プロローグ
けぶるくらいの雨の向こうに、かすかだけど橙色が混じってきている。もうそんなに永くは降らないかな。間もなく上がりそう。思ったよりも短い雨で、わたしは内心ガッカリしていた。だって三○分くらいしか降らないなんて、期待外れもいいとこ。
放課後。制服のまま、公園の隅っこにある四阿でぼーっと外を眺めているわたしは、きっと雨宿りしているように見えている。早く上がらないかなあ、って憂いてるんだと、そう思われている。
でも、ほんとのところはそうじゃなくて。
わたしは、雨が好き。
こうして、なんとはなしに雨音を聞いて、水溜まりができていく様を見ているのが、好き。とっても心地好い。
だから止んでほしいわけじゃなくて、むしろ止んでほしくないっていうことだ。
わたし以外には誰もいないこの公園は、住宅街に建っているから車通りはほとんどなくて、雨音だけがよく聞こえる。
今日は、帰りのホームルームが終わって、そのままひとりでここまで直行した。
夕方からところにより雨が降る予報だったけど、傘はわざと置いてきた。
途中で降りだすから、慌てて走ってしまった。
濡れてもいいって思っていたのに、馬鹿みたいだ。
それが可笑しくて、わたしは少しだけ笑った。
なんだか。
眠くなってきちゃった。
まったく慣れてない教室は窮屈で、こうして一人になったから安心したのかもしれない。あるいは走ったから疲れたのかな。
目をつむって、ベンチの背もたれに身体を預ける。クッション性なんてもちろんないけど、それでも、雨のなかはリラックスできるから不思議だ。
――と。
サァサァという雨音のなかに、芝生を踏む足音が、聞こえた。
目を開けると、わたしとおんなじ制服の女の子が傘を差して、わたしのほうに向かって歩いてきている。
誰? 傘で顔は見えない。
彼女は、四阿のところまで来ると、傘を少しずらして、わたしの顔を見つめる。
知っている顔だった。
「私の、左うしろのコだよね?」
栗色の髪をしたクラスメイトはそう言って、笑顔になった。名前は、まだ知らない人だ。
それから、その萌葱色の傘をわたしに向けて傾げた。
「入って。送っていってあげる」