第一話 きらびやかな世界
貴族が妖精界を牛耳っていた時代、約3000万人ほどいる庶民は年間およそ750万人が飢えなどで亡くなっていた。フラフラと歩く少女・エルナも例外ではなくなりそうだった。
「ああ、もうこんな所に──」
エルナがたどり着いたのは貴族や商人が華やかな暮らしをしている都の入り口だった。賑やかな声が聞こえる。
エルナはいつの間にか泣いていた。自分はここで野垂れ死ぬかここから出てきた商人に殺されるかのどちらかの運命を辿ってしまう。どうあがいても絶望的だというのに、もう歩けなかった。そのまま倒れ込んだ。
「──美しい娘さんだ」
「本当だな、これは安部乃上様の長男のお嫁さんにちょうど良い」
「だが、茶髪だぞ? しかも洋服だ。怒られるぞ」
「こんなに美しいからきっと大丈夫だろう」
ふと聞こえた商人らしき人物の声。エルナは耳をすまし、なんとか聞き取る。茶髪の美しい娘? このあたりに誰が……?
「名前はなんと言うんだ? 」
「!? わ、私、ですか? 」
なんとか顔をあげると、優しそうな顔つきの男性が二人いた。エルナは服と会話から考え、この人たちは安部乃上様という人に親しい人だろうと思った。
「エルナと言います……」
「ほら、洋名だ」
「おいおい、忘れたのか? とにかく嫁を見つけろって」
「とにかく、こんな所で放置しておくわけにはいかない。人助けだ」
二人はエルナを抱え、都に入っていった。都はエルナの見たこともない輝きにあふれていた。
「とりあえず、安部乃上様に会わせよう」
「ああ」
一際大きい建物に入る。そこの奥にエルナは連れて行かれた。
「安部乃上様、ただいま戻りました」
「御苦労。そこの、みずぼらしいおなごはなんじゃ」
「はっ、安部乃上様のご長男、信条様のお嫁様候補であります」
「ふうむ。この見た目だけではよくわからぬ。ちと立派にして参れ。そこの女中、このおなごを綺麗にするのじゃ」
「はい」
見たこともない服を着た安部乃上様という人にエルナは怯えていた。かつて自分を捨て、母親と出て行った父親。エルナは女中に抱き上げられても震えは止まらなかった。
「大丈夫よ、安部乃上様はあなたみたいな美しい人は嫌いにならないから」
「……ありがとう、ございます」
女中に濡れたタオルでふかれ、煌びやかな謎の服に着替えさせられた。髪もくしというものでとかれた。エルナは自分が飾られていくのに喜びがわいた。
先ほどの場所に戻ると、安部乃上様という人は笑顔になった。
「うむ、中々の美人じゃ。これなら信条のお嫁に相応しいのう。名は何という? 」
「エルナです」
「……和名を考えてあげよう。華野宮でどうじゃ? 」
「あ、ありがとうございます」
和名とは何なのか──エルナにはさっぱりだったが、これからがとても楽しみでたまらなかった。