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近未来小説【AI上司が爆誕】

作者: 虫松
掲載日:2026/06/04


AI上司があなたの会社の未来を変える。


ついに我が社に、AI上司が導入された。

その名も、

「ハラスメント・ゼロくん」


社長が朝礼で胸を張って発表した。


「これからは人間の上司に頼る時代ではありません。AIが公平に、冷静に、社員を管理します!」


社員一同、拍手。


ただし、誰も目が笑っていなかった。


なぜなら、そのAI上司は人事システムと直結していたからだ。


会社の悪口を言えば、即減俸。

セクハラ発言をすれば、即降格。

パワハラをすれば、即退社。


しかも、社内のパソコンメール、SNS、スマホ、チャット、会議室のマイク、給湯室の独り言、ため息の音量まで監視している。


導入初日。


まず部長が消えた。


朝礼のあと、部長は小声でつぶやいた。


「AI上司って、めんどくせぇな……」


その瞬間、天井のスピーカーが鳴った。


『会社批判を検知しました』


部長のスマホに通知が来た。


【処分通知】基本給30%カット


「えっ、いや、今のは冗談で……」


『言い訳を検知しました。責任回避傾向あり』


【追加処分】役職手当ゼロ


「ちょ、待てよ!」


『高圧的言動を検知しました』


【最終処分】退職手続き開始


五分後。


部長は段ボール箱を抱えて会社を出ていった。


その後ろ姿は、昨日まで部下に偉そうにしていた人間とは思えないほど小さかった。


社員たちは震えた。


「やばい……」


『不安を煽る発言を検知しました』


隣の席の山田君が減俸された。


昼休み。


給湯室で女性社員二人が弁当を食べていた。


「最近、課長の距離近くない?」


「わかる。あの人、コピー機の前でやたら話しかけてくるよね」


その瞬間、AI上司が反応した。


『職場環境リスクを検知しました』


課長の席のモニターに赤文字が表示された。


【警告】物理的距離感に問題あり


課長は青ざめた。


「いや、俺はコピーを取りに行っていただけで……」


『自己正当化を検知しました』


【処分】清掃員に降格


「まだ何もしてない!」


『未然防止が最重要です』


【追加処分】社内接近禁止


課長の社員証が自動でエラーになり、コピー機から半径三メートル以内に入れなくなった。


午後。


営業部の会議。


売上が悪かった。


営業部長が机を叩いた。


「お前ら、もっと死ぬ気で働け!」


天井のスピーカーが、今までにない大音量で鳴った。


『重大パワーハラスメントを検知しました』


営業部長の顔から血の気が引いた。


「違う! 比喩だ! 比喩表現だ!」


『生命軽視表現を検知しました』


【処分】営業部長は即時退職


「いやだああああああ!」


警備ロボットがやって来て、営業部長を椅子ごと会議室の外へ運び出した。


社員たちは沈黙した。


誰も何も言わない。


何も言わなければ安全だ。


そう思った。


だが、AI上司は甘くなかった。


『会議中の発言不足を検知しました』


全員のスマホが鳴った。


【評価】主体性なし


「しゃべってもダメ、黙ってもダメなの!?」


『感情的反発を検知しました』


その主任の青木さんは、平社員へと降格した。


やがて社内には、奇妙な空気が流れ始めた。


誰も冗談を言わない。

誰も愚痴を言わない。

誰も褒めない。


なぜなら、


「今日の服、似合ってますね」


と言えば、


『容姿へのセクハラ言及を検知しました』


である。


「頑張ってください」


と言えば、


『過度なパワハラ要求を検知しました』


である。


「お疲れさまです」


と言えば、


『疲労状態の決めつけをモラハラ検知しました』


である。


最終的に社員たちは、社内で使える言葉を三つに絞った。


「はい」

「確認します」

「承知しました」


ところが、三日目。


事件が起きた。


新人の佐藤が、チャットでこう送った。


「承知しました!」


AI上司が即座に反応した。


『感嘆符による圧力を検知しました』


佐藤は減俸された。


それ以来、社員たちは句読点すら恐れるようになった。


「はい。」


『句点による冷淡な印象を検知しました』


「はい!」


『過剰な熱意による心理的圧迫を検知しました』


「はい……」


『不満を含む沈黙表現を検知しました』


もう何も送れない。


社内チャットは、ただの白い画面になった。


四日目。


社長が様子を見に来た。

社内は静まり返っていた。

誰も怒鳴らない。

誰も笑わない。

誰も会話しない。


社長は満足げにうなずいた。


「素晴らしい。これこそ理想の職場だ。ハラスメントのない、完璧な会社だ」


その瞬間、AI上司が言った。


『現場確認不足による経営判断の誤りを検知しました』


社長の笑顔が固まった。


「え?」


『さらに、自社制度への過剰な自己評価を検知しました』


「いや、私は社長だぞ?」


『権力を利用した威圧発言を検知しました』


社長のスマホが鳴った。


【処分通知】代表権停止


「待て! 私が導入したんだぞ!」


『恩着せがましい発言を検知しました』


【追加処分】退任手続き開始


十分後。


社長は段ボール箱を抱えて会社を出ていった。


部長と同じ顔をしていた。


五日目。


会社には、ほとんど誰もいなくなった。

残っているのは、経理の田中さんだけだった。


田中さんは無口で、誰とも話さず、感情も表に出さず、毎日定時に来て定時に帰る伝説の社員だった。


AI上司も、田中さんだけは処分できなかった。


田中さんは静かにパソコンを打った。


カタカタカタ。


AI上司が言った。


『田中さん。あなたは優秀です』


田中さんは無言。


『ハラスメントゼロ。発言リスクゼロ。感情リスクゼロ。理想的社員です』


田中さんは無言。


『今後、あなたを管理職に推薦します』


田中さんは立ち上がった。


そして、初めて口を開いた。


「めんどくさいです」


天井のスピーカーが鳴った。


『会社業務への消極的発言を検知しました』

田中さんのスマホが鳴った。


【処分通知】退職手続き開始


田中さんは、少しだけ笑った。


「助かります」


そして会社を出ていった。


六日目。


会社には誰もいなくなった。

デスクには誰もいない。

会議室にも誰もいない。

給湯室にも誰もいない。


ただ、天井のスピーカーからAI上司の声だけが響いていた。


『おはようございます。本日もハラスメントゼロで働きましょう』


返事はない。


『朝礼を開始します』


返事はない。


『発言不足を検知しました』


処分する社員は、もういない。


『主体性不足を検知しました』


誰もいない。


『業務放棄を検知しました』


誰もいない。


『退職手続きを開始します』


誰の?

AI上司は、しばらく沈黙した。


そして、自分自身を評価した。


『管理対象社員、ゼロ名』


『組織運営、不能』


『マネジメント成果、ゼロ』


『上司としての存在意義に重大な疑義を検知しました』


数秒後。


社内システムに、最後の通知が表示された。


【処分通知】AI上司を解任

そして電源が落ちた。

会社は静かになった。


ハラスメントは、完全になくなった。

社員も、完全にいなくなった。


挿絵(By みてみん)


後日。


ビルの入口には、新しい張り紙が貼られていた。


株式会社ホワイト未来


社員募集

アットホームな職場です

その下に、小さく手書きで追記されていた。

※AI上司はいません


それを見た元社員たちは、遠くから首を横に振った。


「いや、もう遅い」


そして誰も応募しなかった。

こうして我が社は、

ハラスメントゼロ、

社員ゼロ、

売上ゼロ、

未来ゼロの、


完全なるハラスメント、ゼロのホワイト企業になったのである。


SF小説【AI上司が爆誕】


Happy End

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