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57.りゅっち



「殿下、ラフィット伯爵子息がおいでです」

「入れていいよ」


思ったより早くリュカがやってきた。

近くで見ると、本当にりゅっちそのものである。チラリとわたしを見る冷たい目も、よく画面越しに見ていたあの目だ。


「お呼びと伺いましたが」

「ああ」

「その前に、変なことをお聞きしても?」

「いいけど、ちょっと待って」


いつになく前のめりなリュカに答えたジョーくんは、ジョンに合図を送って人払いを済ませた。


「どうぞ?」

「殿下、髪、染めました?」


真面目な顔で聞くリュカ。わたしは笑い出さないように必死だ。


「はは、そう来る? 夢の中で色々聞いたんじゃないの、柳くん」

「……やっぱ譲だよな? お前もあの夢見たの?」

「いや見てないけど」

「は? どういうこと?」


睨みつけるように目を細めるりゅっちは、ドSにしか見えない。素敵。


「んー、柳くんはいつ柳くんを思い出したの?」

「年末だな。クロエが作ったカレーライス食って思い出した」

「やっぱり!?」


思わず声を上げてしまったわたしを、りゅっちが不審そうに見つめる。何なら睨んでいる。

だがわたしはりゅっちに睨みつけられて毒を吐かれたい系女子なので問題ない。むしろこの顔はご褒美である。


「てか、この子は何なの?」

「俺の婚約者」

「それは知ってるけど」

「柳くんの婚約者の親友」

「それも知ってるけど、何でこんな話してるのに普通にここに居るんだよ」

「この子も日本人だからだよ。ね、友梨亜ちゃん」


自己紹介を促されているものだと思って、ペコリと頭を下げた。


「初めまして、宮崎友梨亜と申します」


この自己紹介も三回目ともなると、どんな反応が返ってくるか楽しみですらある。


「おわっ! え? 何、顔が全然違うんだけど! 変わったんだけど!」


意外なことにりゅっちが一番パニックを起こしている。いつも冷静で毒舌なりゅっちがこの反応、意外過ぎる。


「何、誰!? 誰なの?」

「いえ、一般市民のOLでただのファンだったので面識はありませんけど」

「……の割に、すげえ馴染んでない?」

「もう一年近くの付き合いだからな」


ジョーくんがわたしの髪を撫でながら答えた。この人はメンバーの前でも甘すぎる空気を出してくるから厄介だ。


「そんなに前なの? 何で?」

「思い出すのには時差があるみたいだけど。元の世界で死んだかどうかとかも関係あるのかね?」

「え、待って。そういう話なの? 異世界転生的な?」


さすがりゅっち。二次元の舞台をやっているだけあって、アニメやラノベにも詳しいのだ。こういうキーワードがすらっと出てくるのが頼もしい。


「前世の記憶を持って生まれ変わったわけではないので、どちらかというと、転移ですかね? でも見た目は全然違うから転生かなあ?」

「どっちでもいいけどね」

「意外と重要なポイントなんですよ」


クールなジョーくんに釘を刺す。

転移と転生では置かれる状況が大きく違うため、片方が無理という人も大勢存在するのである。

今回は見た目が違うので転生ということにしたい。


「確かにあのクルクルは世界の終わりがどうとか言ってたから、俺らは死んだってことか」


りゅっちがぽつりと言う。やはり、漣さんは記憶を思い出した人にはコンタクトをとっているようだ。


「ちなみに柳くんの向こうでの最後の記憶は?」

「……ああ、そういや、すげえ地震があった。都内でもビルが崩壊するレベルで、場所によっては壊滅状態の」

「やっぱ地震か……」


レイちゃんの記憶とも合致する話だ。わたし達の記憶にはないけれど。

ジョーくんと頷き合うと、りゅっちが突然顔を歪めた。


「……そんで、お前と連絡取れないってマネージャーが言ってた」

「俺らは地震の記憶すらねえの。多分それに巻き込まれたんだろうな」

「その後にも色々あったんでしょうねえ」


わたしはわたしとしてここにいるせいなのか、そんなことを言っていても実感がない。見てもいないのだから当然だ。


「嶺くんは地震あったって言ってたよな?」

「言ってましたね」

「レイ? レイちゃんもいるの? あー、レオンか」

「うん」

「……まさか、テオも直ちゃんとか言わねえよな?」

「そのまさかですね」


はあっと大きく息を吐いて、手で目元を覆うりゅっち。


「訳分かんなくなってきたわ。じゃあ何なの、この衣装も意味あんの? クローゼットの中、衣装だらけなんだけど」

「ああ……分かる。俺もそう」

「だよな!? それも見覚えあるし! 素面で着るの恥ずかしすぎるんだけど」

「俺はもう一年近くこれだから慣れたよ。どんなオーダーしても衣装しか仕上がんないの」

「マジかよ!? 地獄だな」


どうしよう。これが神のいたずら、というか悪ノリだと伝えるべきなのだろうか。

そしてネタが尽きるまで出てくるということも。ネタがまだまだ残っている状態で伝えるのは怖すぎる。

そっとしておこうと知らないふりで微笑んだ。


