魔法石の剣
『どうして自分がこの魔法石を見つけることができたのだろうか』
ループスが心の中で自問しながら手の中にある紅色の魔法石を眺めていると、魔法石は突如として眩い輝きを放ち始めた。そして輝きが収まったころ、ループスの手にあった魔法石はきれいさっぱり無くなってしまっていた。
代わりに彼女の手には一本の剣が握られていた。紅色の透き通った刃を称えた長剣で、まるでそれは魔法石が姿を変えたと言わんばかりの風貌であった。ループスもハルトも自分の目を疑わずにはいられなかった。
「えっ……なんで?」
「いや、なんでと聞かれても」
ハルトもループスも状況を理解できなかった。不可思議な現象を前にして二人は首を傾げることしかできなかったのであった。
ハルトは複数の足音がこちらに近づいているのを聞きとった。魔法石の放った輝きを遠目に目撃した人々が次々とハルトたちのところへと集まり始めていたのだ。
獣の耳と尻尾を持った少女二人、紅色の魔法石、そしてループスの手に握られた剣。そこには注目されるべき要素がこれでもかというほどに詰め込まれていた。
「まずい。ループス、撤収するぞ!」
「おう!」
ハルトたちは採掘道具をその場に投げ捨てて逃げるように鉱山を後にした。彼女たちが去った後を人々は我先にと掘り出すのであった。
「なんでそれがあそこにあるってわかったんだ?」
鉱山から撤収したハルトはループスに尋ねた。しかしその理由はループスにも理解できていなかった。
「わからない。何か呼ばれたような気がして、それであそこを掘ったらこれが出てきたとしか言いようがない」
ループスはそう説明するしかなかった。二人は改めて剣を眺めた。
透き通った紅色の刃は美しい輝きを放っている。それはさながら宝石でつくられたかのようで、芸術品としての価値が高そうに見えた。
「何か特別な力とかあるのかな」
「それもわからない。これについていろいろ手探りで調べてみるしかないだろう」
剣は魔法石が姿を変えたものである。だからきっと何かしらの力があるに違いないと二人は推察していた。紅色の魔法石、そしてそれが姿を変えた剣。とにかく謎だらけであった。
「とりあえず鞘作ろうぜ。刃を出しっぱなしで保管するのは心配だからさ」
「それもそうだな。手伝うぞ」
謎について考えるのをいったん放棄し、二人は剣を納める鞘を作ることにしたのであった。
なぜ紅色の魔法石がループスにしか発見できなかったのか、なぜ剣に姿を変えたのか、剣にどんな力が秘められているのか。
その謎が彼女の運命をさらに大きく変えることになるのを彼女はまだ知る由もないのであった。




