事が出来るかどうかだ。まずは当たり前だが、落下させずに空中に固定、もしくはエレンが望む通りに創造した銃火器を空中で移動させる事が出来るかの確認だ。そしてもう一つが、手動ではなく、空中に浮かせた状態で自動で銃弾を撃てるかどうかだ。
まずは試しに空中に浮いてる多銃身回転式機関銃を右に左に、と動かしてみる。
「動かすのは問題ないようね、なら次は……」
エレンが多銃身回転式機関銃を空中で動かしたりと試している間に、第二陣の天使達がエレンに襲い掛かってくる。丁度良く天使達がこちらに突っ込んで来てくれるので、エレンは多銃身回転式機関銃を空中で、なおかつ自動で撃たれるのかの実験をしてみる。
多銃身回転式機関銃に意識を向けて、頭の中で単純に発射、と考えてみる。
すると、独特の回転音と射撃音を響かせながら、破壊の権化が咆哮をあげる。
連続で放たれた瘴気を纏った数多の黒い弾丸が、エレンに襲い掛かろうと向ってくる数人の天使達を無慈悲に塵に変えていく。先程の狙撃銃で撃った瘴気を纏った弾丸を間髪入れずに連続で放たれているのだ。そんなものを解き放たれて、たかだか天使如きが一瞬でも耐えられる訳がなかった。ついでに視界に入る周りの天使達にも薙ぎ払うように銃口を向け、次々と天使達を塵に変えていった。
やがて、弾切れになる。多銃身回転式機関銃の咆哮が止み、空に静寂が訪れた。シーン、っと静まり返っている空の中、空にいる莫大な数の天使達に一言言う為に、エレン大きく息を吸い込み言い放つ。
「私はここよ!掛かってきなさい!」
エレンの放った言葉に声が聞こえる範囲に居た天使達が一斉にエレンの方を見る。かなりの数の天使達がエレンに気付いたようだった。
「いたぞ!反逆者のエレンはあそこだ!」
「捕まえろ!」
「逃がすな!」
右手に黒い剣、左手に機関銃を携え、背中から黒い翼を生やしている堕天使目掛けて、莫大な数の天使達がエレンに襲い掛かる。まだ少し距離はあるが、もたもたしていたらあっという間に距離を詰められてしまうだろう。
だが、エレンは神器・偽で出来る事について、いくつか確認したい事の確認を終える事が出来た。
まず、魔法を創造するのと、知識の中にある物体等を創造する際に、どちらがより疲れるかだが、明らかに銃器類等の物体を創造して創りだした方が圧倒的に疲れが少ない。と言うより、ほとんど疲れない。魔法を創造する際には必要な魔力を無視して創造し、魔法を発動している為か、ほんの少しずつだがだんだんと疲れてくる。
次に、創造する際に並列して別々のものを創造が出来るかどうかだ。これも先程、多銃身回転式機関銃と機関銃を同時に創造する事が出来た。一個一個創造する必要がなく、色んなものを同時に創造し、大量に展開が出来るという事になる。
あとは、創造する際には、エレンが構造を完全に理解しているものに限る、という事だ。知識にないものは、創造出来ない。魔法も銃火器類も関係なく、だ。
それらを踏まえて、エレンは新たな創造を始めた。どんどん頭の中に創造したいものの構造を思い浮かべ、次々に創造していく。そのついでに、先程創造した弾切れになった多銃身回転式機関銃の内部にも瘴気を纏った弾丸を創造し、弾を補充しておく。
エレンに襲い掛かろうとしている莫大な数の天使達がその光景に一斉に驚き、動きを止めた。
エレンを中心に莫大な数の銃火器類と魔法陣が展開されていた。
突撃銃、機関銃、多銃身回転式機関銃、狙撃銃、火炎放射器、誘導弾、大型滑空砲、無誘導弾射出器、
多弾頭誘導弾、超大型誘導弾、特殊弾倉型誘導弾、瘴気を纏った黒い炎の球体、黒い光剣、黒い光の矢──莫大な数の殺意に満ち溢れた凶悪なものが展開され、天使達に向けられていた。無論、全ての弾には瘴気を纏わせてある。
