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9 妄言

本日4話目!


 ロナルド様と彼の護衛騎士は拘束され、ウォーカー公爵家へ連れて行かれた。

 ずらっと護衛が囲んだ中、公爵夫妻を交えての話が行われた。


 我がプロウライト家とクレド伯爵家との事業にリンドル侯爵が加わったことに、ロナルド様の関与があったのは侯爵本人から聞いていて知っていたが……その理由が、本当の狙いは私だったのだそうだ。



「三者とも利になる形で話を持ちかけ、アメリア様の婚約にはなんの意味もないと破談を勧めたんだ。クレド伯爵家にはさらに良い縁談相手だって探した! 自分の婚約破談に時間がかかってしまったけれど、アメリア様に求婚しようとする他の家にも手を回して潰してきて……ようやく求婚状を用意したところだったのに!」


「僕とアメリア様の子供が、ウォーカー公爵家の跡取りになる予定だったんだっ! それなのに、なんで結婚しないって言ってたジョシュア様が……よりにもよってアメリア様と結婚するなんて言い出すんだ!?」



 喚き散らす彼は、今までの温和な様子は微塵もなく。ジョシュア様の腕の中にいる私は、疑問に思ったことをジョシュア様に投げかける。



「──なぜロナルド様のお子様がウォーカー公爵家を継ぐことになるのですか?」

「そんな話は知らない。父上と母上はなにかご存知ですか?」

「いや、そのような話はしたことがない」

「そんな打診、誰にもしていないわ。ただ、ジョシュアが結婚しないのであれば家門のどこからかそのうち養子をもらわなければならないかも、ということは話していたけれど」



 家門と言っても、ロナルド様の他に若い男性はたくさんいる。

 ウォーカー公爵家は銀髪だが、そもそもロナルド様は茶髪だ。もし養子を取るのであれば、もっと血が近しい人にしそうだが。



「そんな……そんなはずはないのです! 母上が何度も僕に言いました! 必ず僕の血筋が公爵家を継ぐのだと! 母上はウォーカー公爵との仲を引き裂かれてしまったから、きっと公爵様もそれを望むと!」

「──ルドワール夫人がそんなことを……まだ諦めていらっしゃらなかったのね……」



 目を伏せ小さくつぶやく公爵夫人の肩を、公爵が優しく抱き寄せた。


 後から聞いた話となるが、まだ公爵夫妻が結婚していなかった頃。ロナルド様の母君のルドワール夫人もまだ未婚であり、ウォーカー公爵に惚れ付き纏っていたという。

 必ず自分がウォーカー公爵夫人になるのだと言って、公爵夫人に随分嫌がらせをしていたそうだ。


「……一つだけ言っておこう。ロナルド。私と君の母親の間には、過去から今に至るまで引き裂かれるような仲など全く存在していないということを。それは──ただの妄言だ」



 つまりだ。

 ロナルド様は私と結婚して子供を産んで、その子供は公爵家の後継として育てるつもりだった。

 私と結婚するために様々な策略を張り巡らせたけれど、自分自身の婚約破談が進まなかったが、私に新しい婚約者ができないよう、邪魔をしていた。

 その間も人を介して私の監視を続け、時には落とし物を着服し保管していた、と。

 そんな中、私がジョシュア様と夜会で知り合った翌日に婚約を結んでしまった。

 ジョシュア様から私を奪い返そう(そもそも私は彼となんの関係もないが)と画策しているところに、私たちが仲良くしているのを夜会で目撃し、私だけでもさらってしまおうと計画を立てたのだという。

 私だけでなく、公爵家の跡継ぎの父親(妄想)という立場も奪われ、自暴自棄というものか。


 今日、殿下がジョシュア様を呼んでいるというのもロナルド様の仕業。殿下の文書まで偽装したのだ。

 ジョシュア様が王宮に行き、そこに殿下がいればすぐさま文書の偽装がバレているはずだった。だが殿下は執務室におらずなかなか戻って来ない。至急と呼び出しをされたのだから待つべきと判断し、しばらく待っていたことで時間がかかった。

