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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
5章 プル・ソルシエール
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深く踏み込む

 翌日、ハルトとループスはソルシエールの街のどこかに潜んでいるであろう誘拐事件の首謀者を探すべく行動を開始した。

 まず二人が手を付けたのは誘拐事件が民衆にどれほど認知されているのかを調べることであった。ハルトとループスは街を歩く人々に手当たり次第に声をかけていった。


 「女の子を狙った誘拐事件か……初めて聞いたなぁ」

 「そうか、じゃあいいや」


 「ええっ!?そんなことが起きてたの?」

 「知らなかったのか。ならこれ以上聞くことはない」


 どうやら街の人たちは誘拐事件のことを知らないようであった。これは突発的なものではなく、人目の付きにくいところを狙って計画的に行われている誘拐であるということを物語っていた。

 それを差し引いても男女問わずに認知度が低いのは深刻な問題であった。その深刻さたるや、次の被害者が出るのも時間の問題だとハルトが憂いを覚えるほどであった。 

 

 「どうして誰も知らないんだろうな」


 ハルトは首を傾げた。流石に一人ぐらいは目撃者なりいるだろうと思っていたがそれすらも見つからないのは明らかに異常である。


 「たぶん、市民が声を大にして言えない理由があるんだろう。首謀者がこの街の権力者とかだとしたらあり得ない話じゃない」


 ループスは手がかりを掴めない理由を推察した。権力者階級の人間が首謀者であるとすれば事件のもみ消しや外圧を用いての言論統制なども不可能ではない。彼女もまた別の切り口からこの事件の異常性を睨んでいた。


 表の人々が口を閉ざしているとなれば情報を得られそうなのは日陰に生きる人間であった。荒事に発展しやすい人種故にハルトは接触に対して気が引けたものの、これぐらいしか思いつく方法はなかった。


 「なんでこうなるかなぁ!?」


 ハルトは少し寂れた通りの裏でたむろしていたアウトロー連中との接触を試みたところ、女に飢えた野郎たちに襲われる羽目になった。こうなることは予見してはいたものの、あまりにも欲望に正直なアウトローたちには心底驚かされるばかりであった。


 「落ち着け。俺たちは聞きたいことがあってお前たちを尋ねてきたんだ」


 ループスは冷静に言葉で訴えかけながら近寄る野郎たちを素手で殴り飛ばして返り討ちにしていった。野盗を一人で撃退していたという言葉に嘘偽りはないと思えるほどのその腕っぷしの強さは魔法抜きでの乱戦ができないハルトには心強かった。 


 「聞きたいことだァ?」

 「ああ。この街で起きた誘拐事件の首謀者を追っている」

 「ほう。詳しく話を聞こうじゃないか」


 路地裏にいたアウトローのボス格と思わしき男が奥から姿を現すと対話に応じる姿勢を見せた。この機会を逃すまいとハルトとループスはボスに自分たちの目的のために知りうる限りの情報と推察を語った。


 「なるほどな。お前たち、何かそれっぽい話を聞いたことあるか」

 

 ボスが人声をかけるとアウトローたちは自分たちの記憶を整理し始めた。表の人間からは得られない情報が出てくることにハルトとループスは少なからず期待を寄せた。


 「もしかしてさ、それってこの街の魔法学校の教授の仕業じゃね?」


 アウトローの一人の女が口を開いた。


 「知ってるのか?」

 「あー、この街の魔法学校にはクラインっていう教授がいるんだけどさ。そいつが性欲塗れっていう話よ」


 思いがけないところから情報であった。確かに魔法石の街の魔法学校の教授ともなれば少なからず権力がある。あり得ない話ではなかった。


 「聞いたことあるわー。俺たちみたいな連中に金渡して女を攫わせては発散相手にしてるって。まあ俺たちは声かけられたことないから本当のことはわかんねえけどな」


 アウトローたちは生々しい情報を次々と語った。外圧を受けない日陰の中で生きる彼らはある意味ではこの街の事情に最も詳しい存在であった。


 「この街の魔法学校っていうのはどこにあるんだ?」

 「鉱山のすぐ近くだ。時計塔があるからそれが目印」


 ハルトとループスは鉱山を訪れたときのことを思い出した。確かに道中で大きな時計塔が脇目に見えていた。その情報を信じ、真相を確かめるためにハルトたちはそこへ行くことにした。


 「情報提供、感謝する」


 ループスが礼を告げるとボスは無言で手のひらをすっと差し出してきた。ハルトたちにはその挙動の意味が理解できなかった。


 「まさか何かをしてもらってお礼がそれだけってことはないよなぁ?」


 ボスはチップを要求しているようだった。ハルトはその姿勢にドン引きしたものの、ループスは素直にチップを支払った。下っ端を手なずけるのに慣れているループスの経験則からすればその行為を躊躇う必要はなく、むしろわかりやすい必要経費であった。


 「これでいいか」

 「話が分かる奴でよかった。チップさえくれればまた力を貸してやる」


 チップを受け取ったボスはハルトたちとビジネスライクな協力関係を取り付けてくれた。ハルトはできることならもう接触したくはないと考えながらその場を後にした。



 「案外いい奴らだったな」

 「そうか?俺はもうあんなの御免だけどな」


 アウトローたちから離れたハルトとループスは次にソルシエールの魔法学校を目指すのであった。

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