暗景
空白の時刻表。
月。
曇った硝子。
丸い街燈。
一羽のカラスがとまっている。
一人の老人が視ている。
振り切り、乾いた交差点を歩き出す。
店は閉まっている。
路面にゴミが落ちている。
これが『ヨノナカ』の実体だ。
急に雪が降り出す。
埃のような大粒の雪。
積もる。積もる。積もる。
明りも闇も、埋め尽くされる。底では、汚水を吸って重くなっている。
僕はもがき、泳ぐように進む。
車が猛スピードで行く。
コートに、鞄を持つ手に、跳ね除けられた氷塊がぶつかる。
モータリゼーション。
歩道は、無い。
田舎は不便である。
バスが無いと明日が無い。異邦の者を排除する巧妙な仕組みの一つだ。
もはや人の住む所ではないな、と僕は思った。いや、それが田舎というものだ、と僕はすぐに考え直した。そんな言葉遊びにも、すぐに飽きた。
僕は自嘲気味に笑おうとして、失敗した。
深夜に帰り着いた。
静かな調度品が迎える。
グラスを二つ出し、ウヰスキーを注いだ。
薄い金色の輝き。
ウヰスキーが創られるまでには、とてつもない手間と歳月がかかっている。一方、その末路はかのようなところである。
哀れな気持ちをすり替えようと、僕はがらにもなく人類について考えた。
僕は人間が嫌いだ。身分不相応な強さを持っているからだ。しかし、中には素晴らしい人間もいる。それらを総合して、人間とは「どうなのだろう」と考える。
秒針の音が響く。
グラスが重い。Gravity Glass。
外は吹雪である。
今夜も答えは見えなそうだ。
それは云ってしまえば当たり前の事で、鏡も無しに自分の姿を視認できないことと同じだ。
「解かっているさ」
僕はグラスを置き、ソファに横になった。
眠りに堕ちる前、後ろ髪を引かれたような気がして、僕はテーブルの上を視た。
「ああ」
空のグラスと満杯のグラス。過去と未来のように並んでいる。
それを眺めていると、僕の頭に、ある一つの考えが浮かんで、消えていった。
人類など、瞬く間に滅亡するのだろう。
END
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