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聖女様に貰ったお札をイケメンお化けに使ってみたら 【短編】

ゆるふわです。

「お化けさん。今日も素敵ね」


屋敷の裏の森の中で、私は大木にむかって喋りかけた。

立派な大木の下で寝ているのは綺麗な男の人だった。ただし、身体は透けていて、人間ではないのはすぐに分かる。


そんな綺麗な男の人の事を私は親しみを込めて「お化けさん」と呼んでいた。



「お前、また来たのか」



ふああーっと大きな欠伸をして、「そうよ」と言って近寄った私をジロっと見た。


お化けなのに、寝ていたのかしら。


綺麗なグレーが入った蒼い瞳、美しいブロンドの髪、絵本に出てくる聖者みたいだわ。

私はお化けさんをゆっくりと眺めると、お化けさんの横に座った。



「だって、お化けさんが大好きなんだもの」



お化けさんは溜息をつき、頭をガシガシ掻いた。



「あのなあ。本当、お前は俺の事好きだな。でも、俺はお化けじゃねえって言ってんだろ」


「でも自分で誰か分からないんでしょう?なら私は、お化けだと思うわ。透けてるし、浮かんでるし、それに、私が小さな時からずっと変わらないんだもの。妖精かも知れないけど、妖精にしては可愛くないと思うの。羽もないしね。大丈夫、私は羽が無くてもお化けさん程素敵な人見た事ないわ。私、お化けさんが大好きよ。優しいし、格好いいもの」


「お前、何気に失礼だよな」


「え?そうかしら。そうやって、ちょっと怒ってる顔も恰好良いわ」



私がうっとりと見つめると、「駄目だ、コイツ」と言って、お化けさんは首を回した。



「それにしても、なんで俺の事、お前だけが見えるんだろうな、それにしっかり話も出来るし。俺は何なんだろうな?」


「過去の事、思い出したりしないの?お化けさん、悲しい死に方をしたのかしら?悲惨な感じだったのかしら」


「どんな死に方したんだよ。俺、お化けじゃないと思うんだけどな。何かうっすらと覚えてる気はするんだよな」



お化けさんは腕を組み頭を傾ける。



「腕を組むのも素敵だわ。今日は新しい本を持ってきたの。読んであげるわね」


「ああ、気が済んだら早く戻れよ。またメイド達が心配して探しに来るぞ」


「ちゃあんと言ってあるからいいのよ。私がウロウロしてるのが嫌なだけよ。お行儀が悪いんですって」



私はお化けさんに本を読み、お化けさんは目を瞑ってそれを聞く。


小さな頃、お化けさんを見つけてから私はお化けさんに会いに来ている。


私は本を区切りがいい所まで読み、じっとお化けさんを見るとお化けさんがパチリと目を開けた。私はお化けさんの方に手を伸ばし肩に触れようとして、私の手は触れることなくすり抜けていった。



「やっぱり触れないのね」



分かっているのに、切なくなって、もしかしたらと思って、いつも触ろうとしてしまう。



初めてお化けさんを見た時はお化けだとは思わなかった。


小さな私は、綺麗なお兄さんを見つけて驚いた。でも、仲良くなりたかった私は持っているお菓子をあげようと、お化けさんにお菓子を差し出したが、彼はよく見ると透けていて浮いていて触れなかった。


