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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
4章 崇拝競争
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ご褒美の油揚げ

 ただ一人の反対派であった隣村の村長が社会的に抹消され、二つの村は共通の問題を解決すべく同じ道を歩もうとしていた。

 両者の同意の元、川を挟んで二つに分断されていた村は統合されて一つになることが決定した。どちらかに固執する必要がなくなり、村を離れる必要がなくなった男たちは無事に戻ってくることとなった。その結果としてハルトは村を出ていった男たちを呼び戻すという当初の目的を達成することができた。


 「ハルト様。本当にここを出ていかれるのですか? 」

 「そうだなぁ。こうなったらもう俺がここに残る理由もないからな」

 

 セラとハルトはやりとりを交わしていた。

 目標を達成したハルトは本来の目的地であるプル・ソルシエールへの旅を再開する準備を進めていた。成り行きでそこそこの期間滞在したが元々この村には滞在する予定などなかったのである。


 「ハルト様さえよければここに残ってくれてもいいのですよ」

 「気持ちだけ受け取っておくよ。神様の使いがずっとみんなの前にいるっていうのも変な話だしさ」


 セラからの提案をハルトはやんわりと拒否した。建前はともかくとして、ずっとこの村に看板娘として居続けるのは自分が耐えられないというのが本音である。


 「エミリー様にご挨拶はされないのですか?」

 「しないでおくよ。俺が出発するっていったらアイツついてきそうだし」

 

 ハルトはエミリーに最後の挨拶をしないつもりでいた。エミリーは一つになった村をこれから中心となって導いていく存在である。そんな彼女の心の中に自分の姿をできるだけ残したくはなかった。


 「あっ、そういえば」


 旅支度を完了したハルトはまだ村長から報酬を受け取っていないことを思い出した。村同士のいざこざを解決に導き、それに伴う問題まで解消したのだからそれに見合う対価が必要であると考えた。

 報酬目当てにハルトはその場を飛び出して村長の家へと向かった。


 「村長!俺に何かご褒美くれよ!」

 「えぇ?」


 気が向くがままにハルトは村長の家を訪れた。それを受けた村長はすっとぼけたようにぼんやりとしていた。


 「まさか忘れたなんて言わねえよな。俺にただ働きさせてしらばっくれるつもりか?」

 「あー思い出した!ちょっと待っとくれ」


 ハルトに催促されて約束を思い出した村長はなぜか服の袖をまくるとどこかへと消えてしまった。

 『何か気合の入ったものが出てくるに違いない』ハルトは尻尾を振りながら期待を込めて待った。


 「待たせたのう」


 待つこと十数分、村長は食器を持って戻ってきた。その食器の上には柔らかく薄っぺらい長方形型の得体の知れないものが山盛りに乗せられていた。


 「なんだそれ?」

 「この村の隠れた特産品『油揚げ』じゃ。美味いぞぉ」

 

 村長はどこか自信満々にハルトにアピールしてきた。初めて見る食べ物にハルトは訝しげな表情を浮かべた。


 「毒入りとかじゃないよな?」

 「お狐様に毒を盛るなどとんでもない」


 村長の態度から見るに毒が入っていないことは確かなようであった。匂いを嗅いでも刺激的なものは感じない。むしろ仄かに甘い匂いを感じた。

 ハルトは恐る恐る油揚げを一切れつまむと一口嚙みちぎった。


 「ッ!?」


 ハルトは生まれて初めて食べる油揚げの味をいたく気に入った。できることなら毎日食べてもいいとも思えるぐらいであった。


 「気に入った!まだあるか?」

 「ええ、お気に召したのであればもっとご用意しますぞ」

 「これの作り方教えてくれよ!旅の途中でも食べたいぐらいだ」


 ハルトは村長に油揚げの作り方を尋ねた。原材料、味付け、調理法、そのすべてが気になって仕方がなかった。


 「うーむ……村の特産品故、製造方法はこの村秘伝の……」

 「教えてくれないの?」


 ハルトは急に言葉遣いを変えて耳を伏せ、村長に甘えるように訴えかけた。これもセラを始めとした村の女性たちに仕込まれたものである。

 これではとても断りづらい。なんて教育を施したんだと村長は村の女性たちに戦慄した。

 

 「と、特別じゃからな」


 村長は簡単に折れた。なんて便利な技術を得たのだとハルトは村の女性たちに内心感謝するのであった。


 「へぇー、豆から作るの」

 「そう。まあいろいろ工程が多いからうちの村でも職人が作っとるよ」


 ハルトは油揚げの作り方を知ったものの、その工程の多さや必要な材料の入手難易度などから自作を断念せざるを得なかった。そもそも彼女は料理の経験など微塵もない。


 「他所でも買えるか?」

 「珍味を扱う物好きな商人なら他所の町でも売っとるかもな」

 「……覚えておこう」


 小さな村の特産品である油揚げは当然のことながら他所ではかなりマイナーであり、それを扱う人間は少なかった。ハルトはそれを心底残念がった。

 

 「じゃあ今ある油揚げをありったけくれ。旅の土産にしたい」


 ハルトはせめてもの思いで今あるだけの油揚げを要求した。村長はまるでわがままな孫娘の世話を焼いているような感覚を覚えつつも渡せるだけの油揚げをハルトに手渡した。



 「油揚げは乾燥したら水に漬ければすぐに戻せるからの」

 「ありがとう。じゃあ後はうまくやってくれよな」


 村長に別れを告げ、油揚げを一切れつまみながらハルトは村を出て次の旅路へと歩みを進めた。

 今度こそ、魔法石の街プル・ソルシエールを目指すのであった。

次回に幕間を一本挟んで第四章は終了となります。

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