「出し惜しみは無しよ。全力を出すし、本気でいくわ」
天使達はエレンの剥き出しの殺意に、震え上がる。その光景を目の当たりにした莫大な数の天使達は恐怖の表情を露わにし、ガタガタと身体が震えだす。
自分達が神と崇めるクラディウスが自分を中心に莫大な数の魔法陣を展開し、魔法を発動させる光景を天使達は思い出した。エレンがやっている事は、クラディウスと似ているからだ。
自分達の主であり、神であるクラディウスが戦う時の莫大な数の展開された魔法陣の光景は、まさに神と呼ばれるに相応しい力だ。そして、天使達にとってはその姿は物凄く希望に満ち溢れたものだ。
だが、それをやられる側になればどうか。どれか一つでも当たれば自分達が必ず滅びる凶悪な殺意が、自分達に向けられているのだ。絶望するしかない。
天使達にとって、クラディウスが神なら、エレンは、自分達を必ず殺す悪魔に見えていた。
戦意を喪失した莫大な数の天使達に向け、エレンは創造した莫大な数の殺意の塊を一斉に放つ。莫大な数の瘴気を纏った銃弾と弾頭に、瘴気を纏った黒い炎の球体、黒い光剣、黒い光の矢がほとんど一瞬でその場で飛んでいた天使達を壊滅させた。
耳を塞ぎたくなるような、強烈で物凄い爆発音がノアの街の空に響き渡り、空が震える。物凄い規模の黒い爆風が起こり、エレンに気付いてなかった全ての天使達もエレンの存在に気が付いた。
だが、気付いたところで何かが出来る訳でもない。
天使達は、エレンの強烈な殺意がノアの街の空を支配している事にようやく気付く。ただただ、逃げ出したくなってしまう。しかし、エレンを捕らえなければならないという命令が下っている為、悲痛な顔をしながらエレンに戦意を向ける。
「じ、陣形を立て直せ!なるべく銃火器類を破壊するんだ!エ、エレンを捕らえるぞ!」
首が細長く、頭と身体が羽で覆われていて、脚が車輪のような形をしており、腕が植物のつるみたいに伸びている見た目の天使──主天使の隊長のザドキエルが、震える声で部下の天使達に命令をする。あんな殺意の塊をどうにか出来る訳がないと知りつつもどうにか陣形を立てる。
「よ、よし!か、掛かれ!」
震える声でザドキエルから出された号令により天使達は陣形を保ちながら、エレンが創造した銃火器類を破壊しようとエレンに特効をする。
「陣形を立て直しても、銃で撃たれたら終わりなのに。馬鹿ね」
エレンは呆れた顔で冷たくそう言い、適当な銃火器で向ってきた天使達を一瞬で一網打尽にする。一網打尽にされた天使達は、無論、塵になって消滅していく。天使達はもはややけくそだった。いくら陣形を組んだところで、なんの意味も成さない。
それと、エレンには恐ろしい所がもう一つある。それは、その場で動かずに向ってくる天使達を殲滅したのだ。まだ、攻めに入っていないのだ。
「そろそろこっちから攻めようかしら」
エレンの強烈な殺意が、ノアの街の空に居る天使達に牙を向く。莫大な数の創造した銃火器類と共に、エレンが移動を開始した。まずは手始めに近くに居た主天使の隊長のザドキエルに大型滑空砲から瘴気を纏った弾頭を撃ち、一瞬でザドキエルを塵に変える。
そこからは一方的な蹂躙だった。天使達も数が多いという一点においては、エレンに勝っている。だが、エレンの創造した銃火器類の前では数の優位はなんの意味も成さない。次々と瘴気を纏った弾丸と弾頭を撃たれ、一瞬で塵に変えられ、消滅していく。
エレンは創造した銃火器類を巧みに扱いながら、辺りを見回した。
「この辺りは片付いたわね。半分ぐらいは滅ぼせたかしら」
