表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
6章 ケモミミ少女、冒険者になる
96/383

リリアン・マーキスの行方

 ハルトとループスは善意から無償の突発クエストを己らに課した。その内容はズバリ『突如として失踪したマーキス家の母リリアンの行方を追い、あわよくばシーラやレナと再会させる』というものであった。

 こうしてハルトとループスのクラフテアで冒険者として活動をする傍らでリリアンの行方を追う日々が始まった。しかしリリアンの情報をほとんど持っていない二人はいきなり難儀していた。


 「なあ、確かリリアンさんってこの街で冒険者をやってたって言ってたよな」

 「そう言ってた気がする」

 「なら他の冒険者たちもリリアンさんのこと知ってるんじゃないか?」


 二人はリリアンが冒険者であったことをすっかり見落としていた。もしそれが事実であったとすればここで長く活動している他の冒険者たちがリリアンのことを知っている可能性があった。


 「ここにいる連中でリリアンさんのことを知っている可能性があるとすれば……」


 ハルトは施設のロビーにいる人物を見渡した。その中でリリアンを知っている可能性が最も高いのはクラフテアでの経験の多い手練れの冒険者、すなわち荒くれたちであった。

 

 「アイツらかぁ……」


 ハルトは尋ねる気が引けてしまった。彼女とループスはすでに手練れの冒険者たちと二度に渡って悶着を起こしている。それを引きずって一筋縄でいかないのが目に見えてしまっていた。

 しかし彼らに尋ねるのが最も確実である、それがハルトを大いに悩ませた。


 「どうする?俺が行こうか」

 「いい。お前が出たらむしろ向こうが逃げる」

 

 ハルトの意中を察したループスが代わりを申し出たがハルトはそれを拒否した。先に手を出してきた荒くれを二度返り討ちにしているループスが出向くとかえって威圧感を出しかねなかった。


 「やっぱり俺が行く」


 意を決したハルトは座っていた椅子から腰を浮かすとテーブルにクエストの張り紙を広げて会議に興じる荒くれ冒険者たちに歩み寄った。


 「あー、ちょっといいか?」


 ハルトが慎重に声をかけると荒くれ冒険者たちはそれに反応してギロリとハルトを睨みつけた。どうやら先日の一件を根に持っているようであった。


 「クエストなら連れて行かねえぞ」

 「違う。そういうことじゃなくて人探しをしてるんだ」

 「はぁ?人探しなら他を当たれよ」


 早合点してクエストへの同伴を拒否しようとする荒くれたちに対してハルトは弁解した。そんな彼女を荒くれたちはまくし立てて追い返そうとするが、ハルトの後ろで剣の柄に手をかけながら無言で睨みを利かせるループスの存在に気付き、語気を抑えてハルトとの会話に真面目に向き合うことにした。


 「今のは冗談だ。で、探してるのはどんな奴だ?」

 「リリアン・マーキスっていう女性だ。昔この街で冒険者をやってたらしい」


 ハルトから提示されたリリアンの名に荒くれたちは反応を示した。何か知っているようである。


 「あー、確かに昔はこの街にいたな。今はさっぱり姿を見てないが」

 「昔って言うと具体的にはどれぐらい前なんだ?」

 「そうだな……俺が最後に姿を見たのはだいたい三年前だ」


 荒くれの一人はそう語った。三年前となればマーキス家の娘レナがまだ物心つく前ぐらいである。彼女が母親の顔を覚えていないのにも納得がいった。


 「他に何か知ってることはないか?人柄とか、昔はどんなクエストを受けてたのかとかさ」

 「採取、討伐、人探し、どんなクエストでも受けていたぞ。どういう理由で選んでいたのかはさっぱりわからん」

 「人柄は?」

 「わかんねえな。いつもぼんやりしててどこ見てるかわからなかったし、クエストは常に一人で受けてたし、そもそも話をしたことすらなかったからな」


 長年の経験がある荒くれたちにとってもリリアンの人物像は不透明な部分が多かった。彼らが知っているのはリリアンが熟練の冒険者であったこと、どんなクエストでも必ず一人で受けていたこと、そして数年前から彼らの前に姿を見せていないことぐらいであった。


 荒くれから話を聞いている途中、ハルトはふとループスの足音が遠のいていくのを感じた。視線をそちらへと向けるとどうやら彼女はギルドの受付嬢と何か話をしているようであった。


 「悪いが少し離れる。また戻ってくるかも」


 ハルトは荒くれたちに前置きをするとループスの方へと合流した。


 「何してるんだ?」

 「このギルドで過去に達成されたクエストを見てもらおうと思ってな。そうすればリリアンがいつ頃までここにいたのかもっとわかりやすいだろう」


 ループスはギルドの受付嬢に過去のクエストの履歴を追ってもらっているようであった。達成されたクエストには達成者のサインが書かれてギルドが保管している。公式に保管している過去のそれを見ればより正確にリリアンがいた時代を特定できるという算段であった。


 「ありましたよ。最後にリリアンさんがクエストを受けたのは今から四日前ですね」


 達成履歴を見ていた受付嬢がループスにそう伝えると、彼女を始めとした周囲の人物は衝撃に包まれた。何年も姿を見せていないはずのリリアンがつい最近このギルドでクエストを受けていた事実が信じられなかった。

 その後の履歴からも四日前より以前にもリリアンが不定期ながら継続的にクラフテアのギルドでクエストを受けていることが判明した。それはすなわちリリアンはこの街の近くに滞在しており、ハルトたちにとっては彼女と邂逅できる可能性がわずかにでもあるということでもあった。


 

 リリアンと邂逅できる可能性を信じ、ハルトとループスはクラフテアの冒険者ギルドにしばらく張り込むことに決めたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