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天国塔  作者: 前田瑠希
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第十話 悪意


 エレンはレイコに質問を始める。


「まず、あんたは何者なの?」


 レイコはエレンの目をまっすぐ見て質問に答える。


「私はレイコ・オリヴィエ。オリヴィエの一族って聞いた事あるでしょう?」


「オリヴィエの一族?どこの一族よ?聞いた事ないわ」


 エレンは眉をひそめた。オリヴィエの一族などエレンは知らないのだ。ルビアが声を上げた。


「知ってるというか、かなり有名な魔術師の一族ですよね。確か、今の魔法技術や魔道具などを造り出した一族ですよね。この天国塔にある転移装置を造ったのもオリヴィエの一族なのは有名な話ですが……」


「へぇ。そうなんだ。なかなか凄い家系なのね。そのオリヴィエの一族の女が天国塔で何をしていたのか聞かせて貰ってもいいかしら?」


 エレンの言葉にレイコは頷く。


「そうね。助けて貰った恩もあるしね。本当はあなた達を巻き込みたくはないんだけど……」


「そういうのはどうでもいいから、話を聞かせなさい。特に神器について」


「わかったわ。私達オリヴィエの一族は代々ある物を守り続けていたのよ。私達オリヴィエの一族では秘宝と呼んでいるのだけれど……」


「なるほど。その秘宝とやらは神器の事かしら?」


「ええ、そうよ。そして神器は私達姉妹……私かクロエのどちらかが受け継がないといけなかったの。神器を守る者は代々高い魔力を持っている者が選ばれるのだけれど、私達の代では私とクロエの姉妹が一族の中で一番魔力があったのよ。そして、神器を受け継ぐ者を決める為に私とクロエは戦ったわ。結果は私が勝ったわ。でも──」


 レイコの言葉の続きをエレンが口にする。


「後になって、クロエに神器を盗まれた、と」


「そうよ。そして天国塔に逃げ込んだクロエを追って、私はここに来たのよ」


 ルビアは黙ってエレンとレイコの会話を聞いている。口を挟むつもりはないようだ。


 エレンはわからない事がまだあるのでレイコに対しての質問を再開する。


「あんたが何者なのかはわかったわ。でも、まだわからない事がいくつかある。あんたの目的、クロエの目的、なぜ神器をあんた達オリヴィエの一族が所持しているのか。これを教えて欲しいのよ」


「そうねぇ。まずクロエ……私の妹の目的はこの世界の“愛”を排除する事。男女の愛、親子愛、家族愛……全ての愛をこの世界から抹消したいみたいなのよ」


「ろくでもない性格をしているのね。なんでクロエは愛をこの世界から抹消したいのかしら?そんな概念的なものを抹消するなんて、無理でしょうに」


「クロエは人を愛する心なんて信じていないのよ。私とクロエはオリヴィエの一族の者にいつも比べられていた。姉の方の私は何をやってもちゃんと出来るのに対し、妹のクロエは何かをやらしてもちゃんと出来ない、って。クロエはずっと一族の者に馬鹿にされてきたの。そして、人間を信じなくなった。特に愛というものに対して異常なまでに憎しみを抱くようになったのよ。その理由は私も知らないわ。ただ、クロエは愛に対して悪意や憎しみを異常な程に持っているわ」


「へぇ。そうなんだ。それで魔導機を造りだして姉であるあんたから神器を盗み出したのね」


「そうよ。それと神器が何故オリヴィエの一族が所持しているのかは私にはわからないわ。オリヴィエの一族にまつわる文献にも神器については何も載っていないもの。ただ、代々オリヴィエの一族の秘宝である神器を守り続けなければならない──私はそう教わってきたわ」


「そう。それはわからないのね。まあいいわ。それでレイコ、あんたの目的は何?神器を守る役目であるあんたはただ神器をクロエから取り戻して守るだけ?それとも神器に宿っている莫大な力を何かの目的の為に使うのかしら?」


