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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
4章 崇拝競争
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スカートと上目遣い

 「うぅ……なんでこんなことに……」


 その夜、ハルトは村にある小屋にて若い女性たちから包囲を受けていた。というのも、隣村の看板娘エミリーに対抗するための一挙一動を身に着けさせるためであった。


 「本当にスカート履かないとダメか?」

 

 ハルトは顔を真っ赤にしながら尋ねた。元々彼女はスカートの着用に関してはかなり不慣れであった。それこそ女の子の姿になった初日に学校の制服として着用した程度である。

 

 「よくお似合いですよ」

 「ええ、とっても可愛いです」


 恥ずかしがるハルトに対して村の女性たちは口々に彼女を煽てた。彼女たちの最初の狙いはまずハルトに自信をつけさせることであった。


 「そういうことじゃなくて!これちょっと動いたらパンツが見えちゃうんだけど!」


 ハルトは後ろを振り返りながら抗議した。それもそのはず、今彼女が着用しているスカートは尻尾の付け根を覆い隠しており、少しでも反射的に尻尾を持ち上げるようなことをすれば即座にめくれあがって己のパンツを露出してしまう状態であった。

 こうして抗議している間にも自分の尻尾がスカートを捲り上げ、ハルトは慌ててスカートのお尻を抑えた。これでは公衆の面前で自らパンツを晒しに行くも同然である。


 「隣村のエミリーさんは貴方よりも丈の短いスカートを着用していますよ?」

 「あっちの尻尾は飾りだけどこっちは身体の一部だからそうはいかねえんだよ!」


 ハルトはもっともな反論を返した。エミリーのつけている猫の耳と尻尾はいわば飾り物であり、動いたりすることはない。しかしハルトの場合は身体の一部であるためワケが違った。


 「いいじゃないですか、別にパンツの一枚や二枚ぐらい」

 「よくない!お前たちには恥じらいってものがないのかよ!」


 どこか達観したような村の女性たちにハルトはただただ翻弄されるばかりであった。


 「いいですねぇその反応。初々しい女の子って感じで」

 「うぅ……」


 村の女性に指摘され、ハルトは恥ずかしさのあまりに耳を伏せ、左足にくっつけるように尻尾を巻いた。これほどまでに『女の子らしさ』を意識させられるのは初めてであった。

 

 「ところで、パンツが見えなければスカートを履いてもよいのですか?」

 「えっ?そ、それなら……」


 ハルトは思考が麻痺して普段からは考えられないような返答をしてしまった。スカートを履くか履かないかが主点のはずなのにパンツが見える見えないに気を取られてすっかりをそれを見落としていた。

 女性たちはハルトから言質を取ったのをいいことにさらに彼女への調教を推し進めた。


 「いいですか?看板娘としてアピールする主な相手は男性です。つまり男性が可愛いと思うような仕草を覚えることが大事なんです」


 ハルトは非常に複雑な心境であった。今は少女だが元々の性別は男である。精神が男である自分が男性を相手にアピールを仕掛けるのは何とも言えない背徳感のような感情がこみ上げてくる。


 「例えばどんな?」

 「ハルト様は背丈が低いですから、身を寄せて下から見上げるように相手の目を見てあげるのが効果的です。所謂上目遣いってやつです」

 「こ、こんな感じか……?」


 ハルトは上目遣いを語った女性の眼前まで距離を詰めると言われたとおり見上げるように女性の目を見つめた。唐突に、しかも思い描いていた理想に極めて忠実にそれを実行するその姿に女性は胸を打たれた。


 「いい……いいです。さっきのハルト様はすごく可愛かったです」

 「や、やめてくれよ……」


 女性は褒めるようにハルトの頭を撫でた。褒められはしたもののハルトとしてはあまりいい気分ではない。ハルトは耳に触れられないように女性の手を払いのけた。


 「素晴らしい。貴方にはエミリーを超える素質があります」


 女性は恍惚とした表情をしながらハルトを評価した。その表情を見たハルトは脳裏に更なる嫌な予感が走り、尻尾の毛がゾワゾワと浮き立つ。


 「怖がらないで、貴方を女の子として可愛く振舞えるように教えてあげるだけだから」

 「それが怖いんだが……」


 ハルトは女性たちの異常なほどの執着に怯えてしまった。耳を伏せ、尻尾を内側に巻いて後ずさるその姿が恐怖心を示していることは誰の目にも明白であった。小屋の隅で小さくなってしまった彼女の姿を見て女性たちはふと冷静になり、同情で手を出せなくなってしまった。


 「今日のところはこれぐらいにしておきましょう。また明日」


 女性の一人が引き上げを宣言するとハルトの世話役の一人を除いて他の女性たちも小屋から撤収していった。二人きりになったところで残った女性はハルトに近寄って声をかけた。


 「いきなり災難でしたね」

 「なんで俺がこんな目にあわないといけないんだよ」

 「村の皆さんも必死なんです。村の存亡がかかっていますから」


 女性はハルトに同情しつつも村の女性たちが躍起になる理由を釈明した。エミリーに誘われて村を出ていく人々は尽く男性である。女性だけが取り残されれば自ずと村は滅んでしまうのである。


 

 その夜の出来事の一部始終はハルトの性自認を混乱させるに十分すぎるほどに強烈であった。

 そしてこの日を皮切りにハルトの中の男は音を立てて崩れ落ちていくのであった。

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