エレンは銃火器類の内部に瘴気を纏った弾を創造し、弾を補充しておく。その時だった。
「そこまでだ」
天使九階級の頂点である熾天使の隊長であるルシファーがエレンの前に現れる。
「……天使の総隊長のあんたもいたのね。確か名前はルシファー、だっけ?私が天国に居た時は一度も話した事はなかったけれど」
「そんな事はどうでもいい。貴様、その大量の銃火器はどこから持ってきた?この街にはそんなものはないはずだ。銃を浮かばせているのは恐らく魔法で浮かせているのだろうが、よくもそんなに大量の銃火器を手に入れたものだ。一体どこから持ってきた?」
なにか色々と勘違いをしているようだったが、エレンは無論、教える気はなかった。
「教える訳ないじゃない」
「まあいい。だが貴様の蛮行もここまでだ。この私が相手だ」
ルシファーはそう言い、全身が羽だらけの身体から二本の内、一本の剣を取り出した。
「この剣はクラディウス様からお借りした聖剣。この偉大なる力で貴様を滅ぼしてやろう」
ルシファーはそう言い、エレンに襲い掛かる。エレンは多銃身回転式機関銃で迎え撃った。
だがルシファーは全ての弾を回避をし、エレンの元に辿り着き、聖剣を振るった。エレンは瘴気を纏った剣で聖剣を受け止める。
「へぇ、やるじゃない」
「当たらなければ意味はない」
エレンは左手に持っている機関銃の銃口をルシファーに向ける。だが銃口を向けられた瞬間、ルシファーは一瞬でかなりの距離をエレンから取った。
(結構速いわね)
エレンは誘導弾、大型滑空砲、無誘導弾射出器、
多弾頭誘導弾、超大型誘導弾、特殊弾倉型誘導弾を一斉に放つ。黒い無数の弾頭がルシファーに向って飛んでいく。
だが、ルシファーはその場で動かず詠唱を始めた。
詠唱を終えたルシファーを中心に無数の魔法陣が展開されていた。
「私も本気を出すとしよう」
ルシファーは展開した魔法陣から無数の火炎弾を解き放ち、エレンが撃った弾頭を全て迎撃する。クラディウス程ではないが、ルシファーも大量の魔法陣を展開し、クラディウスと似たような事が出来るみたいだ。
全ての弾頭を迎撃されたエレンはルシファーを見据える。
「なかなかやるわね」
「ハッ、心にも思ってない事を」
ルシファーはエレンの言葉を鼻で笑い、再びエレンに襲い掛かる。ほとんど一瞬でエレンの目の前まで移動し、エレンに聖剣を振り下ろした。
だがエレンはその行動を読んでおり、ルシファーが目の前に来る前に、左手の機関銃の銃口を前に向けていた。そして、ルシファーが聖剣を振り下ろす前に引き金を引く。
無数の黒い弾丸がルシファーの羽だらけの身体に命中する。そのまま一瞬で塵になって消滅すると思われたが、ルシファーはそうはならなかった。身体に命中した瘴気を纏った弾丸の羽の箇所のみが塵になって消滅する。
なので、ルシファーは構わず聖剣をエレンに振り下ろした。
「!?」
弾丸が命中した為、そのまま消滅すると思っていたが、まさか聖剣を振り下ろして攻撃されると思っていなかったエレンは少しだけ慌てる。だが、ちゃんと振り下ろされた聖剣を瘴気を纏った剣を振るって弾く。
「ふむ、このままやれたと思ったのだが」
ルシファーが聖剣を振るいながらエレンにどんどん攻撃を仕掛けていく。エレンは剣でルシファーの攻撃を裁きながら、考えを巡らせる。
瘴気とは、聖なる存在に対し天敵と呼ばれるものだ。一瞬で塵になって消滅するのは、エレンの瘴気が天使達の聖なる気に勝っているからだ。シルヴィアから聞いた話だと天使は聖なる気によって瘴気に対してある程度の耐性はあるらしいが、瘴気がその耐性を上回った場合は聖なる存在は消滅するらしい。
