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02.エマ



「はずだった、よねえ……」


まだ痛むこめかみを揉みほぐしながら、目を開ける。

しかしそこは、やっぱりゴージャスな部屋だった。ひどい頭痛による見間違いというわけではないらしい。


「となると、やっぱり夢か」


そうだろうとは思いながらも、言葉にするとストンと心に落ちてくる。

夢だと思ってしまえば、このゴージャスすぎる部屋にも興味が沸いてくるというものだ。シンプルナチュラルなインテリアを心掛けているわたしの部屋とは真逆の、ド派手ゴージャスな部屋である。


まず目を引くのは、部屋の中心にある大きなソファーだ。

猫脚で白を基調とし、凝った彫刻がなされた木部には金の彩色がされている。ファブリックの部分は白地に花柄、しかも大ぶりな百合の刺繍。色味は控えめだが、この大ぶりな百合が全体的なゴージャスさを倍増させている。


床には見るからにふかふかそうな白に近いグレーのマット。何か動物の毛なのだろうか、形は歪である。

キラキラのルームシューズを履いてそっと足を踏み出せば、見た目通りのふかふかな感覚が伝わってくる。しかしながら少し歩きにくくもあり、ふらつかないように一歩ずつゆっくりとソファーへ向かっていった。

だが部屋が無駄に広いのと、踏みしめるたびにこめかみがズキッと痛むせいでなかなか辿り着けない。


そのとき、外からパタパタと軽やかな足音が聞こえてきた。


なんだろうと誘われるようにドアへ目をやると、すぐにドアが開いた。

ちなみにこのドアも全面に百合の花が彫られている両開きの大きなドアだ。凝り具合がエグい。


「あら、お嬢様。お目覚めでしたのね」


そう言いながら入ってきたのは、メイドさんだった。


そう、現代日本ではまず秋葉原とかでしかお目にかかれないメイドさんである。

立ち襟の黒いワンピースに白いフリフリのエプロンをつけた、イメージ通りのちょっと胡散臭いメイドさんだ。だがワンピースやエプロンには、ポリエステルのテッカテカな安っぽい光沢ではなく、シルキーで上品な光沢がある。


それでも胡散臭く感じるのは、それを着ているのが金髪碧眼のスタイル抜群な美女だという点が大きいだろう。

ワンピースの丈は膝が隠れる程度で髪はちゃんとまとめており、頭には白いフリルの帽子までかぶっている清楚極まりない恰好だというのに、こぼれんばかりのお胸とキュッとくびれたウエストのせいか、それはもう大変に色っぽい。


端的に言おう、とてつもなくエロい。

こんなにエロいメイドさんなんて、十八歳以下は見ちゃいけないやつだ。けしからん。


「ああ、エマ。……エマ!?」


自分の口から出た言葉が信じられず、口を押さえてしまう。


(エマ!? って誰!? 何かのキャラだっけ!?)


口を押さえて目を見開くわたしを見たエマは、怪訝そうに眉をひそめた。

それすらも色っぽいなんて、これはもう二次元の存在に違いない。わたしの想像力で夢の中の三次元に生み出したのだろうか。


「お嬢様?」

「え? あ、いや……」


わたわたと慌てて手を振るが、エマの眉間は皺がいっそう深くなった。


わたしはなぜこの美女の名前を知っているのか。

だがわたしの脳が、このひとはエマ・デュポワでわたしの専属メイドだと伝えてくるのだ。まったく訳が分からない。


(なんだ専属メイドって。ここは指名制のメイド喫茶なのか?)


そう考えてみれば、この部屋だってメイド喫茶のVIPルームに見えないこともない……訳がない。

メイド喫茶にこんなVIPルームがあってたまるか。だいたいわたしはメイド喫茶に憧れはないはずだ。多分。


「お嬢様、まだお加減がよろしくないのでは? 失礼します」


眉間の皺を深めたままのエマがすっと近づき、わたしの額に手を当ててきた。ひんやりとした手が心地いい。夢なのに。


「やっぱり。まだ少し熱がありますわ。さ、もう一度ベッドにお戻りください」


エマに手を引かれるまま、くるりと向きを変えてさっき抜け出したばかりのベッドへ向かって歩いていく。さっきは気付かなかったけれど、ベッドの向こう側の壁には鏡がついていた。全身を映せるほどの大きさだ。


その鏡には、メイド姿のエマに手を引かれたプラチナブロンドの超絶美少女が映っていた。


「はあっ!?」


わたしが目を見開くと、同じように鏡の中の美少女も目を見開いた。そんな驚愕の表情も、妖精みたいに美しい。


まるで本当に妖精のようだ。胸まである波打つプラチナブロンドに透き通るような白い肌。瞳の色はライラック、頬はバラ色、唇は淡いピンク。ほっそりとした手足と控えめすぎる胸。

ラノベとかRPGとかでお馴染みの、美少女エルフ。そんな印象だ。ただし耳の形は普通だった。


エマが妖艶な美女だとすれば、こちらは妖精のような絶世の美少女。なるほど、薄いピンクのネグリジェは似合いすぎるほど似合っている。むしろ彼女の為にデザインされたといってもおかしくない。


(いやいやいや、おかしいだろ!)


頬に手をやれば、鏡の中の妖精も同じように動く。いくら何でも、わたしもそこまでバカじゃない。これはどうやらわたしのようだ。


「うっそでしょ……いくらなんでも恥ずかしい……わたし妖精になりたかったの? エルフ属性なんてないと思ってたのに……むしろわたし濃い目の顔が好きなのに……」


そう言って思い浮かんだ顔は、毎日毎日飽きもせずに見ているわたしの推しである。そう、ジョーくんだ!


「あー、せっかくこんな妖精美少女になったんならジョーくんに会う夢なら良かったのに! ていうか夢でも会えないってどういうこと!? 普通はここからラブが始まるとこじゃないの?」

「……お嬢様?」

「え?」


より一層眉間の皺を深めたエマが、わたしを覗き込んでいる。

しまった、どうやら口に出してしまっていたらしい。


「あ、何でもないの。ごめんね」


エマは無言でシーツを整えてくれた。促されるままにベッドへ潜り込むと、ふわりとゴージャス刺繍のブランケットをかけてくれた。


「もうしばらくお休みくださいませ。起きましたらあたたかい紅茶でもご用意致します」

「うん、ありがとう」


ポンポンとお腹のあたりをさすられて、気持ちがいい。ふわふわとした気持ちのままゆっくりと眠りに落ちていく。


起きたら、夢占いを検索しよう。

妖精みたいな美少女になる夢。まあ、コンプレックスの裏返しとか書かれてるんだろうな。


そんなことを思いながら、意識は沈んでいった。


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