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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

あめごのあらわれ

掲載日:2026/03/20

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 うわ~、なんだこの歌。

 いや、知ってる知ってる。歌自体は知ってるよ。最近のアニメのOPでしょ、これ。CMとかお店のBGMで流れているから、聞いてはいる。

 それでもこれは肉声、しかも自転車か車を運転しながら歌っているっしょ。やたら音が遠ざかっていくけれど、う~んカラオケなら24点くらいじゃない? 本人はいいけど、人様に聞かせるレベルじゃない、というか……まあ、とやかく思わないほうがいいかなあ。

 僕たちもふと、お気に入りの歌とか鼻で歌ったり、口ずさんだりすること、あるでしょ? 頭の中にきれいにおさめてます、という人もいるだろうけれど本当にできているかな?

 僕がお父さんから聞いた話なのだけど、耳に入れてみない?


 あめご、あめご。どうしてくるの。

 うたにふるえて、そちらへくるの。

 のどがほしくて、こちらへくるの。


 お父さんが、昔に聞いた文句らしいのだけどね、最近教えてくれたんだよ。

 あめご、というのは漢字で書くと「雨子」となる。雨になると、このあめごがやってくる可能性があるのだという。

 どうして雨の日にやってくるのかは、よく分かっていない。ただ、皆がじっとしていても勝手に音を立ててくれる雨という存在に、心惹かれているのではないかと伝わっているみたいだよ。

 姿かたちは分からない。中には見たといって、絵を描いてくれる人もいたけれど、人によって描くものはばらばらで、どこかで見た妖怪をモチーフにしたものばかりだった。

 ゆえにその人が見たという体で想像から描いているか、あるいは見た人によって姿が変わっているのか。

 けれど、あめごの存在に気付くすべはあるのだという。


 雨の中、ひとりで歩いているとき。

 ぱしゃん、と出どころ不明な水がはねる音が、立て続けに3回鳴るのが接近を知らせる合図らしい。あめごが近くまで来ている、という。

 その最中、気をつけなくてはいけないのが鼻と口の動向だ。

 そうと意識していなくても、勝手に動きかねないのだという。それは普段のまばたきと似て、自然極まりないものだ。

 そして歌い始めてしまう。耳に入るから、このときになるとさすがに気づく人も出てくるが、同時にとてもいい気分を味わうことになり、やめがたい。

 そうして防備を解いた身に、あめごはどんどんと寄ってくるのだとか。


 お父さん自身が、あめごに遭ったとおぼしき時を話そう。

 その日は習い事の帰りで、すでに陽も暮れかけていた時間帯。なのに、帰り際に外へ出るやぽつん、ぽつんと雨が降り出し、いくらも経たないうちに音を立てる本降りに。

 傘は持っていない。こいつは急がないと、とお父さんはすでに冠水し始めている道の上をばちゃばちゃ騒がせながら走っていたのだけど。


 ぱしゃん、ぱしゃん、ぱしゃん。


 思ったよりも近くで、明らかに自分のものでない水音が。

 真横、真後ろ、真正面。どの方向にも誰も、何もいない。この音の連続は、ゆったりとした足踏みを思わせるもの。逃げ出すようであるなら、なおも音は続いて遠ざかるのが普通だろう。

 このときお父さんは、すぐにはあまごのことに思い至らなかった。聞き間違いかと思い、ちょっとだけ止めた足を再びせっせと動かして、先を急いでいったのだけど。


 がは、と今度はせき込んだ。雨水がのどへ飛び込んできたんだ。

 そこではじめてお父さんは、自分が口を開いているのに気づく。あまつさえ、歌さえ歌っていた。

 歌そのものは音楽の時間で習った曲のひとつ。お父さんの学校の子なら誰だって知っているようなものだ。歌のうまさうんぬんは、ここでは重要なことではない。

 あまごに目をつけられている。その懸念がようやくお父さんの頭に浮かんだんだ。

 ぐっと、力いっぱい口を閉じにかかるも、かなわない。

 先に入った雨が気管支に入ったらしく、ゴホゴホと咳を止めることができない。それでも無理に閉じようとすれば、今度は鼻へ回ってきた。

 湧き上がる圧に痛む頭。それもおかまいなしに、噴き出るのはいつもの鼻水とは違う、さらりとした液体。おそらく雨水だろうが、周囲の降雨にさらされながら新たに飛び散った無数の水滴たちは、ほどなく形を勝手に整えだした。


 あれが、あまごというものならば、自分が見たのはカエルだった、と父親は語る。

 鼻から出たり、抑えきれずに口から飛び出したりした大小の水たちは、身体の色は透き通った水のまま、無数のカエルとなってほうぼうへ跳ねていったというんだ。

 それから家に帰るまで、止められなかった雨水たちはやはり同じようにカエルへの道をたどった。家に帰っても、今度はいくらうがいをしても、そこから数週間はすっかりのどがかすれてしまい、まともに声を出せない状態が続いてしまったとか。

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