だが、逆に言えば、耐性があれば耐えられてしまうという事だ。
先程の瘴気を纏った無数の弾丸が身体に当たってもルシファーは消滅しなかった。エレンの扱う瘴気を耐えれる、という事になる。
しかし、瘴気を耐えたからといって、身体に触れた瘴気が無効化になる訳ではない。ある程度は瘴気に苦しむはずだ。なのに、ルシファーは何事もなかったかのようにエレンに聖剣を振るい続けてくる。なにかカラクリがあるはずだ。
エレンはもう一度瘴気をルシファーの身体に当てる為に仕掛けてみる。ルシファーの振るった聖剣を破壊されるとわかった上で、機関銃で受け止め、無理矢理にだが、一瞬の隙を作り、瘴気を纏った剣でルシファーに斬りつける。
「む」
エレンに斬られた箇所の羽の部分だけ塵になって消滅する。エレンは破壊された機関銃を投げ捨て、すぐ様距離を取った。
「なるほどね、そういうカラクリか」
「……今ので私の身体の事がわかったのか?」
「ええ、わかったわ。耐性があるとしても瘴気に触れたらある程度苦しむはずなのに、あんたにはそれがない。それもそのはずよ。だってあんたの身体の羽の一枚一枚が鎧みたいなものなんでしょう?だから、瘴気が触れた羽の部分だけ塵になったのでしょう?」
「そうだ。よくわかったな。だがわかったところでなんだと言うのだ。貴様をこの聖剣でかすり傷でもつけさえすれば、貴様はこの聖剣の聖気には耐えられまい」
「それはどうかしらね?」
「強がりを」
「別に強がりではないわ。それにわかったところでなんだ、とか言うけれど、こうするのよ」
エレンはルシファーを囲うように上下左右、前後に無数の多銃身回転式機関銃をほとんど一瞬で創造していく。無論、全ての銃口がルシファーの方を向いていた。
「なに!?何もない空間に銃器を出現させた!?」
「耐えられるものなら耐えてみせなさい」
エレンは創造した無数の多銃身回転式機関銃を一斉にルシファーに撃つ。莫大な数の瘴気を纏った弾丸がルシファーを襲う。ルシファーの周りから独特の回転音と射撃音を響かせながら、破壊の権化が一斉に咆哮をあげた。
「くっ、これ程とは……」
無す術なく、ルシファーの身体の羽は瘴気の弾丸により、どんどん消滅していく。
「これで終わりよ」
エレンは創造した大量の多銃身回転式機関銃が弾切れになる前に、多銃身回転式機関銃の後ろに更に囲うように、大量の多弾頭誘導弾を創造しておいた。
弾切れになった多銃身回転式機関銃を消失させ、今度は無数の多弾頭誘導弾から無数の瘴気を纏った弾頭をルシファーに一斉に撃つ。
再びノアの街の空に、耳を塞ぎたくなるような強烈な大爆発が起こった。
「流石にこれは耐えられないはず」
エレンは油断せずに今のでルシファーを倒す事が出来たのかと、目を凝らす。天使の目に切り替え、少しの変化も見逃さないようにする。
よく見ていた時、徐々に風で流れていく黒い爆風の中に、エレンは何かを見つけた。
「嘘でしょう?」
身体中の羽が全て消滅したルシファーがそこには居た。背中から生えている三対六枚の翼以外、全ての羽を失ったいた。ルシファーの姿は、とにかく気持ち悪い姿をしていた。人の形をしてはいるが、全身が青黒い肉で出来ており、目も口も鼻も見当たらない。ただの人の形をした青黒い肉の塊の姿だ。その青黒い肉の塊の背中から、三対六枚の翼を全て広げ、空を飛んでいるのだ。気持ち悪い以外に、エレンは表現出来ないと思った。
「この姿を見たからには、必ず殺す。もう、貴様に慈悲は与えん。クラディウス様には悪いが、貴様を捕らえるのではなく、殺す事にする」
青黒い肉の塊の姿になったルシファーが殺意を露わにしながら、エレンにそう言った。