「……私には目的がある。それは神器を使わないと達成出来ないわ。でも、ごめんなさい。それはまだ話したくないわ」


「そう。ならレイコ、あんた私達と一緒に天国塔を登りなさい。クロエはきっとクラディウスに叶えて貰いたい願いがあるから天国塔に入ったのよ。魔導機ヴァルキュリアを起動させた時、クロエが言っていたじゃない。『全ての愛を壊しなさい』って。きっとクロエは“愛”を壊す為にヴァルキュリアを造ったのよ。でも魔導機でも“愛”を……全ての愛と呼ばれるものを壊せるとは思ってないんでしょう。だから天国塔に入ったんだと思うわ。そしてきっとクラディウスにこう願う。『この世界から愛を消してくれ』って。そしてクロエはクラディウスの元に辿り着くまでに我慢出来ないからヴァルキュリアで“愛”を壊す……要は人を殺しに行くって事ね。それにクラディウスに願った方が早いし確実だと思ったんでしょう」


「……そうね。私一人だとクロエを止めれないと思うわ。あなた達と共に天国塔を登るわ。……私に力を貸してください。お願いします」


 レイコはエレンとルビアに頭を下げる。


「レイコ、そんなに畏まらなくてもいいわ。ルビア、そういう事だからレイコと一緒に天国塔を登るけれど、構わない?」


「私は全然構いませんよ」


「わかったわ。そういう訳だからレイコ、クラディウスの元に行くついでにクロエの事に協力するわ」


「ありがとう。ところで私もエレンちゃんに聞きたい事があるわ」


「何かしら」


「あなたは人間なの?」


 レイコは先程、エレンが黒い翼を広げて空中に浮かんだのを目撃したのだ。人間技ではないその現象を目の当たりにしたら人間かどうか疑うのも当然だろう。


「私は人間じゃないわ。堕天使よ。どうして堕天使になったのかは後で話すわ」


 元々ルビアに話すつもりだった内容だ。レイコとも一緒に天国塔に登るのなら話しても構わないだろう。それに、神器に関係している人間だ。きっとレイコと出会ったのは運命なのだろう。それとも必然か。


 レイコの目的も気になる。もしも神器を使って良からぬ事をしようとしているのであればそれを止めなければならない。それも行動を共にする理由の一つだ。


「……さて、そろそろ先に進みましょう」


 聖域に居続けて身体が痺れてきているがまだ大丈夫だ。少しでも先に進みたいエレンはルビアとレイコと一緒に先に進む。







 聖獣と遭遇するが特に苦労する事なく先に進んでいく。レイコが加わった事により連携がとれて先に進むのが楽になった。聖獣が現れてもレイコが魔法で殺し、レイコの魔法で殺しきれなかった聖獣をルビアが殺す。エレンも一応警戒しているが特に何もする事もなく先に進める。楽だ。


「ルビア、レイコ。ありがとう。私はここの空間にいるだけで疲れるのよ。二人が聖獣の相手をしてくれるのは凄く助かるわ」


「エレンさん。そんな気にしないで下さい!無理はしてほしくないので」


「そうよ、エレンちゃん。聖獣ぐらいならいくらでも相手に出来るわ。クロエの事に協力してくれるのだから、これぐらい当然よ」


「二人共ありがとうね。ところでレイコ、さっき聞き忘れたんだけど」


「何かしら」


「あんたさ、さっきのクロエとの戦闘の時、手を抜いていたでしょ?」


「……気付いていたの」


「当然よ。あんた、無理やり魔法の威力を抑えていたでしょ?本気でクロエと戦っていなかった──そうでしょう?」


「驚いたわね。まさか気付いているとは思わなかったわ」


「一応聞くけど、なんで?」


「まあ簡単に言うなら、私自身が持っている魔力の量が莫大な量なのよ。それも私一人では持て余すぐらいの魔力なの。私が本気で魔法を使ったら、エレンちゃんも魔法に巻き込んでたわ」


「そうなんだ。凄いのね」


 その話をレイコから聞いてエレンはもしかしたら、と思う。クロエは姉であるレイコの莫大な魔力を脅威に思ったから、あらゆる魔法を消してしまう魔導機ヴァルキュリアを造りだしたのではないか、と。


(もしかして、ヴァルキュリアを造ったのは姉であるレイコに邪魔をされないようにする為?最初からクロエは天国塔に入り、クラディウスに願いを叶えて貰うつもりだった……?)