「ちなみに柳くん、自分の顔はどう見えてんの?」

「……めっちゃ色素薄めの外人顔」

「今も?」


手鏡を差し出しながら言うジョーくんの言葉に従うように、鏡を覗き込むりゅっち。


「うん」

「佐藤柳くん」

「は? えっ? あれ、俺? 何で?」


またしてもパニック気味になったりゅっちは、鏡に顔を近づけたり離したりしている。ちょっと可愛い。


「ちなみに、元日本人っていうか……日本人の記憶がある奴らには、柳くんが今見てる柳くんに見えてるけど。その他の大多数には、今までのリュカのままだからね」

「そうなの? てか日本人、他にもいるのかよ」

「最終的に一万人くらいになるそうです」

「おい、それ初耳だけど」

「あれ?」


漣さんに聞いた情報量が多すぎて、ジョーくんに伝えきれていなかったようだ。一番大事なことを伝えただけで満足していた。


「あ、でも、そのうち記憶を取り戻してるのは百人いないくらいだとか」

「それでも百人近くいるのかよ……」

「ほとんどはバラバラで出会わないまま寿命を迎えるそうなので、大丈夫って言ってました」

「あいつ、信用できんの?」


そう言われて漣さんの顔を思い出すが、くるっくるの巻き毛と丸眼鏡しか思い出せなかった。


「……どうですかね? 今のところ分かる範囲では騙されてる感じはしませんけど」

「まあ、疑っても仕方ないか。で、柳くんはクロエのことどーすんの?」

「どうもしないけど」

「このまま婚約続けて結婚すんのね?」

「するでしょ。別に気持ち変わんないし」

「さすがりゅっち! 心もイケメン!!」

「ほんとこの子何なんだよ」


クロエの相手がりゅっちで心から良かったと思う。ギャル好きでも構わない、クロエを大切にしてくれるならそれでいいのだ。


「まあまあ。友梨亜ちゃんは親友が心配なだけだよね?」

「そうですよ! わたしのおかげで二人が婚約できたと言っても過言ではないので、クロエのこと幸せにしてあげてくださいね!」

「……その辺は、感謝してるけど」

「えっ」

「でも別に、お前に頼まれたから幸せにするんじゃないからね」


プイと顔を背けたりゅっちの愛らしさよ。うっかり萌えてしまった。素直じゃない言葉が可愛すぎる。

あまりにも見つめていたせいか、急に視界が遮られて真っ暗になる。


「はいおしまい」

「わっ」


わたしの目が後ろからジョーくんの手で隠されている。


「この子は油断すると他の男に見とれるから困るよね」

「……珍し。独占欲丸出しじゃん」

「俺のファンとか言ってたくせに、箱推しなんだよ」

「うっ……」


確かに箱推しであるのは否めない。

ジョーくんが一番だけど、ジョーくんが大事にしているメンバーのことだって好きに決まっている。


「そのくせ、近づくと逃げるし」

「ひぃっ」


耳元で囁くのは止めていただきたい。視界はまだ遮られたままだから、耳元が吐息さえも敏感に感じ取ってしまう。


「譲が手こずってんのね。面白いな」

「柳くんも婚約期間長いでしょ。結構キツイよ」

「あー、一年近くあるわ。手出しちゃまずいよな?」

「バレなきゃいいだろうけど、避妊具は怪しげなやつしかないよ」

「何だっけ、豚か何かの内臓だよな?」

「そうそう。腸だったかな? ウインナーかよ、って」

「やーめーてー!」


思わず自分で耳を塞ぐ。

だから何が悲しくて、推し同士が怪しい避妊具の話をしているのを聞かねばならないのだ。健全な男子の性とはいえ、いたたまれない。


「ふふ、友梨亜ちゃん虐めるの楽しいね?」

「やめてよ、俺のだし」

「はいはい。じゃあ俺はクロエと遊んでこよっと」


わたしの視界は遮られたたままの状態で、りゅっちはリュカとしての挨拶をして部屋から出て行った。

そしてようやく視界が明るくなる。


「もう……何なんですか!」

「俺の台詞なんだけど。何なの、全員好きなの?」

「好きですよ! だってジョーくんの大事なメンバーですもん! ジョーくんの好きな人は好きになっちゃうし、ジョーくんのことを好きな人の好感度は上がっちゃうのが推しってもんでしょうよ!」

「…………つまりは、俺のこと大好きってこと?」

「知ってるくせに!」


いつもいつも言われることをまたしても言われてしまい、逆ギレのように顔を背けて叫んだ。

すると後ろから腕が回ってきて、ぎゅうっと抱き寄せられた。それだけで、苛立っていた気持ちがすうっと溶けてなくなっていく。チョロいって自分でも思うけど、好きなんだから仕方ない。


「うん、ごめん。知ってた」

「……でしょうね」

「かわいい」


首の後ろにチュッと音を立ててキスを落とすジョーくん。


「ひえっ!」


ぞくぞくぞくっと何かが駆け抜け、思わず立ち上がって首元を押さえた。


「その反応はショックだわ」

「む、むり! 今日はもう無理ですぅぅ」


逃げるように客室を後にする。

駆け足ギリギリのラインで百合の間に駆け込んだわたしは、どこから見ても真っ赤な顔をしていた。


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