「とてもつまらない話をしよう」
「とてもつまらない話をしよう
全く面白くもない話だ
とあるひとつの恋の話
叶わなかった恋の話だ
彼女は彼が好きだったのさ
幼馴染の彼のことが
小学校のときに彼に惚れて
ざっと十年は追っていた
誕生日にはプレゼント
彼の欲しいものを必死で調べて
帰り道に渡してやった
彼は笑顔で受け取った
バレンタインにはチョコレート
「義理チョコだぞ」ってそっぽ向くのは
心ばかりの照れ隠し
きみは笑顔で受け取った
やっと手に入れた映画のチケット
「一緒に見よう」って誘いたかったのに
恥ずかしくなって押し付けて
彼は笑顔で受け取った
浮いた話を聞くたびに
まさかまさかと浮き足立って
ただの冗談とわかったときには
心の底から安堵した
ずっとそんな感じだった
ふたりは並んで歩いているのに
心の距離は遠かった
彼の笑顔は遠かった
春が過ぎ
夏を終え
秋を越え
冬が開け
同じ季節を繰り返し
違う毎日が巡り過ぎ
一歩も踏み出すこともないまま
出会いと別れを堂々巡り
いつかいつかと思っていた
「今日こそは」という毎日だった
過ぎ去る時間にただ焦り
別れの時に恐怖して
「今度こそは」と気合を入れて
時間をかけて着飾って
あれやこれやと計画を練り
準備万全と臨んだ先で
彼の隣には誰かがいた
彼の傍にはもう誰かがいた
彼女よりもずっと綺麗で
彼女よりもずっと可憐で
彼女よりも魅力的で
着飾る彼女が霞むくらいに
非の打ち所のないくらいな
彼女の知らない女性がいた
彼女の知らない彼がいた
とてもお似合いのふたりだった
入り込む余地などまるでなかった
そうして彼女は失恋した
十年越しの彼女の恋は
儚いほどにあっさりと
容赦ないほどばっさりと
救われないままに終わってしまった
とてもつまらない話だったろう
君への私の恋の話さ」