それでも彼が天使かと思って、私は話し掛けた。



「あなたはてんし?きれーねー?」


「うるせえクソガキ。お前、俺が見えるのか?」



私はクソガキと言われた事も、綺麗なお兄さんが汚い言葉を使ったのもショックで。口を開けたまま固まってしまった。


「く?くそ?」


パクパクと口を開ける私を面白そうに見ていて、その後も、必死にお化けさんの気を引こうと、彼の元にせっせと通った。


「暇人」

「コロコロしてるな」

「ほっぺた丸々して旨そうだ」


彼は私が食べられるのか、と怖がったりするのを楽しんだり、悪口を言われて顔色を変えるのを面白がっていたと思う。


悪口を言われて、泣きべそ書きながら屋敷に戻っても、次の日にはやっぱり彼の元へと通った。


彼は自分の事は何一つ覚えていない。


そして彼が見えて話が出来るのは私だけ。


屋敷の者は、私が一人でのんびり本を読んだりしていると思っている。そして、時々一人でぶつぶつ言ってる危ない奴だと思われているかも知れない。



初めて彼を見つけて十年。私はどんどん大きくなって彼はちっとも変わらない。このまま、私がお婆さんになっても、お化けの彼はこのままなのかしら。


今日もやっぱり触れなかった。



「ああ、お前も懲りないな」



私の手はお化けさんをすり抜けていく。



「お化けさん。明日も来るわ、本の続きを読みましょう」


「無理して来なくていいぞ。気を付けて帰れよ」



お化けさんはひらひらと手を振ると木の根元に寝転がった。


私へ言う言葉も昔に比べると大分柔らかくなった。




私は屋敷に戻り部屋でぼんやりとお化けさんの事を考えていると、メイド長がやって来た。



「お嬢様、旦那様がお呼びです。執務室にてお待ちです」


「分かったわ」



私は頷くと、お父様が待つ執務室にむかった。



ドアをノックし、「失礼します。エレノアです」と言うと、「入れ」と返事があった。


「エレノア、聖女様にお告げがあったそうだ。先程私が教会に呼び出され、聖女様よりこれをエレノアにと渡された」



私はお父様から小さな紙を渡された。



「聖女様が私にですか?これは?」


「聖女様が言うには、エレノアの望みが叶う札だそうだ。そして、それはこの国の為にもなると。細かい事はお告げの聖約によって言えない様だった」


「この札で私の望みが叶う?」


「ああ。エレノアの好きにして良いそうだ。聖女様から儂は言付かっただけだ。大事にしなさい」


「はい。有難うございます。お父様」



私はそう言うとお札を握りしめ、執務室を出た。



「私の望みなんて一つしかないじゃない!!」



私は聖女様の札を持って急いで森にむかった。



急いで大木の側に走って行くと、お化けさんはやっぱり寝ていた。



「お化けさん!!」


「うわあ、なんだ、もう明日になったのか?」


「いいえ、違うわ。これ、これを見て!」



私は聖女様のお札をお化けさんに見せると、お化けさんは眉間に皺を寄せた。



「なんだ?」


「あれ?おかしいわね、どう使うのかしら?えっと、こうかしら?」



私はお札をお化けさんの頭にぺちんと置いた。するとお札は一瞬光り、パッと消えた。



あ、触れた。



「お?」


「どう?」


「うん、なんだかスッキリしたな。なんだこれ?」


「あ、聖女様のお札なの。私の願いが叶うんですって!」


「で?」


「お化けさんに触りたかったから、きっとこれで触れると思ったの!触り放題だわ!」



私は嬉しくてぺたぺたとお化けさんを触りながら話す。



「お前・・・、とんだ変態発言だな・・」


「あら?そうかしら?」


「で、触ってどうすんだ」



透けてなくて、もう浮いてもいないお化けさんは立ち上がると辺りを見回した。私は首を傾げて答えた。



「どうしましょう?」


「おい、質問に質問で返すなよ、馬鹿だな」


「とりあえず、お父様に会いに行きましょう。聖女様のお札は、国の為になるのですって。先程お父様に私が頂いたの」


「そうか、なんだか思い出してきたな」



元お化けさんは、頷くと、私の後を付いて屋敷に入り、誰かに捕まる前にお父様の執務室に会いに行った。



「お父様、聖女様のお札の効果が出ましたわ」



一応、ノックをして入るとお父様は驚いていた。



「なんだ騒々しい。何事だ?」


「元お化けさんで聖女様のお札で復活した方です」



お父様はジロリと元お化けさんを見た後、目を見開き固まった。



「君は?」


「レイン・ブルックス。このお嬢さんが言うように、元お化けで、元勇者だ」


「レイン・ブルックス・・・。本当に?元勇者?確かに勇者様だ!覚えておられるか!ネイサン・アンダーソンです!」


「ああ、泣き虫ネイサンかあ、老けたなあ。俺、そんなに寝てたんだな」



お父様はゆっくりと頷き、元お化けで元勇者で、レインさんの側にゆっくりと立った。私は二人のやり取りをびっくりして眺めた。


元勇者?



