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チャプター21

〜シュラーフェンの森 奥地〜


 二人がヘレンの家を訪ねてから、すでに三日が経っていた。ヘレンは相変わらずハーブの代金は体で払えと言うことで二人には家事労働などを要求していたため、動くに動けない状態だった。

 とはいえ、その実ヘレンは二人のことを気に入っており、まだ街に帰したくない一心で無理を言って引き留めているような状態であり、二人も薄々その気持ちは感じ取っていたので、まだ帰らなくてもいいか、という気持ちになっていた。

 何より、打ち解けてみると元々噂になっていた「偏屈な魔女」と言う評判は全くのデタラメであることが十分に理解できたので、一緒に過ごす時間が楽しくなっていったのである。


 この日も三人は籠を背負って森の中へ繰り出していた。

「ヘレンさん、今日も森で採取ですか?」

「ああそうだよ。この季節は植物の生育、特にきのこの育ちが早いからね、こまめに採取しておけば材料には困らないって寸法さ」

「それ分かります! 錬金術でも、そういう素材採取のタイミングっていうか、サイクルっていうか、そういうのが大事なんですよ! 新芽とそうでないのとだと出来上がるアイテムの品質や性質が変わってくるから、色んなタイミングで採取しておくことで、幅広い調合に対応するんです!」

 薬の調合などを生業にしているヘレンと、錬金術で何でもかんでもこさえてしまうフォルクローレとでは、微妙に事情が異なるのだが、大いに共感するものがあったようで、瞳を大きく見開いて自分のケースについて語っていた。

「そ、そうかい。ま、細かいことは全然違うけどね、その辺は一緒ってことなんだろうね」

 と、ヘレンも少し引きつつ相応の共感を見せていた。

「それで、今日は何を採るんですか? 手当たり次第取っちゃっていいんですか? それとも、何か素材を絞り込んで採取します?」

「そうさね……今日はこの葉を中心に採ってくれるかい? これはメモリアハーブと言って、気付け薬の材料にいいんだよ。そろそろ行商人が来る頃だからね、量をこさえておこうと思ったのさ」

「へぇ、メモリアハーブっていうんですね。錬金術の世界でもこの葉っぱは使いますけど、全然違う名前で呼ばれてましたよ。直接噛むとちょっと苦味が強いんですよね」

 腕を組みながら、昔を懐かしむように語るその様子に、ヘレンは目を丸くする。

「ア、アンタ、これを直接噛んだことがあるのかい! 全く、錬金術士ってのは得体が知れない連中だよ。アタシら薬を調合するモンはね、あまりの苦さに直接口にしちゃあいけないって伝わってたんだよ。アタシも、そうやって師匠に教わってきたのさ」

 ヘレンの常識からすると、薬の材料となるものは、そのままでは人間にとって毒になるものもあり、複数の材料を混ぜたり、成分を薄めたり、砕いたり煮出したりと、ひと工夫もふた工夫も加えてこそ薬効を発揮するものも多いものなのだ。それを、フォルクローレは素知らぬ顔をして直接噛んだという。似て非なる世界の住人であることを、またしても思い知らされるのであった。

 その価値観のズレは、エルリッヒも感じたようで、事もなげに語ってみせた様子には、流石に一歩引いてしまうのであった。

「フォルちゃん……錬金術士って、みんな齧るの?」

「いやぁ、流石にみんなじゃないよ。慎重派の子は、そういうことはしないし、素材を直接手で触ったりもしないから。だけどさー、いい錬金術士っていうのは、素材のことを肌身で感じて理解してる人のことを言うと思うんだよねー。あ、もちろん、明らかに毒ってわかってるようなのは別だよ? 魔物や獣は毒を持ってることもあるし、植物だってそう。いい素材にはなるけど、そこまで行くと流石に危ないってわかるからね。でも、このくらいだったら普通っちゃ普通だよ」

 ひとしきり語り終えると、満足げに額の汗を拭った。少し世間と外れているところもあるが、錬金術への情熱だけは本物なのだ。少なくとも、それはヘレンにも十分に伝わっていた。

