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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
6章 ケモミミ少女、冒険者になる
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薬草採集

 クエスト受注からさらに翌日、ハルトとループスはロビンと共にクラフテアの街から少し外れた山へと薬草の採取に訪れていた。一日使ったこともあって準備も万端である。


 「これぐらいの場所にある薬草ならわざわざ俺たちに頼まなくてもよさそうなもんだけどなぁ」

 「依頼人にもいろいろ事情があるんですよ。こういう野山に行くのが怖いとか、忙しくて自分でいけないとか」


 ロビンは依頼人にも各々の事情があることを語った。今回の依頼人も本来なら自分で赴けるところ、不慮のケガで山に足を運べなくなったがゆえに依頼を出したという経緯がある。


 「なるほどなー。ところで薬草ってこういうところに生えてるんだよな?」

 「そうですよ。少し高い山の中の日が当たらず湿った場所によく生えてるんです」


 ロビンの知識と彼の手にした図鑑を頼りにハルトたちは山の中を進んだ。野生の狐と狼そのものの身体能力を持つハルトとループスにとっては均されていない山道の悪路もどうということはない。

 しかし問題はロビンであった。


 「ハァ……ハァ……二人とも待ってくださいよ……」


 どうやら彼は体力面に少し不安を抱えているようであった。すでにハルトたちとの間に結構な距離が開いてしまっている。置き去りにすると自分たちが困るのでハルトとループスはロビンが追い付いてくるのを待った。

 

 「ハァ……もう無理」


 ロビンは途中で足を止めて片膝をついてしまった。どうやら体力的に限界が来ていたようである。ループスは引き返してロビンの肩を持つと日の当たらない場所へと移って小休止することにした。


 「アンタ。やっぱり元々冒険者になりたかったわけじゃないだろ」


 日陰で身体を休めながらループスはロビンに疑念をぶつけた。彼女は先日のハルトの何気ない一言にロビンが表情を曇らせたのを見てからそれとなくそういったものを感じ取っていた。

 ループスに問い詰められたロビンは目を閉じて大きなため息をついた。


 「僕は少し前まで薬師の見習いだったんですよ。だから自分は冒険者とは無縁の人間だと思っていました」


 ロビンはループスに己の過去を打ち明けた。


 「じゃあどうして冒険者に?」

 「失業したんですよ。僕の師匠が突然失踪してしまったんです」


 ロビンは師事していた人間が突如として消えてしまったことで薬師として生きていく術を失ってしまい、冒険者にならざるを得なくなってしまった。誰でもなれるのが売りの冒険者には失業者の救済という面もあったのである。

 ハルトとループスは体力に不安を抱えるロビンがなぜ冒険者になったのか、その理由に納得がいった。

 

 「でも僕はお二人みたいに強くないですから、こなせるのは報酬の安い薬草や木の実の納品クエストばかりで狩猟や討伐なんてとても……」

 「いいんじゃないか?そういうのが得意な冒険者が一人や二人ぐらいいても」

 「少なくともこういうクエストはその手の知識がないとまともにできないだろ?だから俺たちはロビンがいろいろ教えてくれて助かってるぞ」


 ループスとハルトは冒険者稼業がうまくいかずに落ち込むロビンにフォローを入れた。冒険者としては駆け出しの二人はロビンに声をかけられ、初めてのクエストに誘われたことで大いに助けられていた。


 「そうでしょうか?」

 「そうだとも。自分が気づいてないだけで自分にしかできないクエストもきっとある。だから元気出せよ」


 ハルトはロビンの左肩を叩きながら激励した。事実として今回のクエストは薬草の知識のあるロビンがいなければこなせないものであった。


 「ありがとうございます。おかげで元気づけられました」


 激励を受けたロビンははにかみながらお礼を述べると、ゆっくりと立ち上がった。


 「薬草探しを再開しましょう。一応時間制限がありますから」


 休息を経てさっきまでとは心機一転、ロビンはやる気に満ちていた。そんな彼の姿を見てハルトとループスは後を追うように立ち上がってクエストを再開するのであった。


 山のさらに奥へと進んだところでロビンは足を止めた。今度は体力切れなどではなく、明確に理由があってのものである。


 「こういうところに今回の目当ての薬草が生えてるんです。付近を探してみましょう」


 そう言うとロビンは携行してきた道具を取り出した。ハルトが音で、ループスが匂いで周囲を探り、安全を確認すると三人は薬草を探し始めた。

 青紫色の花が咲く茎の細い植物という情報を頼りに、ハルトとループスはそれっぽいものを求めて山の中をくまなく探索する。


 「これか?」

 

 ハルトは自身の親指ほどの大きさをした青紫色の花が咲いている植物を発見すると、ロビンに確認を仰いだ。ロビンはハルトの元へ合流すると無色透明の液体が入った小瓶を取り出し、その中にハルトの発見した植物の茎を浸した。どうやらこれが今回の薬草の判別方法らしい。


 「これは似てるけど違いますね。今回探している薬草はこの液体に浸すと茎が紫色に変色するんです」


 ロビンは今手にしているそれがクエストのために必要な薬草とは違うことを説明した。実際に彼が手にしているその植物の茎は液体に浸しても変色していなかった。彼の豊富な知識にハルトは改めて感心させられる。


 「こっちにもあったぞ」


 今度はループスがロビンに声をかけた。ハルトとロビンが彼女と合流すると、そこにはハルトの握り拳ほどの大きさの青紫色の花が咲いた茎の細い植物が生えていた。

 ロビンはその植物をナイフで刈り取り、その茎をさっきと同じ液体に浸した。すると今度は植物の茎は見事に緑から紫へと変色を見せた。どうやらこれが今回の目当ての薬草のようである。


 「これで間違いありません。ここに生えてるのも同じもので間違いないでしょう」


 ロビンが間違いないという判断をすると、ハルトとループスは周囲にある同じ薬草を積んでいった。


 「うーん。目標の量はこのカゴいっぱいなんですけどこれだと足りませんね……」

 「えー、まだ探すのかー」


 周囲に生えていた薬草を一通り摘みきったロビンはそれを納めたカゴの中身を見ながらつぶやいた。探索から数時間かけてようやく発見した薬草をさらに探し回るのは骨が折れる、ハルトはそう思わずにはいられなかった。

 そんな中、ループスはカゴの中から薬草を一本取り出すと、その花の匂いを嗅ぎ始めた。


 「何をしてるんですか?」

 「薬草の匂いを覚えている。そうすれば匂いを頼りに探せるからな」


 ループスは狼の能力を持ち、彼女に備わった嗅覚は常人をはるかに超える優れたものである。目標の匂いさえ覚えてしまえばそれが完全に遮られない限り、視界に映らないほど遠い場所にあろうと探り当てることができた。

 ハルトも真似事で薬草の匂いを嗅いでみたが他の植物との違いがさっぱり分からなかった。 


 

 「匂いは覚えた。行くぞ」


 薬草の匂いを記憶したループスはその匂いがする別の場所に向かって先行して足を進めた。

 今度は彼女の能力を頼りに、三人は薬草探しを続けるのであった。

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