杞憂
「この、科学の最先端を行く街、エリアは、太平洋上に浮かぶ人工島で、太陽光発電、風力発電、水力発電などによって全てのエネルギーをまかなっています。更に、何よりも発達しているのが、医学技術です。末期ガンすらも治すことが出来る、PAO、病人個人の細胞を使った新たな臓器の精製移植、更には事故などで失った身体の一部を復元させるマルチ・リバイブなどなど、あらゆる最新技術をエリアは保有しています」
スライドショーを使って、老いた女性教師が説明していた。
それを三十人ほどの生徒が見ていた。
生徒一人一人の座席に、モニターがついており、それには今のところ何も表示されていない。
教室にはプロジェクターが無く、スライドショーが表示されているのは、モニターであることが分かる。
黒板ではなくモニター、それが、この街の学校では普通だった。
「皆さんに今回勉強してもらうのは、個人の細胞を使った新たな臓器の精製の工程です。では、皆さんの机についているモニターを見てください。そこに、具体的な工程が映し出されます」
生徒たちが、モニターを見ているのを確認すると、女性教師は教卓についたボタンを押した。
「まず、ドナーから提供された臓器に細胞だけをを溶かす薬を使います。そうすると、タンパク質だけが残り、言わば臓器の骨組みだけが残るわけです。それに患者の細胞を移植し、増殖させていきます、すると、一個の臓器が出来上がるというわけです、自分自身の細胞を使うため、これを移植しても、拒絶反応は起こりません、以上がPAOの主な仕組みです。みなさん、質問はありますか?」
老教師は教室を見渡した。
「ないようなので、次に・・・」
「すいません、遅れました!」
そんな中、教室にいきなり入ってきた少年がいた。
「神谷君、早く席に着きなさい」
老教師は、特に起こった様子もなく、淡々と士郎に指示した。
「はい、すいませんでした」
士郎も特に悪びれた様子もなく、席に着く。
そして、老教師が説明を続ける。
しばらく説明が続き、チャイムが鳴った。
この街の学校でも、チャイムを使うというのは変わらない。
あの独特の音色も同じだ。
「どうしたの?士郎、遅れてくるなんて」
授業が終わり、心配そうな顔で聞いてきたのは、士郎の幼馴染のユリアだった。
ユリアは、綺麗な黒髪で、常人離れした容姿の女の子だった。(容姿端麗という意味で)
「うん、ちょっと追いかけっこをね」
追いかけっこ?とユリアは、小首をかしげた。
「う、いや、何でも無い」
士郎は適当にはぐらかした。この一ヶ月、あの少女に追い掛け回されていることを言うのには抵抗があった。
ユリアは、いまいち、納得できないような顔をしていたが、それ以上は追求せず話題を変えた。
「今日、レナちゃんを学校に迎えにいくんでしょ?」
「うん、転校初日でクラスに馴染めてるか、心配だからね,その確認も兼ねてさ」
神谷レナ、神谷士郎の妹だ。
今日からレナは、聖・ルーベルハイスクール初等部に転校生として入学することになっていた。
ちなみに、彼らがいる学校は聖・ルーベルハイスクール高等部だ。
つまり、士郎の妹の通う学校は士郎が通う学校の付属校なのである。
「それにしても、心配だな。クラスに馴染めてなかったらどうしよう?ああ、やっぱり今からでも僕が付いていって・・・」
「そんな心配しなくても大丈夫だと思うけど・・・」
「そうかなあ、そうだといいんだけど」
士郎は、そう言って、天井を見上げた。
シャンデリアのような照明が光っていた。
「そうだといいんだけど・・・」
もう一度、ポツリと呟いた。