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暗景

掲載日:2012/01/07

 空白の時刻表。

 月。

 曇った硝子。

 丸い街燈。

 一羽のカラスがとまっている。

 一人の老人が視ている。

 振り切り、乾いた交差点を歩き出す。

 店は閉まっている。

 路面にゴミが落ちている。

 これが『ヨノナカ』の実体だ。


 急に雪が降り出す。

 埃のような大粒の雪。

 積もる。積もる。積もる。

 明りも闇も、埋め尽くされる。底では、汚水を吸って重くなっている。

 僕はもがき、泳ぐように進む。

 車が猛スピードで行く。

 コートに、鞄を持つ手に、跳ね除けられた氷塊がぶつかる。

 モータリゼーション。

 歩道は、無い。

 田舎は不便である。

 バスが無いと明日が無い。異邦の者を排除する巧妙な仕組みの一つだ。

 もはや人の住む所ではないな、と僕は思った。いや、それが田舎というものだ、と僕はすぐに考え直した。そんな言葉遊びにも、すぐに飽きた。

 僕は自嘲気味に笑おうとして、失敗した。


 深夜に帰り着いた。

 静かな調度品が迎える。

 グラスを二つ出し、ウヰスキーを注いだ。

 薄い金色の輝き。

 ウヰスキーが創られるまでには、とてつもない手間と歳月がかかっている。一方、その末路はかのようなところである。

 哀れな気持ちをすり替えようと、僕はがらにもなく人類について考えた。

 僕は人間が嫌いだ。身分不相応な強さを持っているからだ。しかし、中には素晴らしい人間もいる。それらを総合して、人間とは「どうなのだろう」と考える。

 秒針の音が響く。

 グラスが重い。Gravity Glass。

 外は吹雪である。

 今夜も答えは見えなそうだ。

 それは云ってしまえば当たり前の事で、鏡も無しに自分の姿を視認できないことと同じだ。

「解かっているさ」

 僕はグラスを置き、ソファに横になった。

 眠りに堕ちる前、後ろ髪を引かれたような気がして、僕はテーブルの上を視た。

「ああ」

 空のグラスと満杯のグラス。過去と未来のように並んでいる。

 それを眺めていると、僕の頭に、ある一つの考えが浮かんで、消えていった。

 人類など、瞬く間に滅亡するのだろう。


 END


お読みいただき、ありがとうございました。

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