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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
2章 子攫い女
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隣町の噂

 旅立ちの日の日没前、ハルトは隣町へと到着した。外は暗くなって街灯や建物に明かりが灯り始めていた。

 街の雰囲気は思ったよりも似通っていて目新しさは感じない。しかし日没の街並みを見るのはこれまで寮暮らしだったハルトには新鮮に感じられた。


 「まずは宿を探さねえとな」


 隣町に着いてハルトはまず宿を探した。せっかく町まで足を運んでも宿を見つけなければ結局野宿である。それだけはなんとしても避けたかった。

 通りの景色を見ながらハルトはどこか違和感を覚えた。しかしその正体がわからない。それがなんとも言い難いもどかしさを感じさせた。

 

 「おやおや嬢ちゃん、こんな時間に何をしているんだい?」


 宿を探して通りを歩くハルトに一人の男が声をかけた。上流階級の匂いは感じない、どうやら普通の市民のようであった。


 「あぁ、ついさっき隣町からここに来たんだ」

 「なるほど。他所から来たんだね」

 「そういうこと。それよりこの町の宿を知ってたら教えてくれよ」


 ハルトが男に宿の場所を尋ねると、男はどこか神妙な表情をしていた。何か気まずいことでも聞いたのかとハルトは首を傾げる。


 「どうかしたのか?」

 「他所から来た子なら知らなくても当然か。この町には日が暮れると『子攫い女』が出るんだ」

 「子攫い女?」

 「そう。日が暮れて外にいるとどこからともなく現れて子供を攫っちまうんだ」


 ハルトは男の言葉によって自分が感じた違和感の正体に気づいた。街の通りに子供が一人もいなかったのである。姿が見えないどころか声すらも聞こえない。その理由も噂の事を考えれば納得がいった。


 「今日は俺が宿まで案内してやろう。宿に着いたら日が昇るまで外には出ない方がいい」


 男はハルトに忠告しながら自分が道中の護衛につくことを約束した。隣町の勝手などこれっぽっちも知らないハルトにはありがいことであった。


 「嬢ちゃんはなんでここに来たんだ?」

 「今いろんなところを回る旅をしている最中でな」

 「まだ小さいのに大したもんだな。親御さんもよく許したもんだ」


 道中、男からの質問にハルトが素直に答えると男は感心しつつもどこか訝し気な表情を見せた。ハルトが旅をしているのは事実だが両親からの承諾など得ていない。というより今彼女が何をしているのかも知らない。完全に独断での一人旅であった。


 「ところでその耳と尻尾は飾りか?」

 「いや、本物だ。信じられないだろうけどな」


 避けては通れない疑問をぶつけられ、ハルトは自分の耳と尻尾を動かして見せた。この姿になってから早三日、自分の身体の扱いにも慣れたものであった。

 男はそれ以上の詮索をすることはなかった。


 「俺が案内するのはここまでだ。達者でな」


 共に歩くこと十数分、ハルトを宿へと案内した男は簡潔な挨拶をするとハルトと別れてどこかへと歩いて行った。久しぶりに受けた純粋な善意にハルトは感動すら覚えた。


 「一人で泊まれる部屋は空いてるか?」

 「お部屋でしたらまだ空きがありますのでお好きなところへどうぞ……って狐!?」


 宿の受付係はハルトの姿を見るなり驚いて目を見開いた。彼は動物の耳と尻尾が付いた人間を見るのは生まれて初めてであった。初対面の人間に驚かれるのは今に始まったことではないが自分が普通ではないことをその都度思い知らされる。


 「ハァー……」


 宿を取り、部屋に入ったハルトは荷物をすべて降ろして大きなため息をついた。初日から追われて逃げて散々な目にあった。これがこれから何度も繰り返されると思うと早くも憂鬱であった。


 隣町にたどり着いて当初の目標を達成したハルトは次の目標を探していた。

 真っ先に頭に浮かんだのはお金のことであった。手持ち金はまだあるものの決して余裕があるわけではない。町や国を転々とする以上はどうしても交通費や宿代、食費が必要である。しかし彼女には収入源がなかった。

 一日で稼ぐお金が滞在費用を上回らなければほとんどやる意味がない、できるだけ大きな額をまとめて稼ぐ必要があった。


 そんなとき、腰に下げた銃がハルトの目に入った。機械修理をすればまとまったお金を手に入れやすいのではないかという考えが彼女の脳裏を過る。

 機械はまだ一般に普及して日が浅く、職人以外には修理技能を持った人間など皆無であった。修理技能を売りにすればまとまった稼ぎを得られるに違いなかった。

 何はともあれ、物は試しである。ハルトは翌日から機械修理の売り込みをすることにした。


 「子攫い女ねぇ」


 ハルトは男から聞いた噂が気になって仕方がなかった。『子攫い女』とは何者なのだろうか。男の忠告の仕方からしてもただの噂だとは思えない。どうも本当に存在する存在のような気がしてきた。

 部屋の窓を開け、上半身を乗り出して外の様子を見ても相変わらず子供は誰一人として歩いていない。それっぽい女の姿も見当たらなかった。

 窓を閉めたハルトはとりあえず今日は男の忠告に従い、宿から出ずに夜を明かすことにした。

  

 「探してみるのも面白いかもな」


 ハルトは子攫い女に興味がわいた。それが本物であることを確かめたかった。本物がいるのであれば少女の姿をしている今の自分に接触してくるに違いない。もしそれが空想上の存在で実際にはいなかったとしてもそれはそれで町の子供たちを安心させることにつながる。

 攫われたとしても身内がいない自分であれば町の人間には被害は及ばないし、攫ってどうするのかを知ることができる。そうとなればハルトがこの町でやることは決まりであった。冒険らしい謎解きへの挑戦に早くもワクワクが止まらない。


 明日は昼間の内は機械修理をして回り、日が暮れたら子攫い女を探す。

 そう決めたハルトはベッドの上に寝転がり、うずくまるように身体を丸めて眠るのであった。

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