その頃ループスは
ハルトが機械いじりに没頭している頃、時を同じくしてループスはクラインの手がかりを少しでも多く得るためにソルシエールの街を一人歩いていた。
事件については認知されていないものの、クラインという人物個人のことなら知っている人もいるだろうと考えたループスは表の人たちに聞き込みをすることにした。クラインが魔法学校を中心に活動していることを踏まえ、ループスはまず魔法学校と鉱山の付近で商いを行っている人々に目を付けた。
「クラインさんねぇ。あの人って魔法学校の教授だったんだ」
「知らなかったのか?」
「まあ、あの人が学校の関係者ってことぐらいしか知らなかったね」
魔法学校の近くにある飲食店の従業員はクラインの外見こそ知っていたがそれ以外のことは何も知らないようであった。ループスは最初の聞き込みを切り上げて早々に他をあたった。
「クライン……?」
「茶髪の陰気な見た目をした男だ。見覚えはないか?」
「あー、たまにここに来るぞ」
二件目に訪ねた鉱山用の道具屋にてループスは耳寄りな情報を得た。クラインは定期的にこの店に通っており、店主もその顔を覚えていたようであった。
「他に知っていることがあったら教えてくれ」
「そうだな……」
店主はクラインについて知り得る限りの情報をループスに語った。彼が鉱山に赴いて魔法石に関する研究をしていること、一週間に二度のペースで訪れていることがそこで判明した。ちょうど昨日もここを訪れていたらしい。
「一つ聞いておきたいことがある」
「クラインについてかな?」
「そうだ。奴の女癖について知りたい」
ループスは真相に至るためのキーワードを店主に訪ねた。もし誘拐事件の黒幕がクラインであり常習化しているならばそれに関する黒い噂も少なからずあるはずである。
「いや、わからないな」
店主はあっさりと答えた。嘘を言っている様子は見受けられない、どうやら本当に知らないようであった。鉱山通いであるという情報を得たループスは聞き込みを切り上げ、次は鉱山に赴くことにした。
「クライン……あぁ、あの陰気臭い男のことか」
「知っているのか」
鉱山で働く労働者はクラインのことを知っていたようであった。間近で何度もクラインのことを見てきた彼らであればより多くの情報を得られるであろうと踏んだループスは早速聞き込みを開始した。
「クラインはここで何をしている」
「魔法石の研究と称して採掘をしたりしてたよ。時には魔法石を得ようと俺たちに取引を持ち掛けてきたこともあった」
クラインは鉱山の関係者と親密なかかわりを持っていることが分かった。そうとあれば踏み込んだ話題を知っている可能性にも期待が持てた。
「クラインの女癖ってどうなんだ」
「女癖ねぇ……憶測にはなるけど、たぶん相当悪いよ」
「というと?」
「アイツ、時々観光に来る女性客のことをすっごい目で見てることがあってな。あれは人が人を見るときの目とは思えない」
鉱山の関係者はクラインの女癖について憶測雑じりの目撃談を語った。その情報から察するにクラインが女癖について問題を抱えていることは確実である。
あとはこれをどう詰めていくかであった。
「お姉さんも気を付けた方がいい。お姉さんぐらいのいい女なら目をつけられてもおかしくない、もう目をつけてるかもしれないからな」
鉱山関係者はループスに忠告した。ループスは自分がクラインに性的な視線を向けられている可能性に嫌悪感を覚え、背筋に悪寒を走らせた。
「……忠告感謝する」
必要な情報を得たループスはここで聞き込みを切り上げることにした。同時に明日対面するクラインにこのことをどう詰めていくかもある程度の計画が立った。
「アイツは……女の敵だ」
かくして、ループスはクラインを倒すべき悪であると前提して真相解明に臨むのであった。




