助けは来る
ハルトはエミリーの両親から与えられた情報を頼りに隣村の村長の家へと突撃を仕掛けた。戸をノックしても反応はない。それに加えて戸には鍵がかけられていた。
だがハルトの耳には家の中に人がいる音がはっきりと聞こえていた。ハルトは銃を取り出し、戸の取っ手に狙いを定めると引き金を引き、一撃で扉をぶち破って中へと突入した。
「いるのはわかってんだぞ。出てこい」
銃口から紫電を走らせながらハルトが言い放つと、村長と思わしき老齢の男が奥からすごすごと現れた。ハルトはすかさず男へと詰め寄る。
「アンタがこの村の村長だな。アンタにさらわれたっていう俺の知り合いを助けに来た」
「さて、なんのことかな」
村長はシラを切るつもりでいた。露骨に保守に走るさまを見て苛立ちを覚えたハルトは銃を天井に構え、威嚇で一発発砲した。弾はいともたやすく天井を突き破り、風穴を開けて日没の空を映し出す。
発射時の轟音と衝撃の余波に押された村長は腰を抜かして尻もちをついた。
「俺を子供だと思って甘く見ない方がいい。次はこの神威をお前に直撃させるぞ」
ハルトは撃鉄を起こして次の弾の発射体制に入った。
こんなものを連発されたら自分の命がない。そう判断した村長はエミリーの居場所を白状した。
「本当にそこに行けばエミリーがいるんだな?」
「ああ本当だとも。だがお前が行く頃にあの娘はどうなっているかな」
村長はこの期に及んで捨て台詞のような悪態をついた。『コイツには制裁を下さなければならない』そう判断したハルトは魔法の発動することにした。
「ショートブリッツ」
ハルトは電撃の魔法を詠唱するとそれを村長に向けて撃ちこんだ。強烈な電撃を生身の身体に走らされ、村長は一瞬で意識を失った。
脈を確認してまだ呼吸があることを確認したハルトは意識を失った村長をその場に放置し、エミリーが幽閉されている場所へと向かった。
「エミリー!」
村長から伝えられた村の外れにある寂れた家屋の戸を開け、ハルトはエミリーの名を呼んだ。
そこには力なく横たわるエミリーとそれを眺める男の姿があった。彼がエミリーに手を出したということを感覚的に理解したハルトはすぐに臨戦態勢に入った。
「貴様、エミリーに何をした!?」
「反省を促しただけですよ。彼女は村長に悪態をついたようですので」
男は淡々とハルトにそう告げた。彼はこの村の村長とつながりのある人物のようであった。そうとなれば彼ももれなくハルトの敵である。
「エミリーを返せ」
「それはできません。まだ『罰』は終わっていませんので」
そう言うと男は指先に小さな魔法陣を展開すると光弾をハルトの真横をかすめるように撃ちだした。
無詠唱で魔法を発動したことにハルトは驚かされた。これまでに出会った無詠唱で魔法を使える人物は学校の教員ぐらいであった。しかしハルトはそれを理由に怖気づくようなことはしない。銃に弾が続く限り無詠唱で魔法を行使できるのはこちらも同じであった。
「詠唱なしで魔法を使えるとはなかなかの手練れだな」
「わかるならこれ以上近づかない方が賢明ですよ。さもなくば貴方も『罰』の対象になってしまいます」
男は慇懃無礼な口ぶりでハルトに言い放つ。こうなれば実力行使もやむなしであった。
「面白い。お前の罰とやらがどれほどのものか見せてもらおうか」
ハルトは不敵に男を煽るとゴーグルを装着して銃を構えた。込められた弾は五発、弾が尽きる前に勝負をつけるつもりであった。
かくして、エミリー救出を賭けた無詠唱の魔法使い同士の決闘が始まったのであった。




