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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
5章 プル・ソルシエール
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押し付け合い

 クラインが誘拐事件の首謀者であるという確信を得たハルトたちは現場を抑えるための策を練るべく作戦会議を開いた。


 「俺はクラインが首謀者と見て間違いないと思う。アイツに見られたとき背筋がゾワゾワした」

 「同意だ。奴からはオスの臭いがした」


 ハルトもループスもクラインのことを軽蔑していた。彼女たちの中には感覚で感じ取ったものを踏まえたクラインに対する偏見が芽生えていた。あとは如何にして彼が凶行に走る現場を押さえるかであった。


 「なあ、クラインは女に目がないんだよな?」

 「ん?ああ、そうだな」


 ハルトが確認を取るように護衛のアウトローに訪ねると彼はそれを肯定するように答えた。その瞬間、ハルトに妙案が浮かんだ。


 「こっちから女を送って探りを入れるってのはどうだ?これで確証を得られるはずだ」

 「ふむ……なるほどな」

 

 ハルトが提案したのは所謂囮作戦であった。クラインが真に誘拐の首謀者であるとすれば少し誘いをかければそれに乗じる、あるいは手駒をけしかけてくるはずであると踏んでいた。


 「で、その女というのはどうするんですか?」

 「ループスが担当するのがいいと思う」

 「はぁ!?」


 ハルトからの唐突な抜擢にループスは動揺した。仲間を平然と利用するような発言にアウトローたちも振り回されるがハルトには思惑があった。


 「お前にはその耳と尻尾があるだろう。そんな珍しい奴、女癖が悪い奴なら何としてでも接触したくなるはずだ」

 「耳と尻尾が付いてるのはお前も同じだろう」

 「でもお前の方が胸大きいじゃん」

 「なっ……!?」


 ハルトに指摘されたループスは咄嗟に自信の胸を隠すような仕草を取った。実際に彼女の胸はハルトなど比較にならないほどに豊満である。さらに体形の話をするなら彼女はハルトよりもはるかに『女性的』であった。


 「胸もお尻も大きいし、背も高いし、お子様体形の俺なんかよりよっぽど色仕掛けに向いてると思うんだが」

 「でもこの前誘拐されかけたのはお前ぐらいの女の子だったんだぞ。お前でもできるだろう」

 「そういうお前は直接標的にされたことあるじゃん」


 ループスは囮役を拒否しようと食い下がるがハルトは容赦なくそれを一蹴した。

 しかしループスは諦めが悪いところを見せる。彼女はクラインに対する嫌悪感が過ぎるあまりにこれ以上接触したくはなかった。実のところはハルトも全く同じであり、クラインに接触する役をループスに押し付けたくて仕方がなかった。


 「でもそういう女の子的な仕草はお前の方が得意じゃないか!」

 「俺みたいなあからさまなのよりもお前みたいに初々しい奴のほうが受けがいいと思うが!?」


 役を擦り付けようとハルトとループスの言い争いは続いた。両者ともに一歩も譲らず、まるでことが進展しない。


 「お前たちはどっちがいいと思う?」

 「えぇっ!?」


 これまた唐突に話を振られたアウトローたちは返答に困ってしまった。これすなわち自分たちの答えが今回の囮役になるということである。不用意な返答はできなかった。


 「俺とループス、どっちが向いてると思う?」

 「もちろんそこの狐だよな!?」

 「いや、こっちの狼だ!」


 ハルトとループスは耳と尻尾を立てながらにらみ合う。アウトローたちは二人のうちどちらかを囮役にする決断を迫られた。五人は自分の心に正直になって答えた。


 「俺は……狼の姐さんの方がこういうのは向いてると思います」

 「同感です。姐さんの方が夜に出歩ける範囲が広いですし、クラインがいそうなところにも出向けます」


 五人のうち二人は早くもループスを薦めた。ループスは狼狽し、ハルトはニヤニヤしながらその様を眺めて悦に浸る。


 「うーん……俺は狐の嬢ちゃんがいいと思う。見た感じ場慣れしてそうだし、それに自衛のための武器も俺たちよりずっと強いのを持ってる」

 「なっ……!?」

 「それに直近の誘拐はお嬢さんぐらいの子を狙ったわけだし、嗜好はそんなにすぐに移り変わるものじゃないと思いますし」


 五人のうち二人はループスを、もう二人はハルトを薦めた。残る一人に決定が委ねられた。ループスとハルトはかつてない緊張に息を飲んで身体を強張らせた。


 「そうだな……俺は狼の姐さんに行ってもらいたいです」


 残された一人はやや委縮しながらもループスを指名した。多数決での決定にループスはとうとう何も反論ができなくなってしまった。


 「うぅ……どうしても俺がやらないとダメなのか?」

 「みんながそれがいいって言ってるんだから仕方ないよなぁ、んー?」


 縮こまるループスに対してハルトは満面の笑みを浮かべながら肩を叩いて煽りを入れた。こうなってしまった以上、役を引き受けるしかなくなってしまった。

 ループスは頭を抱えて耳を伏せ、尻尾を丸めて絶望に伏すしかなかった。



 「そうとなればそれっぽい恰好させないとなぁ。さあ行くぞ皆の衆、男が好む格好っていうのを準備してやろうじゃないか」

 

 まんまとループスに囮役を押し付けることに成功したハルトはアウトローたちを引き連れて作戦の準備を取り仕切るのであった。

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