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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
6章 ケモミミ少女、冒険者になる
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シーラは追っている

 レナに振り回されつつも時が流れ、日が沈みかける刻が訪れようとしていた。

 それはハルトとループスにとってはクエスト達成が近づいているサインであった。


 ハルトの耳に誰かがマーキス家の屋敷の門を開ける音が聞こえた。きっとシーラが帰って来たのだろう。クエスト達成の瞬間を予感したハルトは大喜びで尻尾を振りながら屋敷の門まで様子を伺いに行った。


 「ハルトお姉ちゃんは急にどこ行っちゃったの?」

 「あー。あのお姉ちゃんすっごく耳がいいんだ。きっとパパが帰ってきたのが音でわかったんだろうな」


 ハルトに唐突に置き去りにされたレナとループスは二人で一緒にハルトを追って屋敷の門前まで向かった。二人が合流すると、そこには帰宅したシーラと彼を迎えるハルトの姿があった。


 「パパおかえりー!」

 

 シーラの姿を見るなりレナはループスをその場に置いて一目散にシーラ目がけて駆け寄っていった。ループスは無事にクエストを終えたことに安堵して大きなため息をついた。


 「ただいまレナ。いい子にして待ってたかな?」

 「うん!二人のお姉ちゃんがレナと一緒に遊んでくれたからちっとも寂しくなかったわ!」


 レナは自らの口からシーラが不在中の出来事を語った。レナからは不満が語られることはなかった。どうやら彼女には純粋に楽しんでもらえたようである。


 「二人とも、今日は娘と遊んでくれてありがとう」


 レナを左手で抱きかかえながらシーラはハルトとループスに謝礼を述べた。これでクエストの条件は達成である。しかしハルトとループスはもう少しマーキス家について踏み込もうとしていた。


 「シーラさん。実はちょっとシーラさんに聞きたいことがあるんです」

 「ん?いいよ、言ってごらん」


 ハルトが話を切り出すと、シーラはそれに快く応じた。


 「レナちゃんのお母さん……シーラさんの奥さんってどんな人なんですか?」


 ハルトはレナと過ごす中で抱いた疑問を思い切ってシーラに尋ねた。彼女はレナの母親らしき人物をまだ見ていない。ループスも同様であった。


 「パパ……?」

 「場所を変えよう。外だと少し話しづらくてね」


 レナに顔を覗き込まれたシーラは間をつなぐように屋敷の中へと入っていった。どうやらなにか複雑な事情があるらしい。

 ハルトとループスは再びシーラに招かれるように屋敷へと足を踏み入れた。


 「私の妻は……レナが物心つく前ぐらいから失踪してしまったんだ」

 「そうだったんですか……でもどうして?」

 「わからない。でも失踪したその日に置手紙があったんだ。『また冒険者に戻りたくなった』ってね」


 シーラは妻が失踪してしまった過去を明かした。


 「シーラさんの奥さんって冒険者だったんですか?」

 「そうだよ。昔はこの街じゃ有名な冒険者だったんだ。妻は、リリアンは私の誇りだった」


 シーラの妻はクラフテアでは名の知れた冒険者だったようである。しかしハルトたちはそれを知らなかった。


 「今までも何度かこうしてクエストっていう形で屋敷に女性冒険者を呼んでレナの面倒を見てもらっていたんだ。そうすればいつか妻がクエストに誘われてここに戻ってくるんじゃないかって思ってね」


 やたらの条件のよいクエストの真相はシーラが妻を探すための手段としていたからであった。冒険者に戻るというリリアンの口実を信じるのであれば、条件の良いクエストを聞きつけた彼女が戻ってくる可能性がある。そう思っての行動であった。


 「もし奥さんに……リリアンさんにまた会えるならシーラさんは嬉しいですか?」

 

 ループスが尋ねるとシーラは目を見開いて反応した。彼もまた妻リリアンとの再会を望んでいるようだった。


 「それはもちろんうれしいが……妻探しに協力してくれるのかい?」

 「はい。俺たちも冒険者なので、クエストをこなすついでにはなりますが……」

 

 ループスはシーラのリリアン捜索に協力することを約束した。シーラのためというのは建前、実のところはレナとリリアンを対面させるためである。寝言で母を呼ぶレナはどこか寂し気で、事情が事情なだけになんともいたたまれなかった。


 「とにかく今日はありがとう。これは今回の報酬だよ」


 シーラは話を切り上げるとハルトとループスの二人に報酬を手渡した。二人はその額の大きさに思わず目が丸くなった。


 「こんなに貰っていいのか……」

 「これ、合計で十万あるんですが……?」


 報酬は合計五万マナではなく、一人五万マナ。すなわち十万マナが与えられていた。


 「いいんだよ。これは私からの気持ちだ」


 シーラは金に糸目はつけなかった。彼は気まぐれで十万に変更したのではなく、最初から一人五万ずつ払うつもりであった。ハルトは改めて『住む世界が違う人間の存在』を眼前に突きつけられた。


 

 「リリアンさんについて、何か分かったことがあればまた来ます」

 「またおいで。その時はレナも歓迎するよ」

 「バイバーイ!」


 シーラとレナに見送られ、クエストを終えたハルトとループスはマーキス家の屋敷を後にした。

 そしてその日から『マーキス家の妻を探す無償のクエスト』が二人の中で始まったのであった。

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