初めてのクエスト選び
翌朝、ハルトとループスは改めて冒険者ギルドを訪れた。今日は冒険者として初めてのクエストを受けるつもりであった。
「今日は気分がいい。なんでもできそうだ」
「俺は気分最悪だけどな」
上機嫌な様子で軽やかに足を弾ませるループスとは対照的にハルトは肩を落としてげんなりとしていた。というのも昨夜の一件のせいである。
ループスは欲求を満たすことができてご満悦だったがハルトはというと一晩中ループスに密着されて非常に窮屈な思いをさせられていた。
二人が冒険者ギルドの施設へと足を踏み入れると、そこではすでに複数名の冒険者たちがクエストを求めて掲示板の前にたむろしていた。その中には先日交流したロビンをはじめとした冒険者たちの姿もあった。
「よう。また会ったな」
「おはようございます。お二方もいらしてたんですね」
ハルトとループスがやって来たことに気づいたロビンは気さくに返事をした。彼はどういうわけかずっと掲示板の上の方を眺めていた。
「上ばっかり見てるけど何かあるのか?」
「この掲示板は最新のクエストが下に張り出されるようになってるんです。上に張り出されるクエストは簡単で報酬が安い、あるいはよほどの無理難題で誰も手を付けないかのどちらかです」
ロビンは掲示板に張り出されるクエストの傾向についてハルトたちに紹介した。簡単なクエストが多いという情報はまだ駆け出しでクエストについてあまりわからないハルトたちにとってはありがたいものであった。
初めてのクエストを選ぶべく、ハルトとループスは首を上げて掲示板の上を眺めた。
「いろいろあってよくわからんな」
「採集とかどうだ?あんまり危険じゃなさそうだし」
ハルトは採集系のクエストをループスに提案した。達成条件に戦闘を伴わず、リスクが低い採集系のクエストは実績作りの第一歩としては最適なものであった。
「採集系なら僕もお供しますよ。これなんてどうでしょう」
そういうとロビンは掲示板の上に張り出されていたクエストの受注用紙を一つ剥がした。そのクエストの依頼内容は『薬草の採集と納品』であった。
「報酬は三千マナか。まあまあだな」
ループスは依頼内容と報酬を照らし合わせてそう呟いた。危険地域に足を踏み入れるわけでもなく、薬草を積むだけで三千マナを得られるのは彼女には魅力的に見えた。
報酬の三千マナを三人で山分けしても一人千マナ、ハルトと共有すれば取り分が二千マナになることを考えるとなかなかによさそうであった。
「よし決めた!これにする!」
ハルトの一声により、初めてのクエストは薬草の採集及び納品に決定した。挑戦に向け、二人はロビンからクエストの仕組みについて解説を受けることにした。
「まずクエストには納期というものがあるんです。クエストを受けても納期までにそれを完了した報告ができなければ報酬は受け取れません」
「なるほど。今回のクエストの納期ってのはいつなんだ?」
「あと三日ですね。事前準備の期間などを含めても十分間に合うと思います」
今回受けた薬草の納品期限は今から三日以内であった。ハルトとループスはロビンの言葉に不思議と信頼感を得ることができた。
「そうとなれば今から準備だな」
「ですね。僕、こう見えても薬草の知識はそこそこあるんでお任せください」
ロビンは控えめに自分の強みをハルトたちに売り込んだ。どうやら彼は薬草に関する知識があるらしく、それに疎いハルトとループスにとっては心強い一言であった。
「で、準備は何をすればいい?」
「今回の薬草は素手で触れると危ないので手袋とナイフが必要になりますね。あとは似たような外見をした植物があるので判別のために使う道具もあるといいですね」
事前準備についてループスが尋ねるとロビンは饒舌になって語った。どうやら薬草に関する知識があるというのは嘘偽りではないようであった。
「そんなに薬草の知識あるなら冒険者じゃなくて薬作って商売もやっていけそうじゃないか?」
ハルトが何気なくそういうとロビンはどこか表情を曇らせた。気まずい空気になってしまったのを察したハルトはなんとかフォローを入れようと試みた。
「悪い。なんか変なこと言っちゃったか?」
「いえいえ。お気になさらず」
ロビンはハルトからのフォローに気丈に振舞って見せた。何かがあることは明白であったがハルトはそれ以上の詮索はしないことにした。
「じゃあ道具を揃えに行くか。ロビン、頼む」
「わかりました。一緒に行きましょう」
こうして、初めてのクエストに向けてハルトたちは準備を進めていった。期限は残り三日以内、初めてのクエストにハルトとループスは心を躍らせるのであった。