 エレンがクロエとヴァルキュリアについて考えていた時、前を歩いていたルビアとレイコが突然足を止める。


「どうしたの?聖獣の糞でも見つけたのかしら?」


「違いますから!エレンさん、あれ……」


 ルビアが前方を指差したのでエレンは前方を見る。前方にヴァルキュリアが立っていた。


「性懲りもなくまた出てきたわね」


 エレンはそう言い、クロエの姿を探す。だがヴァルキュリアの周りにクロエはいない。


 ヴァルキュリアはエレン達を見ている。まだ戦闘態勢には入っていないが、エレン達が近付いたら攻撃してくるだろう。


 エレンはヴァルキュリアと戦ったら間違いなく長期戦になると考える。聖域に居続けた今の自分の体力ではヴァルキュリアを退けるのは難しい。ここは仕方がないが転移装置まで引き返した方が良いだろう。ルビアとレイコに引き返そうと言おうとした時、ルビアが身につけている防具を脱ぎ始めた。もちろん、その行動を疑問に思ったエレンはルビアに聞いてみる。レイコもルビアの行動に首を傾げていた。


「ルビア、何をしているの?」


「少しでも先に進みたいんですよね?ヴァルキュリア相手にレイコさんの魔法は効かないですし、エレンさんも聖域に居続けて体力があんまし無いんですよね。なら、私が本気を出さないといけないと思いまして」


「なら、なんで防具を脱ぐの?」


「多分いけると思うんですよね」


 ルビアはエレンの防具を何故脱いでいるのかという疑問には答えず、次々と防具を脱いでいく。


 鎧の下に着ている薄着の服だけになり、ルビアはエレンとレイコにお願いをする。


「エレンさん、レイコさん。私に加速の魔法や防御魔法等の魔法を掛けてくれますか?多分このままでも大丈夫だと思うんですけど、一応念のためにお願いします!」


 ルビアが何を言っているのかあまり理解出来ないが、エレンとレイコは言われるがままにルビアに色々な魔法を掛けていく。


 エレンとレイコに魔法を掛けて貰ったルビアはトーン、トーンと何回かジャンプをしてヴァルキュリアを見据える。


「エレンさん、レイコさん、ありがとうございます!」


「……ルビア、もしかしてあれと戦うつもり?」


「はい!そうですよ!ではちょっと戦ってきますね!」


 エレンとレイコが答える前にルビアは全力で踏み出した。そしてエレンとレイコはすぐに驚愕する。


 ルビアは既にヴァルキュリアと戦闘を開始していた。先程までエレンとレイコの傍に居たのに、距離が結構あるヴァルキュリアの元にほとんど一瞬で移動したのだ。ヴァルキュリアも驚いた様子で慌てて両手を剣に変化させて応戦していた。


「……何が起こったの!?レイコ、今のルビアの動き見えた!?」


「いえ、見えなかったわ!」


 ルビアの動きはとにかく速い。エレンとレイコが掛けた加速の魔法だけではあそこまでの速さは出ない。先程、超加速の魔法を掛けてヴァルキュリアと戦ったエレンよりも速いのだ。それは加速の魔法を掛けなくても元々ルビアが速いという事だ。これがルビアの本気だとエレンは驚く。レイコも目を皿のようにしてルビアとヴァルキュリアの戦いを見ていた。


 天国塔に入った時にルビアが聖獣に後ろをとられて噛みつかれそうになった理由をエレンは理解した。警戒していなかったのではない。敵に後ろを今までとられた事がなかったのだろう。ルビアの過去の事をエレンは知らないが、もし修行の一環や他の戦闘を今までしているのであれば、戦った相手に後ろをとられる事はあの速さならまずありえない。天国塔に入るので防具を仕方なく身に付けたのだろう。ルビアの今までの知識にはない場所なので、生存率を上げる為に慣れない防具を着て天国塔に入ったのではないのだろうか。──全てエレンの憶測でしかないが。


