狐の力技
エミリーの思惑を知ったハルトは村同士が力を合わせられるようにこちらの村をなんとかすべく行動を開始した。彼女がとった手法は極めて豪快なものであった。
まずハルトは手始めに村の人々をすべて自分の元へと集結させた。
「今日集まってもらったのは他でもない。みんなに聞いてもらいたいことがある」
よじ登った家の屋根の上で胡坐をかき、ハルトは村人たちを見下ろしながら言い放った。その様子に村人たちは息を飲んだ。
「そう遠くない未来、この村は川の氾濫に巻き込まれて滅びることになる」
ハルトは予言じみた言い回しで村人たちにそう告げた。この村で神の使いとして信仰されている狐の姿をした彼女の発言ということもあり、村人たちはあっさりとそれを信じ込んでしまった。あっという間に大騒ぎである。
「お、お狐様!どうにかすることはできないのですか!?」
「俺にはどうにもできん。でもお前たちの力で食い止めることはできる」
食い下がる村長に対してハルトは自分の力でなんとかするとは言わず、あくまで村人たちに団結するように促した。
「食い止めるにはどうすればよいのですか?」
「川に堤を敷き、堰を築くんだよ。そうすれば川が氾濫するのを抑えることができる」
ハルトは具体的な対策方法を示した。対する村人たちは難色を示す。
「しかし、それを実行するには我らの村ではあまりに人手が足りませぬ」
村の男の一人から予想通りの返答が来た。工事のためには人手不足であることは村人たちも理解しているようである。ここから先がハルトにとっての本命であった。
「そうだろうな。でもそれを解決する方法ならあるぞ」
「と言いますと?」
「隣の村と結託するんだよ。水害で滅ぶのはお互い様だろ?」
ハルトが隣村との結託を提案すると村長を始めとした村人たちは唖然とした表情を浮かべた。予想以上の反応である。
「し、しかしそれは……」
「さもないと村の未来はないぞ?」
村人たちを見下ろしながらハルトは首を横にひねった。同時に決断を急かすように尻尾で屋根をペシペシと叩く。それでも回答を渋る村人に決断を促すためにハルトは懐から銃を抜いた。
耳を伏せて銃口を天に向け、引き金を引くと特大出力の魔弾が放たれた。天空高く上がった魔弾は閃光を放って炸裂し、雷鳴のような音と共に光の柱を無数に降り注がせて着弾地点を焦土に変えた。
「神の使いの狐様たる俺の言うことが聞けないって言うなら、川が氾濫する前に罰が下っちゃうかもなぁ」
ハルトはニヤリと口元に笑みを浮かべながら脅迫じみた言い回しで村長に決断を迫った。
それは重圧をかけるには十分すぎるほどのパフォーマンスであった。これまで間近で銃はおろか、魔法すら見たことのなかった村人たちはすっかりハルトの行動を神威の一端だと思い込んでしまった。
「俺が他所と仲良くしろって言ってるんだぜ?それを聞けないならお前たちの信仰心ってのはその程度ってことなんだよな」
村人の信仰心を試すようにハルトは厳しい言葉を投げかけた。村が信仰する神の使いを彷彿とさせる彼女の容姿がかつてないほどに都合よく機能していた。
ハルトから、村人たちから決断を迫られた村長は苦虫を噛みつぶすような表情を浮かべた。
「隣村の長にも協力を仰ごう。村が滅びるのを防ぐためだ、やむを得ん」
力の一端を見せつけられた村長は重圧に折れて隣村に歩み寄ることを決めた。それに対して食い下がるものはいなかった。かくしてハルトは村の人々を強引な形ではあるが団結させることに成功した。
「さて、次はエミリーの手助けかな」
こちらの事情を解決したハルトはエミリーがあちらの事情を解決するのを待つのみとなった。しかしエミリーは自分のように飛び抜けた力を持っているわけではない。故に強引な解決ができないことを知っている。
長い時間を待つことが肌に合わないハルトは暇つぶしを兼ねてエミリーに手を貸すことにするのであった。




