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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
6章 ケモミミ少女、冒険者になる
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修羅場の続き

 翌朝、ハルトはループスに宿のベッドの上で詰め寄られていた。ループスは尻尾を上下に振り回してベッドのシーツをバシバシと叩いている。かなり立腹であった。


 「昨夜のアレはなんだったんだ?」

 「アレは……ふと目を覚ましたらそのまま眠れなくなって、それで暇つぶしで街中を歩いてたらあの小屋にたどり着いて。で、あそこで時間潰してただけ」


 ハルトはループスに圧をかけられながら歯切れの悪い弁明をした。ループスを差し置いて勝手にいなくなったこと自体は彼女に非があったものの、それ以外にやましいことなど微塵もしていない。


 「あそこにいた女と何をしてたんだ?」

 「何してたっていうか、遊ばれてたっていうか……」


 ループスは執拗にハルトが一緒にいた女性との関係を問いただしてきた。知らない女性とハルトが親密になっていることに激しい対抗心を燃やしているようであった。


 「遊ばれてた!?」

 「そういうことじゃないからな!?」


 早合点するループスにハルトは慌てて釈明した。昨夜の小屋の女主人は奔放な人物だったが悪人ではなかった。不純なこともしていないし、ハルト自身も不快な思いはしていない。

 このままではループスがどんどん感情を昂らせることを予感したハルトはなんとか別の話題を切り出そうと画策した。


 「ところでさ。あの小屋の主人、なんか誰かに似てたような気がするんだよな」

 「似てたって、誰に」

 「あの髪とか目の色とか。あと奔放な振る舞いとか……」


 その瞬間、ハルトはあの女主人とそっくりな存在がなんだったのかを思い出した。


 「あ、思い出した!レナとそっくりなんだ!」


 女主人と似ている存在、それは数日前にクエストで訪れたマーキス家の一人娘のレナであった。赤い髪や碧色の瞳、脈絡のない自由奔放な振る舞いにその面影があった。

 ハルトが腑に落ちている一方で女主人とのコミュニケーションをほとんどとっていないループスにはなんのことかさっぱりであった。


 「似てたか?」

 「似てたって。髪とか目の色とかそっくりだったろ」

 

 ハルトに熱弁されてループスは昨夜見た女主人の風貌を思い出していた。姿を見たのはほんの数分程度で印象が朧気ではあったものの、言われてみればそんな気がしてきた。


 「そう言われてみればそんな気が……じゃあ昨夜のアイツがリリアン・マーキスってことか」

 「わからん。名前は聞いてないからな」

 「なんでこういう時に限って名前を聞かないんだお前は」

 「いや、だってその時は思い出せなかったし……」


 ハルトは申し訳なさそうに耳を伏せて上目遣いでループスを見つめた。耳を伏せて上目遣いをするのは彼女の謝罪の意を示す仕草である。それを知っているループスはハルトの仕草を見て許さざるを得なくなってしまった。


 「まあいい。次はそれを確かめに行くぞ」


 ループスはいったん気を取り直し、もう一度昨夜の場所へ行くことにした。もう一度あの女主人に会えばその正体を確かめることができるはずであった。

 ループスはハルトを連れて昨夜の小屋を再び訪ねることにした。


 「ところで昨夜は何で俺があそこにいるってわかったんだ?」


 クラフテアの街中を歩きながらハルトはループスに尋ねた。昨夜のループスは手に明かりも持たずに迷うことなく自分の元へとたどり着いて見せた。なんとなく答えは予想できているものの、やはりそれが気になって仕方がなかった。


 「お前の匂いを追ってきた」

 「えっ……俺の匂いってそんなにわかりやすい?」

 

 ハルトはループスからの言葉に少なからずショックを受けた。女の子の身体である以上、体臭には少なからず気を遣っているつもりである。


 「長くいれば匂いぐらい覚える。そもそも俺の鼻が普通の人間よりはるかに利くのを忘れたわけじゃないだろう」

 

 ループスは自身の嗅覚を自負するが、当然ハルトがそれを忘れるはずがない。つい先日もその嗅覚に助けられたばかりである。しかし面と向かって自分の体臭の話をされるのは精神的にくるものがあった。


 「忘れるわけないだろ。それはともかく、今後は女の子の前で体臭を指摘したりするのはやめておけよ」

 「どうして」

 「女の子は普通そういうのを気にするものなんだよ!」


 首を傾げるループスに対してハルトは大声で力説した。例えどれだけループスが常人ではわからない異臭を感じ取ったとしても、それを正面から指摘するのは著しくデリカシーの欠けた行為である。


 「そうなのか」

 「実感ないかもしれないけど、俺だって今は女の子なんだからな……」

 「悪かった。以後は気を付ける」


 急にしおらしい態度を見せたハルトにループスは一瞬胸をときめかせてしまった。しかし相手がハルトであることを考え、すぐに気を取り直す。


 

 「身体洗うのに使う石鹸変えた方がいいかな?」

 「変えようが変えまいが同じだと思うが」

 「お前なぁ、そういうところだぞ」


 気の置けないやり取りをしながらハルトとループスは『憩いの家』があった場所へと歩いて行くのであった。

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