表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

STORIES 084: 電話もくれない

作者: 雨崎紫音

STORIES 084

挿絵(By みてみん)



今夜もひとりベッドの上で

SNSや購読している記事を

ひと通りまわってしまうと

何もない天井を見つめる


23:18 心がざわめく


あの頃 あなたはいつも

この時間に仕事を終えて

ひとりの部屋に戻るなりすぐ

わたしに電話をくれた


今夜も30分だけ話そう

その約束は守られることなく

毎晩おそくまで


早く何か食べなよ

疲れてるでしょう

体は大丈夫なの?


わたしのいつもの問いかけに


そんなことより、さ

優しく言葉を遮って

あなたは話を紡いでゆく


1日の終わりのこの習慣

繰り返されるやりとりが

わたしのすべてだった


.


あの静かな夜


台風は大きく進路を変え

優しい雨が音を吸い取るように

街を哀しく包んでいた


23:18 いつもの時間


その夜は電話が鳴らなかった

きっと疲れているのだろう

少しでも体を休めてと

わたしからも鳴らさなかった


お休みまた明…


途中まで打ったメッセージも

思い直して削除した

これに気付いてしまったら

きっとあなたは起きてしまう


少し偏頭痛が残る右のこめかみ

ベッドサイドの明かりを消し

静かに目を閉じる


朝まで眠れば治るよね

明日はきっと今日よりも…


.


雨に濡れる信号機は大きく傾き

赤色と黄色の点滅を続けている


辺りに散らばったフロントガラスが

事故の衝撃の大きさを物語っていた


コントロールを失った2台の車は

深夜のコンビニの看板と

警察官を模した人形と

2本の信号機と


帰宅途中のあなたを巻き込んでしまった


.


あの頃 あなたはいつも

この時間に仕事を終えて

ひとりの部屋に戻るなりすぐ

わたしに電話をくれた


23:18 心がざわめく


早く電話をかけてきてよ

ちっとも眠くならないよ

どうしてわたし独り残したの?


あの人を返して


台風が逸れてなければよかった

あの晩わたしが会いに行けばよかった

コンビニなんて23時で閉まってればよかった

あんな会社やめさせればよかった

自動車なんかこの世に無ければよかった

早くふたりで住み始めたらよかった

最初からガードレールが設置してあればよかった

わたしが代わりになれたらよかった


あなたがいない世界なんて…


.


そんなことより、さ

優しく言葉を遮って

たぶんあなたは言うだろう


早く忘れたほうがいい


きみはきっと大丈夫

これからだって

幸せに生きてゆけるよ


23:18 鳴らない電話に


心がざわめく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