「ああ、生きてらしたのですか・・・」


「そうみたいだな。なんでか知らないが、この屋敷の裏の森で目が覚めた。魔王を倒して呪いを受けたのは思い出したんだけどな。お前に貰った、腕輪の加護で呪いが半減されたかな」


「はい。レイン様は魔王を倒した後、魔王が呪いを出すのを感じて急いで皆を転移で逃がしたそうです。そして貴方は戻ってこなかった。もう、二十五年前の事です。私は貴方が旅立つ時に頂いた物を裏の森に埋めました。せめて貴方のお墓になればと思って」


「そうか、で、俺の呪いが解けたのは理由があるんだな?」



お父様は言い辛そうに頷く。



「魔王が蘇ったとの事でした。聖女様のお告げにより、我が娘がお札を頂きました。娘の願いが叶い、そして国の為になるとの言葉と共に。そうして、娘がお札を使い貴方の呪いが解けたのです」



「そうか」



レインさんはそういうと、黙って頷いた。


お父様はレインさんがお札で呪いが解けた後、国王陛下に報告に行き色々忙しくされていた。


私は皆が忙しくしている間、ポツンと屋敷に残された。


レインさんもお父様と一緒に王宮に行ったっきり、屋敷には戻っては来なかった。


レインさんと会う事が出来たのは、それから暫くして王都の外れの場所だった。勇者の旅立ちというのに、ひっそりとしたものだった。



「レイン様、ご武運をお祈りしております」



お父様が挨拶をし、レインさんは頷いた。


騎士の人が多く集まってはいたが、国民には何も勇者の旅立は知らせていなかった。


理由をお父様に聞くと、「国民の期待と不安を両方上げる事になるから、落ち着いた頃に国王陛下より、魔王が現れたが、すでに勇者が旅立っていると発表がある」と言われた。


騎士達と何人かのお供と一緒に旅立つレインさんに、私は御守りとお菓子とポーションを渡した。


色々渡したかったけど、荷物になったら困るだろうと思って結局選んだのはずっと一緒に食べたかったお菓子と、無事に帰ってこれるように願いを込めた御守りと、怪我を治せるようにポーションを選んだ。



「いい子に待ってろよ。さっさと倒してくるからな、じゃあな」



私からの荷物を受け取ると、ポンポンと私の頭を叩いて、レインさんは笑って馬に乗った。


私は色々言いたい事も沢山あったのに、結局、ありきたりな事しか言えなかった。



「気をつけて、帰って来て下さい」



ごめんなさい。


私がお札をレインさんに貼ったから。


触りたかったって言ってお札を貼っちゃったから。




レインさんが旅立った後、お父様は、私だけなんでレインさんが見えたのかを教えてくれた。



「おそらくだが、我が家に代々伝わる腕輪をレイン様は以前の旅で持っていかれたんだ。レイン様は私を可愛がってくれていてね、旅立つレイン様に何か出来ないかと父に相談してお渡ししたんだ。どうもその腕輪のおかげで、魔王の呪いは半減されたようだ。腕輪は我が家に昔いた聖女の祈りが込められていると言われていた。きっと、エレノアはその血を受け継いでいたのだろう。だからエレノアにはレイン様が見えたんじゃないかと思う」



