待つ時間
ループスがクラインとの面会を取り付けた翌日、二人は暇を持て余していた。
クラインが授業を持たない日は週に二回あり、その間には丸一日分の間隔が空いていたからである。その間、二人は思い思いに時を過ごすことにした。
「いいか。いきなり声をかけられても真面目に相手にするな。お金はちゃんと後のことを考えて使うんだぞ。都合のいい言葉に誘われたりしたらダメだからな?」
「わかっている」
宿の部屋の前でハルトはループスに入念に言い聞かせた。この日はループスは外でクラインに関する
情報収集に、ハルトは機械いじりに没頭することにしていたのだが、ハルトは一人で外に出るというループスのことがいろいろと気がかりでならなかった。
対するループスも何度も言い聞かされてきた内容に辟易しながら返事をした。
「じゃあ行ってくる」
「やばいと思ったらすぐ帰ってくるんだぞ」
二人のやり取りはまるで保護者と子供のそれであった。ループスが単身街へと繰り出していくの見届けたハルトは部屋にこもって機械いじりを始めた。
今回の機械いじりのテーマは『銃の改良の実現』であった。
ハルトは銃を使う上で不便に感じていることが二つあった。一つは射撃時の反動による射角ブレ、もう一つはリロードにかける時間の長さであった。
前者は両手持ちにすることである程度は改善できるものの、後者の問題は深刻であった。一度に五発まで装填できるものの、すべてに弾を込めようとする現状では少なくとも一分は要する。原因はハルトの手が小さく、素早く手先を動かすことができないことにあったがこればかりはどうすることもできないものであった。
現状では五発以上の弾を必要としたことはないものの、弾を込める時間で魔法を一つ詠唱できるほどの隙ができてしまう。これを何とかする必要があるとハルトは考えた。
リボルバーのスロットは小さく、ここに一つ一つ弾を込めるのがとにかく億劫であった。どうにかしてここに五発まとめて装填できないものか、そう考えたハルトの頭上に一つのアイデアが浮かんだ。
発想に任せるがままにハルトは一度銃を分解し、リボルバーの型を取った。リボルバーの弾倉同士の間隔を測り、そこにぴったりと当てはまるように弾薬同士を固定することで五発まとめてリロードすることができるだろうという見込みであった。
弾薬同士を固定し、試しにリボルバーに装填し、スムーズに装填できるように間隔の微調整を繰り返しながらハルトは開発に勤しんだ。
作業に没頭すること数時間、ハルトはついに五発同時にリロードを可能とするスピードローダーを完成させた。これにあらかじめ弾を装填したものを用意しておけばリロード時間は大幅に短縮することができるはずであった。
試しにハルトはスピードローダーを使用したリロードを試すと、これまで一分以上かかっていた五発同時のリロードをわずか数秒で完了することができた。これまでの不便性を一気に解決する画期的な発明であった。
「やはり俺は天才か……なぜもっと早くこれを作らなかったんだろう」
ハルトは自惚れずにはいられなかった。それと同時になぜ今になるまでこの発明に至らなかったのか不思議でならなかった。
その一方でスピードローダーを使用したリロードは弾数に小回りが利かないことにも気づいたものの、少数使用するときは単発で詰めればよいと納得することにした。
「これを複数用意しておけば……」
ハルトは開発したスピードローダーを量産することを思いついた。複数用意しておけばそれだけ大量の弾薬を使用する状況に対応することができ、用途に応じた弾の使い分けにも応用することができた。
こうして、ハルトは宿の一室を工房代わりに食事も忘れて日が暮れるまで作業に没頭したのであった。




