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チャプター15

〜シュラーフェンの森 魔女ヘレンの家〜



 夜、三人は夕食のテーブルについていた。メニューはエルリッヒがヘレンと作っていた豆と野菜のスープをメインに、キノコ類の炒め物と少し固い黒パンという、質素だが決して貧しくない取り合わせだった。

「それじゃ、いただこうかね」

「はいっ!」

「やー!」

 三人は、手短に祈りを捧げると、めいめいメニューに口をつけた。ヘレンとエルリッヒは二人で手がけたスープの味を確認し、フォルクローレはパンをちぎって口に放り込んだ。

「ん、いい味だ。お前さん、口と手際だけじゃなかったみたいだね」

「信じてもらえましたか? 王都で食堂を切り盛りしてるのは伊達じゃないって」

 二人は料理の間中、お互いの手際に関心し合い、エルリッヒは王都での営業で高い実戦経験を積んでいることをアピールし、ヘレンは一人で長い間自分のために料理を行ってきたことをアピールしていた。その競い合いのような自己アピール合戦は、このスープの一口でノーゲームとなった。

「このパン、予想通りモサモサしますねぇ」

「あんたは、結局何も手伝わなかったねぇ」

 フォルクローレだけは、一人ノリと空気が違うかのように食事を楽しんでいる。そんな様子を見ながらヘレンは冗談混じりに呆れた様子を見せたが、実際のところ、皿を並べる程度の手伝いはしていた。正確には、させられていただけである。フォルクローレとヘレンの二人から詰められては、さすがのフォルクローレも食べるだけの係というわけにはいかなかった。

 しかし、それだけでもフォルクローレにとっては関与への充実感が高かった。

「お、お皿出したじゃん! 十分に手伝ってるよ!」

「そういうことじゃないよ。料理の方の話さね。何かやったかい?」

 狭いキッチンに三人が立つのは難しいが、それでも何も作っていないことを問われると、少し辛いものがあった。しかし、普段からちゃんとした料理はほとんどせず、料理すら錬金術で調合してしまうこともあるのだから、手伝わないほうが正解という考えもあり、エルリッヒはそれを知っていたからヘレンを止めたのであった。

 とはいえ、ヘレンはそんなフォルクローレの実際の姿は知らないので、手短にフォルクローレの普段の様子を想像するしかないのだった。

「う……」

「まぁまぁ。フォルちゃんに手伝いを頼まなかったのは私がそう言ったからですし、そこは言及なしでいいじゃないですか。お皿を出してくれただけでも十分ですよ」

「まぁ、あんたがそう言うんなら、そう言うことにしようかね。でも、明日は何かやってもらおうかね」

 あくまでも、ヘレンはフォルクローレに料理をしてもらいたい様子だった。その方針を崩さないのであれば、エルリッヒも何も言えず、そもそもがフォルクローレの都合でここを訪ねている以上、そこに拒否権はないのだった。これには、黙って頷くしかない。

「れ、錬金術でいいなら……」

「錬金術? あの怪しい術で料理が作れるのかい。そうだね、薬でも作ってもらおうと思ったけど、その前に腕を見せてもらうのも悪くないね。でも、失敗したら自分一人で食べること。いいね?」

「き、厳しい。フォルちゃん。できる手伝いはするから、頑張ってね。さ、そう言う話はここまでにして、ご飯が冷めないうちに食べちゃいましょうよ。ん、パンをスープに浸すと程よく柔らかくなって美味しいですね。味もちょうど良く混じって。こういうの、好きなんですよねー」

 普段はコッペパン通りのみんなが好むような味の濃いメニューを作る機会が多いが、こういう素朴な味や薄味の料理もレパートリーに入っており、メニュー表の隅にもしっかり書いてある。だから、そう言う味に触れて、少し嬉しくなるのだった。