私はお父様の言葉に頷いたけれど、レインさんの事ばかり考えていた。



レインさんが旅立って一か月後に私は学園に入学した。以前は学園に入学するのは凄く楽しみだったけれどレインさん旅立ってからは心の一部が折れたようだった。



レインさん、怪我してないかな。


今、何処にいるんだろう。



学園に入学すると、学生は寮に入らないといけない。休みの日は届け出を出せば家には帰れるので、私は帰れる度に屋敷に戻り、あの大木の下にいた。




私が触れたいって思ったから。


格好いいな、綺麗だなって思ってしまったから。


危険な目に合わせるつもりじゃなかった。


魔王なんて倒しに行って欲しくなかった。


会えなくなるなら、話が出来ているだけで良かった。


欲張らなければ良かった。


声が聞こえているだけで良かったのに。




休みの度に大木の下で過ごす私をお父様もお母さまも何も言わなかった。


一ヵ月が過ぎ、二ヵ月が過ぎ、私はレインさんの無事をお祈りしたけど、三ヵ月経った頃に私は勉強を必死に始めた。


最初のテストの結果が戻って来た時に、情けない結果だったからだ。自分ではもう少し出来たと思っていたけど、思ったよりも出来ていなかった。


レインさんが戻って来た時に、情けない姿を見せたくなかった。


戻って来た時に少しでも綺麗だと思って欲しくて、お洒落にも気を使った。


でも勇者が魔王を倒したと言うニュースも、勇者が敗れたというニュースも無かった。



一年が過ぎ私は二年生になったが、魔王との戦いはまだ終わっていなかった。勉強を頑張り、友人も出来て私なりに学園生活を楽しんだが、レインさんは帰ってこなかった。



その年は、病気も流行り、猛暑も続き、私達は学園が休校になり国は暗い雰囲気だった。


そして、三年生が終わる頃、突然、国王陛下より国中に発表があった。勇者達の活躍により魔王が倒されたとのニュースに国民が湧いた。



「よかった・・・」



私はほっとして涙があふれて大木の下で泣いた。



「何泣いてんだよ」


「だって、魔王が倒されたって」


「ああ、ただいま」



私は返事をした方に驚いて振り向くと、そこにはレインさんがいた。


驚いて口をパクパクする私を意地悪くレインさんは見ていた。



「久しぶり、帰って来たぞ。魔王はちゃんと倒してきた。後始末は騎士達がどうにかするだろ」


「・・・・レインさん?本物?お化けさん?透けてない?」


「はは、お化けさんか、懐かしいな。透けてるかどうか試してみろよ。呪いは受けてねえよ」



私がぶわっと涙を流すと、ゆっくりと私の頭に手が置かれた。



「ただいま。ほら、触れた。泣くなよ」


「おかえりなさい、ごめんなさい、私がお札を貼ったから」


「ああ、触れたかったんだろう?ほら、いくらでも触れよ」



私が上を向くと綺麗な顔は日に焼けて少し逞しくなっていた。木の下にいた頃の様にいつも変わらない綺麗な顔じゃなくて、少し汚れて怪我の痕もあった。



「帰ってきてくれた」


「あ?背伸びたか?」


「うん、三年で五アル伸びた」


「おお、そうか」



そう言いながらレインさんは私の頭をぐりぐりと触る。



「よかった」


「おい、お前触んねえの?」


「触らない」


「お前が触りたいって言うから、俺、札貼られたんだろう?」


「うん、ごめんなさい」


「ああ、魔王もついでに倒したし、ほら、触れよ」



私はゆっくりとレインさんの手に触った。



「温かい・・・」


「そりゃな。なあ、一つ聞いていいか?」


「うん」


「お前、名前なんて言うの?ずっと遊びに来てたのに、名前、聞いた事なかった」



私はゆっくりと手を繋ぐとレインさんを見上げた。



「エレノア。エレノア・アンダーソンよ」


「そうか、宜しくな。お前俺の事、大好きなんだろ?ちゃんと責任取れよ?俺は、お前に触って貰う為に魔王倒してきてやったんだからな。お前が年取る前に呪いが解けて良かった。お前年幾つ?俺、ロリコンじゃねえよな?俺の年幾つになるんだ?寝てた分は引いていいのか?」


「もうすぐ十八よ!馬鹿!」


「そうか、なら、問題ねえな」



私はレインさんに抱き着くと、わあわあ泣いてそのまま寝てしまったらしく、屋敷までレインさんに運んで貰った。


それから勇者のレインさんに変な女が寄ってきたり、私に他国の高位貴族からの求婚がきたりして大変なんだけど、それはまた別の話。


読んで頂き有難うございました。(o*。_。)o

続きを書くかは未定です。



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