魔法石の街
今回から第五章が始まります。
新たなレギュラーキャラが登場の予感……?
先の小さな村での事件からさらに進むこと十数日、ハルトはついに魔法石の街=プル・ソルシエールへと訪れた。
赤茶色のレンガが積み重なって作られたクラシックな街並みにハルトは目を奪われる。
「おぉー、ここが魔法石の街……」
プル・ソルシエールは魔法使いなら誰もが一度は憧れる場所、そこへ訪れることができた事実にハルトは感無量であった。ハルトは小動物の様に大通りを跳ねまわり、尻尾を大きく振って子供の様にはしゃぎながら街並みを見て回った。
そんな彼女の姿を街の人々は微笑ましく見守るのであった。
「なあなあ、この街ってずっとこんな景色が続いてるのか?」
いてもたってもいられなくなったハルトは通行人に尋ねた。彼女の視界に映るものは何もかもが新鮮であった。
「そうだな。このソルシエールの街にはレンガ造りの建物がずっと並んでいる。で、街道をずっと先に行くとそこには魔法石の鉱山がある」
「鉱山?魔法石って空から降ってきたんじゃないのか?」
ハルトは通行人の話に首を傾げた。自分が知っている伝承では魔法石は空から降ってきたものであり、地中に埋まっているものではない。にもかかわらず鉱山が存在するのは不自然であった。
「厳密には鉱山というよりかは『降ってきた魔法石が頻繁に見つかる山』だな。この街に住む人たちはそこを鉱山って呼んでる」
通行人からの補足説明によってハルトは納得がいった。鉱山というのは定義的なものではなく便箋上の呼び名であった。
「鉱山ってのは俺でも入れるのか?」
「見学は毎日やってるから気が向いたら行ってみるといい」
「そうか、ありがとな」
ハルトは耳寄りな情報を手に入れた。魔法石の鉱山には自分でも入ることができるという。実物の魔法石を間近で見られるかもしれないまたとない機会であった。
ハルトは鉱山へと向かうことにした。
「あっ、そういえばお嬢ちゃん」
さっきまでハルトと話をしていた通行人が何かを思い出したようにハルトを呼び止めた。その声を聞きつけたハルトは足を止めて声のする方を振り向いた。
「ん?」
「この前動物の耳と尻尾が付いた女の子を見かけたんだけどお嬢ちゃんの知り合い?」
ハルトはたいそう驚かされた。まさか自分以外に動物の耳と尻尾の付いた人間がいるとは思いもよらなかったのだ。もちろんそんな人物に心当たりはない。
「いや、知らないな」
「そうかい。狐の耳と尻尾の付いた子を探してるらしいから知り合いかと思ったんだけどね」
通行人はそう言い残すともう話すことはないと言わんばかりに去っていった。
ハルトは自分以外の『動物の耳と尻尾が付いた女の子』の正体について考えてみた。
『狐の耳と尻尾の付いた女の子』というのはどう考えても自分のことである。つまり向こうはこちらのことを明確に知っている人物とみて間違いなかった。しかしハルトの知る人物の中にはやはり動物の耳と尻尾の付いた女の子は誰一人としていない。どう考えても見当がつかなかった。
もしかしたらどこかで出会うかもしれないだろう程度に考え、ハルトは改めて鉱山を目指すことにした。
そしてこの後、すぐにその少女と出会うことになることをハルトは知る由もなかったのであった……
ハルトを待つ少女とは何者なのか。
なぜハルトのことを知っているのか、そしてその正体とは?
どうぞお楽しみに!