 ルビアはヴァルキュリアの素早い剣技を捌いて次々と剣でヴァルキュリアの身体を斬りつけていく。ヴァルキュリアは徐々に圧され始めていた。


 ルビアの速さにヴァルキュリアは追いついていないのだ。ルビアの速さに必死に追いつこうとしているが、あまり意味がなくルビアに手痛い反撃を受けている。


「堅いですね。斬りつけてもすぐに傷を修復してしまいますし……」


 ルビアは呑気に独り言を呟きながらヴァルキュリアを何度も斬りつける。ヴァルキュリアよりも速いが、ルビアの剣技でもこれといった決め手に欠けていた。エレンは自分の剣を見る。


「ルビア!私の剣を使いなさい!」


 エレンは刀身が黒い剣を抜いて投げる。エレンの剣は弧を描きながら飛んで行き、ルビアの少し後ろの床に突き刺さった。


「エレンさん、ありがとうございます!」


 ルビアはヴァルキュリアに蹴りを喰らわして怯ませる。その隙にルビアは突き刺さったエレンの剣を手にとり、ヴァルキュリアと再び剣を打ち合っていく。


 二刀流になったルビアは斬撃の手数が多くなり更にヴァルキュリアを追い詰める。ルビアの猛攻撃に圧されてきたヴァルキュリアは両手の剣を盾に変化させた。それを見たエレンは疑問に思う。


(防御に徹するつもり……?)


 だが、エレンの考えは外れた。ヴァルキュリアは変化させた両手の盾でルビアの攻撃を凌ぎながら今度は右足を剣に変化させてルビアに攻撃し始める。エレンとレイコはヴァルキュリアの変化に驚いた。


「今度は右足を剣にした!?」


「エレンちゃん、多分ヴァルキュリアは学習しているのよ!」


「……ルビア、大丈夫なの」


 ヴァルキュリアの突然の反撃にルビアは驚くが対処をちゃんとしている。さすがにまずいと思ったのか、ルビアは後ろに下がりヴァルキュリアと距離を取った。


「うわわわ。そんなのありですか!?さすがに驚きました。どうしましょう……」


 ルビアはまたもやトーン、トーンと軽くジャンプをして考えている。


「うーん……」


 何も良い考えが浮かばないので仕方なく速さでごり押ししようと思い、ルビアは攻撃を再開しようとする。だがその時、突然ヴァルキュリアの動きが止まった。


 何事かとルビアが警戒しているとヴァルキュリアは急に振り向いて逃げていく。


「あれ?逃げちゃいましたね」


「ルビア、大丈夫!?」


 エレンとレイコはルビアの所に駆けつける。ルビアは申し訳なさそうにしていた。


「エレンさん、レイコさん、すみません!ここでヴァルキュリアを倒すつもりだったんですけど、逃がしてしまいました……」


「またチャンスはあるわ。ルビア、あんた……凄いのね」


「エレンさん、私の本気はあんなものですよ。ただ速いだけです。私よりも魔法を使えるエレンさんやレイコさんの方が凄いですよ!」


「ルビアちゃん、私達はどんなに頑張ってもあなたの速さに追いつけないわ。お互いにフォローしながら乗り切る事が大事なのよ」


「レイコさん、ありがとうございます!」


「レイコ、あんたいい事言うじゃない」


 ある程度雑談した後、ルビアは先程脱いだ防具を取りにいく。


 エレンはヴァルキュリアが何故ここに居たのかを考えてみる。おそらく、目的は足止めだろう。エレン達が居る場所はもうすぐ第二の試練がある階層だ。きっとクロエは第二の試練の部屋から先に進む為にヴァルキュリアを足止めに使ったのだろう。


 防具を身に付けたルビアが戻って来たのでエレン達は先を急ぐ。

この物語の登場人物で一番速いのはルビアです。


イメージ的にはるろ○に剣心に出てくる縮地を使うあのキャラみたいな感じです。


ルビアの盾がなんの役にもたっていない……どこかで盾使わないと……

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