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天国塔  作者: 前田瑠希
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第十三話 剣姫


「なるほどね。さっき外で見た武器を持った大量の人形は地下の子供の肉体と魂を守る為に配置してあるのね」


 地下からレイコの寝室に戻りレイコとルビアは先程と同様にベッドの側にある椅子に座り、エレンはベッドに腰掛けた。


「そうよ。死んだ子供の傷を塞ぐ為に人間の身体の構造を調べたから知識がついたのよ。それで人形を造ってみたら上手に出来たからこれは使えると思ってね。まあただの人形だけど、魔導機もどきみたいなものよ。それと治癒魔法は生き物に対してしか使えないから、死体の傷を塞ぐ魔法を習得するのはかなり大変だったわ」


 レイコは魔法でカップに入ったミルクを暖め直しながら言う。死者の傷を塞ぐのはかなり高度な魔法技術を要する。主に葬儀屋等に求められる魔法技術だ。エレンもその魔法を使えるのでレイコの苦労がわかるのだ。


 レイコが暖め直したミルクを受け取り、エレンはルビアを見る。


「さて、ルビア。今度はあんたの話を聞かせて頂戴。ルビアはクラディウスにどんな願いを叶えて貰いたくて天国塔を登っているの?」


 レイコの場合は別に天国塔を登りきる必要はない。ただ、神器を盗んだ妹のクロエを追って天国塔に入ったに過ぎない。だからレイコはクラディウスに叶えて貰う願いは無いのだ。


 ただ、ルビアの場合はちゃんとした願いがあるはずだ。願いが無ければ天国塔に入る必要は無いのだから。


 ルビアは静かに口を開く。


「今から話す私の天国塔を登る理由は、意地汚いし、醜い理由です。私はきっと、この中で一番馬鹿馬鹿しい理由で天国塔を登っています。それを踏まえて聞いて下さい」


 エレンとレイコは頷く。普段のルビアからは想像出来ない言葉だ。


「私は小さい頃に皇帝である父親に剣術を教えて貰ってました。父は剣術教室を開いて色んな子供に剣術を教えているんです。皇帝だけど、父は趣味で剣術教室を今でもやっているんですよ。それで、父の剣術教室には男の子や女の子、成人した男性や女性等、沢山の人がいました」


 エレンとレイコは静かにルビアの話を聞く。ルビアは話を続ける。


「そして私は、娘だったからなのかわからないのですが、他の人達よりも厳しく稽古をつけられてました。新しい剣技を父が教える時は最初の受け身は必ず私が受けていました。でもある時、私は父の剣を受けきれなくて左腕を骨折したんです。もちろん、本物の剣ではなく竹刀を使っていましたが……。それで私は左腕を骨折したから腕が治るまでは稽古を休むものだと思っていたんです。でも──」


 エレンがミルクを一口飲み、ルビアに先を促す。


「でも?」


「父は私が稽古を休む事を許してくれなかったんです。何故、骨折してるのに稽古を休んではいけないのかと私は父に聞きました。そしたら父は私にこう言ったんです。『ルビア、腕が二本あるのに何故休むんだ?右腕が使えるだろう』と。私はその時、『ああ、確かにそうだな』って思ったんです。ですが、その後の稽古で練習試合をしたんですけど、その練習試合で父は私の対戦相手にこう言ったんです。『怪我をしている相手でも容赦をするな。怪我をしている所をどんどん狙え。戦いになったら敵の弱点を狙うのは当たり前の事だ。だから容赦をするな』って言ったんです」


「言ってる事は正しいけど酷い父親ね」


「まあそうなんですけどね。それで対戦相手は男の人だったんですけど、試合が始まったら容赦なく攻撃してきたんですよ。最初は相手も冷静に、的確に弱点である私の左腕を狙って攻撃をしてきました。もちろん試合だから、私も真剣にやりました。でもやっぱり怪我をした状態だと勝つのは無理だと判断したんです。だから私は降参しようとしたんです。でもその時、対戦相手の顔を見たら降参する気がなくなったんですよ」


 レイコがルビアに質問をする。


「どんな表情をしていたの?」


「笑っていました。それも、相手をいたぶる事に快感を見い出した表情をしていました。弱い者いじめを楽しんでいる表情でした。対戦相手の男の人のその表情を見た時、私は物凄く頭にきました。その時、私は練習試合にも関わらず、殺意を抱いたんです」


「……それで?」


「相手が攻撃してくる中、私は不意をついて対戦相手の左目に竹刀を突き出したんですよ。そしたら──対戦相手の男の人の左目が潰れました。対戦相手の男の人は悲鳴をあげてたんですけど、私は竹刀を手放して両手で左目を抑えている男の人に容赦なく竹刀を振り下ろし続けました。何回か竹刀で攻撃していたら相手が降参したので手を止めたんですけどね……。それで、父は私にもの凄い形相で近付いてきて、私にこう言いました。『いくらなんでもやりすぎだ!ルビア、お前は……いや、もういい。お前はもう二度と稽古に来るな!破門だ!』って言われたんです」


 ルビアはミルクを一口飲み、話を続ける。


「私は父に褒められると思ったんですよ。父は『戦いなら容赦をするな』って言っていたので……。でも、目を潰すのはさすがにやり過ぎだったみたいですね……」


 ルビアは父親の言葉の通りに行動しただけなのだ。『戦いなら容赦をするな』という言葉は対戦相手にだけではなく、ルビアにも適応されるのだから。


 ルビアが話を続ける。


「それから私には、一つの目標が出来たんです。破門されたけど、父親に認めて貰いたい。皇帝である父を見返したい。だから私は、独りで旅に出たんです。違う街に行き、剣術を習って、また違う街に行き、違う剣術を習う。……そういう旅を続けていたらいつからか噂が立って、『剣姫』って呼ばれるようになりました。剣術をひたすらに求めているノア皇帝の娘だからなのか、そんな二つ名になったんでしょうけれど。それで充分な実力を身につけたので、このノアの街に戻って来たんです。この街に戻って来て、父の元に行ったら『天国塔の最上階まで辿り着く事が出来たら許してやる。お前の身につけてきた剣術が本物なら可能なはずだ』って言われました……だから天国塔に私は挑戦してます」