 こういう、やりきったような感じを全面に出されると、周囲の者は素直に可愛く感じてしまうのだった。

「フォルちゃん、本当に錬金術士が好きなんだね。でも、そっか、錬金術士の中には、この葉っぱを齧っちゃう人が他にもいるんだね」

「全く、訳のわからない商売だよ、錬金術士ってのは」

 憎まれ口の後ろには、しっかりとした関心が見え隠れしているヘレンだったが、やはり自分で同じことをしてみようとは思わないのだった。若い頃であれば今よりも臆病だったし、今は今で、高齢であることは十分に意識している。もちろん、経験則からの慎重さも身につけているのだが。

「まぁでも、錬金術士としての生き方に口を挟むつもりはないけどさ、危ない素材もあるだろうから、そこは気をつけてよね」

「わかってるわかってる。その辺りは、あたしも本職ですからね、しっかりと見極めてやってますよ!」

 と、胸を張ってみせるが、これまた料理人であるエルリッヒからすると、見た目には判別の難しい素材もあると言うことをわかっているのかどうか、十分に怪しかった。

 少なくとも、数年の友達付き合いで、「うっかり」危険な植物を口にしてしまいかねないことを十分にわかっているので、一抹の不安がよぎるのだった。

「さ、話してるとあっという間に日が暮れるからね、おしゃべりはここまでだ。今日はもう少し奥まで行くよ。はぐれないようについておいで」

「はーい。さ、フォルちゃんもついてきてね」

 スタスタと森を分け入るヘレンに付き従って、娘二人も奥へ奥へと入っていく。


⭐︎⭐︎⭐︎


「……」

 それにしても、ヘレンは森の奥に迷うことなく進んでいく。何十年も住んでいるとはいえ、これだけ目印も何もなく、直感的に方角がわかるような野生の勘のようなものも持ち合わせてはいないであろうに、どこまでも迷いなく進んでいく。エルリッヒは、つい気になって訊いてみた。

「あの、いつも思っていたんですけど、ヘレンさんは、決まったルートを進んでいるんですか?」

「そんなふうに見えるかい? 決まったルートを歩いているんなら、足元に跡があってもいいだろう? それに、同じルートでだけ採取してたら、そこだけ植生が悪くなっちまう。いつも、風任せさ。でもね、長年住んでれば、木々の景色で家のある方角はわかるもんさ。少なくとも、アタシがこの森で暮らし始めてから何十年と経つけど、一度として迷ったことはないね」

 その話には、素直に感心する。長年住んでいる勘というが、この森で隠遁を始めたばかりの頃は、そのような勘は身についていなかったはずなのだ。

「ま、アタシからはぐれなきゃどうとでもなるからね、そこは安心をし」

「はい。助かります」

 いざとなったら元の姿に戻って飛び立てばどうにでもなる、と考えているエルリッヒとは、そもそもの考え方が違うようだった。

「二人とも、何を話してるの? あたしだけのけものですか?」

「いや、この森で迷うかどうかみたいな話をしてただけだから。それに、フォルちゃん、さっきからずっと森の様子に目を輝かせてたし、話に混ぜても悪いかなーって」

 背後を歩くフォルクローレは、森の奥に一歩分け入るたびに足元の素材に興奮していたのだ。「錬金術士の血が騒ぐ」ということにはどうにも抗えない様子だった。

「あははー。そりゃどーも。いやだって、この国に越してきてから何年も経つけど、この森はホントワクワクする素材ばっかなんだよー! ほら、あそこのキノコ! あんなの見たことない! どれどれ〜?」

「あ、このバカ!!」

 ヘレンの静止も聞かず、満面の笑顔で足元の木に生えるキノコをもぎ取ると、そのまま一口齧る。そして、口の中のキノコを嚥下すると、そのまま倒れてしまった。突如として、フォルクローレは昏倒してしまった。

「……ヘレンさん、これ……」

「そうだよ、毒キノコだよ」

 ヘレンの面持ちは、急に険しくなって行った。




〜つづく〜

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