語り手だぁれ?3
「ただいま!」
勢い良く玄関ドアが開き、少年が笑顔で俺へと駆け寄る。
「庭に行こう!」
少年はランドセルを置くと、小さな手で俺を持ち上げた。今日もこの時間がやってきたかと、溜息を吐きたくなる。俺の気持ち知らない少年は、俺を抱えると庭へと走り出した。
「よっ!」
庭にやって来ると、少年は俺を地面に置き右足を振り抜いた。強い衝撃を受け、俺の身体は勢い良く宙を飛んだ。日に日に、衝撃が強くなることに彼の成長を感じる。そのことを嬉しく思うが、蹴られることでしか少年と関われないことを少し寂しく思う。
「やった! 入った!」
俺の身体がゴールネットに吸い込まれると、少年が笑顔で飛び上がった。彼の喜ぶ姿を見ることが出来るならば、こんな役だが甘んじて受け入れよう。
俺はサッカーボールなのだから。