5. 最大の後悔(10代)
それは10代の若き頃の過ち。
私の人生で最大の過ち。
取り戻したくて、取り戻したくて、それでも二度と取り戻せない、私の人生最大の後悔。
結局、人生最後まで引きずり続けることになった‥‥‥。
それは隣家の一人娘リアナとの物語。
私達は小さい頃からいつも一緒だった。
病弱だった母の唯一の友達はメイソン家の奥さんロアナさんで、メイソン家の皆さんは、母を失くしたあとも色々気にかけて声をかけ続けてくれていた。親しくなるのは必然な状況と言っていいと思う。
父親は知らなかっただろうが、私は良くメイソン家の夕食に呼ばれリアナと夜遅くまでくだらない話に花を咲かせていたものだった。
最初はご近所の幼馴染みとして、そして気の許した親友として、そのうちお互いの気持ちを受け入れた恋人同士になるのはさして時間がかからなかった。
私達は2人とも当然の如く結婚するつもりだったし、メイソン家のご両親も息子の様に可愛がってくれて全てがそうなるように運命付けられているさえ思っていた。
それが全て変わったのはうちの父親に結婚報告をしたあの日。
うちの父親はリアナの顔見るなり、
「はっ!? 職人の小娘風情が!」
と吐き捨てたのである。
あまりの事態に口をパクパクするしかない私。
いい顔をするとは思っていなかったけど、まさかそんなことを言い出すなんて想像すらしていなかった。
それでもリアナは、果敢にも、うちの父親を説得しようと色々説明を頑張る。
父親は、その言葉が聞こえていないかのように、まるでなしの礫であった。
後から知ったのだが、この時既に、ギルド長を父にもつルイベとの婚約話が本格的に進んでいたということ。
私は父親からのまさかの拒絶に絶望し、なにも分からなくなっていた。
リベルタでは父親からの家業を継ぐのが子の仕事。
もし父親に歯向かうということは、リベルタを離れ、新たな土地で一から実績を積み上げるということ。
それは自分にとって、1どころか0から何かを作り上げる様な途方もない話に思えたものだった。
リアナは、それでも、あなたには商売の才能があるし、私も付いて行くから一緒に駆け落ちしようとまで言ってくれる。
この時私達は16歳、まだ成人になったばかりであった。
その晩のことは今でも逐一、思い出すことが出来る。
リアナと落ち合うと約束した街外れの掘っ建て小屋。
私は直前まで、当然行こうとしていた、
が、なにかを察した父親が、わざわざ私の部屋までやってきて、一言を吐き捨てて出ていく。
「おまえ一人で何が出来るっつーんだ 笑 わしがいなけりゃあかの赤子となにも変わりゃしねーじゃねーか」
私はその一言に臆病風を吹かせ、自分の部屋から動くことが出来なくなっていた。
どうにかなるじゃないかという気持ちもあったものの、色んなことを考えてしまう。
父親の言うことを聞いておいた方が楽なんじゃないか。
本当になにも出来なかったらどうするのか。
リアナをつらい目にあわせるだけじゃないか。
俺は本当に、他の都市でも商売できるぐらい父親のスキルを学んだのか。
夜半から激しい雨が降り始め、ついには激しい雷鳴まで轟くような土砂降りになったのだった。
1人不安な気持ちで小屋で待つリアナのことを思うと、居ても立っても居られなくなるが、どうしても腰を上げる勇気が湧いてこない。
色んな考えが浮かんでは消え、消えては浮かび、いつまでもいつまでも決心することが出来ない。
いつの間にか嵐のようだった大雨がやんでおり、朝日が、窓についた雨粒をきらめかせながら、昇ってきているのだった‥‥‥、朝‥‥‥。
その陽光を拝んだ時は、自分の不甲斐なさと情けなさに絶望し、大声を上げ号泣するしか出来ることはない。
私は、私は! どんだけ小さくて軟弱な男なんだっ!!
リアナごめん、ごめんっ!! 泣
リアナとはその後顔を合わすこともなく、ロアナさんからは、慌ただしくルードの親戚の家へ嫁修行に行ってしまったと聞かされた。
私もその後すぐ、3歳年下のルイベと婚約をして、父親のスチュワート商会を手伝うことになるのだった。