 話を終えたルビアはエレンとレイコの顔を見る。エレンはルビアの理由について考えてみる。正直、物凄くどうでもいい願い事だとエレンは思ってしまう。天国塔の最上階に辿り着いて、クラディウスに『父親に認めてもらいたい』なんて、命を掛けてまで叶える願い事なのだろうか?いくらルビアでもそんな馬鹿な事は考えないはずだ。


 きっとまだ何か理由があるはずだ。それは何だろうかとエレンは考える。ルビアは一体何を隠している?


 レイコがルビアに言った。


「ルビアちゃんは皇帝である父親の事が好きなのね」


「うーん……好きではないんですよね。ただ、認めて貰いたいというか……」


 あくまで言葉を濁すルビアにエレンは眉をひそめる。


 『皇帝である父親に認めて貰いたい』なんてそもそも嘘ではないのか。ならルビアは一体どうしたいのだろうか?


 エレンは今までの事を考えてみる。エレンは天国塔に入る前のルビアに声を掛けられた。そして天国塔をルビアと登り始めて、ヴァルキュリアとクロエに出会い、レイコが仲間になった。ヴァルキュリアを圧倒する程のルビアの実力。それは、ただ単に皇帝である父親に認めて貰いたいから身につけた実力なのだろうか?違う──そんなはずはない。なら、最上階まで登ってクラディウスに何を望むのか。


 そこまで考えた時、エレンはハッと気付いた。ルビアが望んでいるものは──。


「……フフフフ、ハハハハハ!」


 突然笑い出したエレンにルビアとレイコは驚く。


「エレンちゃん?」


「エ、エレンさん、どうしたんですか?」


「ごめんごめん。ルビア、あんたの望んでいるものがわかったわ。ルビア……あんた最高よ!」


 エレンの言葉にルビアは思わず黙り込む。レイコはわからないって表情をしている。レイコがわからないのも無理もない。ルビアの目的は恐ろしいと言えば恐ろしいのだから。しかもそれはきっと悪意とかではなく、純粋にそう思っているのだろう。だから恐ろしい。だがエレンにとってはルビアの理由は最高だった。


「ルビア、あんた……父親の事が大嫌いなんでしょ?それも多分、殺したいぐらいに」


「……エレンさん、私は──」


「ルビア、あんたは父親に認めて貰いたいんじゃなくて、父親を『見下したい』んでしょ?そしてその為に……クラディウスに『死んで下さい。そして私を神にして下さい』って願うつもりだったんでしょ?」


 レイコはエレンの言葉に吃驚する。ルビアは目を見開きエレンの顔を見た。


 エレンは言葉を続ける。


「ルビア、あんたは父親を“見下したい”が為に神になりたいんでしょ?そして見下され続けられるって屈辱を父親に与える。それがあんたの目的でしょ?そんな事、確かに言えないものね。と言うより、言いたくないものね。私がもしルビアの立場だったら、言いたくないもの」


 エレンはルビアの顔を見た。レイコもルビアの言葉を待っている。


 ルビアは目を瞑り、深呼吸をする。そしてエレンとレイコに笑顔を見せた。


「……ばれちゃいましたか。そうです。エレンさんの言う通り私は皇帝である父親の事が大嫌いなんです。私は神になりたいんですよ。それもただ父親を見下したいから。皇帝である父親より偉い存在になりたいんです。神になれば、ずっと父親を見下せますから。父は死ぬまで私に見下され続けられるんですよ?いい気味です」


 ルビアはそう言ってニコニコしていた。エレンはレイコに聞いてみる。


「レイコ、あんたはどう思う?」


「うーん……そうねぇ。私は好きにすればいいと思うわ。別に今の神を崇めてる訳でもないし。ルビアちゃんが神様になるのは面白いと思うしね。あ、もし子供を生き返らせるのに失敗したら、神になったルビアちゃんに叶えて貰うのも一つの手ね」


 レイコはそう言って頷いている。口ではそう言っているがルビアの事をちゃんと考えてそう言ったのだとエレンは思った。


 エレンは「そうだ」と手を叩いてルビアに提案をする。


「ルビア、ちょうど良かったわ。私ね、ずっと悩んでいたのよ。次の神をどうするか。誰が神になるのか、ってね。ちょうど良かったわ。あんたが神になってくれるなら私が神にならなくてもいいし。それに神様って色々と面倒臭そうだし」


 エレンはうんうんと一人頷く。ルビアが神になりたいのならちょうどいい。ルビアとレイコはエレンの今の言葉に困惑しているが、理由を話せばきっと納得してくれるだろう。


「ルビア、あんたの願いは私が叶えるわ。私がクラディウスを殺す。私の目的はクラディウスを殺し、天国の秩序を取り戻す事なのだから。……と、次は私の番か」


 さて、どこから話したものか。まずは三百年前の出来事から説明をしないとなぁ、とエレンは思う。


「まずはね──」


 エレンの話が始まった。三百年前の出来事は昨日の事のように覚えている。懐かしい感覚もあるが記憶は鮮明に残っている。

短くてすみません。


タイトルの読みは「けんき」でも「つるぎひめ」でもどちらでも好きに捉えていただければ。


ルビアの人間性について書いてみたかったのでこういう話になりました。


三人の中である意味、一番欲望に忠実かもしれませんね。

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