心残り
無事にアリサを送り届けたハルトとループスは宿でこれからのことを話しあっていた。二人はさっきの一件のことで心残りがあった。それは誘拐を実行した男たちのことであった。
「なあ、あの男たちはなんで懲りずにあんなことしたんだ?」
「恐らく上に誰かがいるんだろう。連中はソイツに命令されてそれを実行しているに過ぎない」
ループスは三人組の上に誰かが存在し、それが彼らを動かしていると勘繰っていた。
「まさかな……」
「俺にはわかる。一度痛い目を見て懲りないのは本当に学習能力がないか、誰かに命令されてそうしているかのどちらかだ」
かつて取り巻きを常に複数人引き連れていたループスならではの見解であった。たとえ痛い目を見ようとも忠義がある限りは取り巻きは懲りずに同じことをし続ける。
「俺は前者だと思うけどなぁ」
「そう思うか?アイツらは俺たちのことを覚えていたし、お前のことを警戒していたぞ」
ループスは男三人組の様子を覚えていた。彼らはループスのことを侮っていたが、それと同時にハルトのことは警戒していた。つまり学習をしていたのである。
「つまり、あいつらを従えている奴らがいるということだ」
ループスの考察は鋭かった。その黒幕がいる限り、ソルシエールの街では女性を狙った人さらいが発生し続ける。このままでは悪事を見過ごすようで心持ちが悪かった。
「やっぱり叩いた方がいいよな。アイツらを従えてる奴を」
「お前もそう思うか」
ハルトとループスは意識が同調していた。どうせ行く宛も帰る場所もないもの同士、何をしようが自由である。であるなら何か役に立つことをしたかった。
「また明日から大変なことになるな」
「……だな」
ハルトとループスは互いの幸先を案じて苦笑いした。この先に待ち受けるものが何かはまるで見当がつかないが二人一緒なら何とかなる、そんなような気がした。
「お前耳ボサボサじゃん」
「そう言うお前も人のこと言えないだろ」
二人は互いの耳の毛並みがボサボサになっていることを指摘しあった。アリサと戯れている間に耳がボサボサになり、それを直す暇もなかったので当然であった。
「直しとけよ」
「今日はもう疲れた。お前がやってくれ」
ループスは駄々をこねるような言い回しでハルトに毛繕いを押し付けた。今日はアストレオと戦い、誘拐犯の男たちと表立って戦い、さらにアリサを抱きかかえて街を歩き回ったのは彼女である。
彼女が身体を張る姿をずっと隣で見ていたハルトは何も言い返せなかった。むしろそれぐらいの労いはしてやるべきかとすら思えていた。
「スゥ……」
ハルトが毛繕いをしている途中、ループスは座ったまま寝息を立て始めた。彼女は一日の間に蓄積した疲労がすでに限界に達していた。普段なら過敏なほどに反応する尻尾に触れても動じる様子がない、相当疲れていたようであった。
「しょうがない奴だなぁ」
ハルトはループスの毛繕いを終えると泥のように眠る彼女を静かに横たわらせ、その上から身体が冷えないようにブランケットを掛けた。
そしてハルトはそんなループスを尻目に自らは机に向かい合い、これから先に待ち受けるものを見越した銃の改良を目指して新たに設計図を書き起こすのであった。