 実際は、何も知らない殿下は妃と二人でのんびりとお茶をしていたらしい。


 馬車は元々公爵家より下げ渡されていたもので、馬車に付けられた家紋は偽装したのだそうだ。常に公爵家の周りに見張りをたて、行動を監視していたという。

 私が外に出ることは滅多にないため、このチャンスを逃すわけにはいかなかったそうだ。


 馬車の御者をしていたものも、以前公爵家に勤めていて別の屋敷に移動になったものを、家族を人質に脅したという。

 護衛たちも顔見知りであり、本来の御者が「腹を壊しトイレから出れないから、丁度公爵家に来ていた俺が頼まれたんだ」と護衛たちを騙したそうだ。

 本来の迎えを呼んだ直後に、迎えが来るより早く偽装の馬車を到着させた。

 ごろつきを雇い、馬には乗れば暴れるように細工が施されていた結果、護衛たちがついて来れなくなった。


 話を聞いていると計画的な面もあるが、いろんなことがただ都合よくいっただけの部分も多くある。殿下の手紙などはその最たるものだろう。

 殿下が執務室にいたら、ジョシュア様はおかしいと思い、すぐに戻ってきていたのだろうから。


 だが、私たちが買い物に出かけて3時間で殿下の手紙を偽装し、5時間以内に御者やごろつきの手配、馬への細工、偽装していた馬車のスタンバイなどをやってのけたのだ。

 リンドル侯爵が、彼には素晴らしい商売の才能があると言っていた。たしかに、ある種すごい。商売の才能なのかは分からないが。


 最終的にファインプレーだったのは、アニーだ。


 実際にあの小屋は非常に分かりにくいところにあり、本来ならば見つけるのにかなりの日数を要するはずだった。それが小屋に入り、たった2時間弱で助けが来た。


 怖がって馬車の床に座り込んでいると思っていたアニーだが、実は公爵家の馬車には仕掛けがあり、床の一部が小さく開くようになっていた。

 アニーはその穴から、後から追ってきたものが分かるように目印に私がメイドたちへのお土産に購入したばかりのブレスレットを引きちぎり、一粒ずつ落としていったという。


 私は連れ去られる場所を覚えるべく、ずっと必死で外を見ていたから気付かなかった。



 ちなみにジョシュア様は左斜め前方にいるロナルド様との会話に集中し、私は右に立っているアニーとの会話に集中している。

 ジョシュア様は私の背後にくっついているが、顔はそれぞれ別の方向を向いているという。それなら離れれば良いのだが、ジョシュア様は絶対に離さないから、もうこのままで構わない。慣れた。



「せっかく私たちのお土産にアメリア様がご用意してくださったのに、申し訳ありません……」

「そんなのは良いのよ。アニーのおかげで本当に助かったわ……それより私はアニーが本当に怯えているのかと思ったのよ」

「あの馬車はやりようによっては中の声が御者に聞こえるのです。敵を騙すには味方から……と言いますでしょ?」

「……すっかり騙されてしまったわ。しかもアニー、強いじゃない」

「いえいえ。流石に剣をお持ちの護衛相手に正面から戦ったら勝てません。油断させるしかないと判断し、薬を嗅がされかけたので効いたフリをして成り行きに任せました。ご心配をおかけいたしました」



 なんと。あれも寝たフリだったとは。



「それにしても、アメリア様とジョシュア様のコンビネーションには驚きました! 何も言わずとも何をするのか分かっているかのようで……感動してしまいました!」


 ──それはジョシュア様が石を持っただけで、『投げる』と判断したことだろう。

 私は苦笑いでそれに応えた。



 ふと左斜めに視線を戻すと、ロナルド様はいまだに延々と喚いている。そんなはずはないとか、アメリアと結婚するのは僕だとか。

 つい1ヶ月前までロナルド様と婚約を結んでいたマリナ様は熱に苦しんでいたという。


 今回の私への件だけでなく、婚約を破談にするためにマリナ様への服毒疑惑もある上に、殿下の呼び出しを装った文書偽装の罪、公爵家の家紋を偽装した罪は計り知れず、ロナルド様への処罰がどうなるのかは想像するに容易い。


 だからこそロナルド様もここまでベラベラとしゃべるのだろう。──自分にあとがないのを知っているから。


「お前なんか、お前なんかっ! ついこの前出会って一目惚れしただけじゃないかっ!! アメリア様に相応しくなんかない!!」


 ジョシュア様は、後ろから私を抱きしめる腕にギュッと力を込め……言った。


「悪いな、一目惚れなんかじゃないんだ。……一目見る前から──ずっと惚れてる」


 その言葉にぐっと胸が詰まり、一気に涙が溢れそうになった。


「アメリアは……たとえ神だろうが──絶対に渡さない」



 彼は──私に前世の記憶があることに気付いている。

 それでも、前世の話は曖昧にしたまま今世新たな関係を築いていくのだと思っていた。

 掘り下げることの意味も分からなかった。


 早々に離脱した立場であり、前世を思い出して一週間で夫と会ってから怒涛の勢いですべてが進んだため、この時の私は残された彼の気持ちを全く想像しないままでいたのだ。

 どれだけ傷をつけていたのかなんて、知りもせず。



 あの時、手に持った石を見て、彼が正確にロナルド様を狙うだろうと信じていた。

 ──前世、学生時代は野球部の優秀なエースピッチャーだったことを知っているから。



 彼は私の耳元で小さく、本当に小さくつぶやいた。

「……もう、いなくならないでくれ」と。


 胸が押し潰されそうで、込み上げてみたもので喉が痛くて、涙をこぼさないようにするだけで精一杯で。

 彼の腕をぎゅっと握りしめることで返事をした。




このページ、そのうち改稿するかもしれません。


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