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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
4章 崇拝競争
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幕間:尻尾をモフモフ

今回は第四章の本筋とは特に関係のない話になります。

 「貴方の尻尾を触らせて。できればモフモフさせてほしい」


 とある日の昼下がり、唐突にハルトの元を訪れたエミリーはハルトに懇願してきた。手荷物などは何も持っていない、本当にただそれだけのためにこちらを尋ねてきたようであった。

 何度断ってもやってくるエミリーにハルトはとうとう音を上げた。


 「あーわかったわかった!今回だけだからな」


 ハルトは念を押すようにエミリーにそう告げると後ろを向いてその場にぺたんと腰を下ろし、誘うように尻尾を左右に大きく揺らした。それに対してエミリーは釣られるようにハルトの尻尾に手を伸ばした。


 「おぉ……これが本物……」

 

 エミリーはハルトの尻尾の手触りを確かめた。身長のわりに大きなその見た目に違わぬモフモフに彼女はすぐに夢中になった。ハルトは無性にくすぐったいのをじっと堪えてエミリーの好きにさせることにした。


 「この毛並みに秘訣はあるの?」

 「ん-、割と手間かけて整えてるかな。これでも自分のチャームポイントだって自覚はあるし」


 エミリーの純粋な好奇心にハルトはそっけなく答えた。大きな狐の尻尾は自分の身体で最も目立つ部位であるだけに手入れに掛ける時間も長い。


 「スゥー……」

 「!?!?!?」

 

 エミリーの唐突な挙動にハルトは背筋にゾワゾワとした感覚を覚えた。エミリーはハルトの尻尾に顔を埋めてその匂いを嗅ぎ始めていたのである。


 「やっぱり本物は温かくていい匂いがする」

 「そ、そうなのか……?」


 自分の体臭を嗅がれるという初めての経験にハルトは羞恥心で顔が真っ赤になった。エミリーの動物好きは想像の斜め上を行っていた。


 「私が看板娘やってるときの猫の耳と尻尾も貴方みたいに本物になればなぁ」

 「本物ってついてると何かと不便だぞ」

 「例えばどういうところが?」

 「身体の一部になるわけだからちゃんとケアはしないといけないし、仰向けに寝るとお尻の違和感がすごい」


 ハルトは自分にしか理解できないであろう苦悩をエミリーに語った。本物にしかわからない妙に生々しい体験談の数々にエミリーは思わず真顔になった。


 「そうなの」

 「そうだぞ。だから本物になろうなんていうのは想像にとどめておいた方がいい」


 そんなやりとりを交わしている内にエミリーの声が次第に聞こえなくなっていった。しかしまだ尻尾には重みを感じる。ハルトが後ろに見返って確認するとエミリーは寝息を立て始めていた。


 「あー……」


 ハルトは困ってしまった。これではエミリーが目を覚ますまで全くその場から動くことができない。それに加えてエミリーがいつ目を覚ますかわからないのがこの上ない不安要素であった。

 この隙になんとか自由の身になれないかとハルトは尻尾を引っ張ってみたがエミリーはしっかりとしがみついていて離れない。恐ろしいまでの執着心であった。


 ただでさえ困っているところへ追い打ちをかけるような事態が襲い掛かった。ハルトは尿意を感じてしまったのである。しかしこんな状況ではとても用を足しにいくことはできない。

 早急にエミリーを自分から引き離す必要があった。


 「うぅ……離れない……」


 腕ずくで離そうとも試みたがエミリーはがっちりと掴んできて離そうとしない。むしろこちらが力を籠めるとそれに応じて力をより強めているような気さえする。それはさながら本当はエミリーは起きているのではないかと思わせるほどであった。ハルトは少女の姿になって純粋な力が弱くなったことがこれほどまでに重く響くことになるとは思いもよらなかった。

 

 悪戦苦闘している間にも尿意の限界は徐々に近づいてくる。ハルトには少女の姿になってから尿意の限界が以前より近くなっているという自覚が少なからずあった。それが彼女の焦りにより拍車をかける。

 極限が迫ってくるにつれて普段なら思いつかないようなプランがこの事態を打開しようと無数にハルトの脳裏を過った。しかしそのことごとくを人間としてのモラルが邪魔して実行には移せない。


 「ヤバイ……マジで漏れそう……」


 ハルトはモジモジしながら股間を抑え始めた。傍から見ればはしたない光景だが今はそんなことを気にしている場合ではない。

 その場から動けず、腕ずくでどうにもできない、おまけに当のエミリーも一向に目を覚ます気配がない。目を覚ますまで耐えるのは絶望的であった。そんな絶体絶命の中、ハルトに一筋の光明が見えた。



 「んん……あれ?私寝てた……?」


 空の色がわずかに茜色に染まりかけていた頃、エミリーはふと目を覚ました。自分でも気づかないうちに眠りに落ちていたようであった。


 「モフモフは堪能できたか?」


 目を覚ましたエミリーにハルトはそっと声をかけた。心なしかその表情は何か一仕事をやり終えたような達成感を得ているようにも、感情が死んでいるようにも見えた。

 

 「ええ、それはもう」

 「なら手を離してくれてもいいだろう」

 「もうちょっとだけ……」

 「これ以上はダメだ。もう家に帰りなさい」



 ハルトに帰宅を促され、エミリーは渋々ハルトの尻尾から手を離すと物惜し気な視線を送りながらその場を後にした。

 この経験を以て、ハルトは『自分の尻尾を他人の枕にさせない』ことを教訓として胸に刻んだのであった。

これにて第四章が終了になります。

次回からの第五章はプル・ソルシエール編になります。

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