「でも、私が王都風の味付けにアレンジしましたけど、これ元々は東北地域でよく見られる味付けですよね。と言うことは、ヘレンさんはその辺りのご出身なんですか?」

「若い娘が変に詮索するもんじゃないよ。あたしが今ここで暮らしてるってのが、回答の全てなんだからね。でも、スープの味で地域がわかるなんて、いい舌してるじゃないか。まだ出会ったばかりで大したことは知らないけどね、料理のことは認めようじゃないか」

 いかにも気難しそうなヘレンが、穏やかな表情でスープを啜りながら言ったその一言は、二人を喜ばせるのには十分な効果を持っていた。実のところ、フォルクローレには一切関わりがないことではあるのだが、我が事のように嬉しく、ついエルリッヒと顔を見合わせてお互いの表情を綻ばせるのだった。

「やった!」

「けどね、フォルクローレ、あんたはまだ何も見せちゃいないんだ、それを忘れちゃあいけないよ? そもそもここにきたのはお前さんの用事だろう? こっちのエルリッヒだけ評価が上がっていったんじゃ、何にもならないからね。このスープのアレンジに勝るものを見せてもらえるのを、楽しみにしているからね」

「ぐげげ。でも、さっきの明日のご飯を作るのもそうですけど、あたしの錬金術だって伊達じゃないってところと、なんか怪しい術じゃないってところを、しっかり見せますから! だから、今はこの美味しいご飯をしっかり食べることにします。ん〜!!! ほんとにこのスープいい味だよ〜!!」

 何が「だから」なのかはさっぱりわからなかったが、笑顔を浮かべ、美味しそうに食事を頬張る様子には、何も言えなくなる二人だった。



☆☆☆



 食後、片付けを終えると、三人は再びテーブルに集まり、ヘレンが淹れてくれたハーブティーを飲んでいた。『竜の紅玉亭』のメニューにはなく、フォルクローレもたまに近所の住人に依頼されて調合する程度で、あまり飲みつけていない。そのせいか、一口ごとに口の中に、鼻の奥に、爽やかな草原を思わせるような香りが抜ける。見た目はよく知っている紅茶と変わらないのに、香りがまるで違う。ヘレンによると、『庭』で自生しているハーブを乾燥させたものを使っているとのことだが、そもそもこの家には庭と呼べる庭はなかったはずだ。と言うことは、この森全体を指しての『庭』なのかもしれない。そういった、知識のないものには雑草としか認識できないであろう草花をしっかりと見極め、必要に応じてドライフラワーに仕立ててお茶として淹れる。そう言うことができるのは、まるで錬金術士の目利きではないかと思った。

 これが、『魔女』のありようか。

「ん〜、いい香りです」

「昼間なら、付け合わせにビスケットでも焼くんだけどね、この時間だし、これだけで我慢しな」

「うん、確かにビスケットみたいなお菓子があると合いそう。じゃあ、それも明日あたしが錬金術で調合しようか!? お菓子も、なかなかいいんだよ?」

 珍しく、フォルクローレが買って出た。普段はめんどくさがりでも、錬金術が絡むこととなると、話が別なのである。エルリッヒはそんな一面も知っているが、これまたヘレンは初めて見る一面なので、その意外性に軽く戸惑っていた。

「あんたがそこまで言うんなら、任せてみようかね。明日のおやつは錬金術とやらで作るビスケットだ。朝も頼んでるわけだけど、いいね?」

「大丈夫ですよ。あ、でも、材料があれば、になっちゃいますけど。あたしもここまでの道中のために多少の材料は持って来てますから、それで補えるならいいんですけどね」

 錬金術といえど、必要な材料は一般の調理とさして違いはない。だから、大丈夫だろうとは踏んでいたが、それでも念の為予防線を張るようなことを言う。後でがっかりされても困るので、ここは抜かりがない。

「ふん、それでいいさね」

「じゃ、楽しみにしててくださ〜い!!」

 誇らしげな笑みを浮かべて、力強く胸を叩く。こうして、魔女の家で過ごす最初の夜は更けていった。




〜つづく〜

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