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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
3章 ブルームバレー
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羽を伸ばす

 ヤグルマが協議を申し込んだ翌日、日取りが決まるまでハルトたちレジスタンスは活動を休んで各々の時を過ごしていた。

 争いが止まったブルームバレーにはとても穏やかな時が流れ、ハルトが初めて訪れた時と同じ空気に満ちていた。


 そんな中、ハルト自身はヤグルマの屋敷の敷地を使って魔法の修練と新たな弾薬の開発に勤しんでいた。彼女は学校を抜けた身ではあるものの、暇さえあれば魔法の修練は欠かさなかった。新たな魔法の取得はもちろんのこと、すでに取得済みの魔法の精度の向上にも余念はなかった。そしてなによりも彼女に扱えるということはすなわち弾薬に詰めてストックすることができるということでもあった。


 ハルトが魔法の修練に励む様をヤグルマは研究室の窓から眺めていた。やがていてもたってもいられなくなり、庭へと出てハルトに声をかけた。


 「もう学生ではないのにずいぶんと勤勉じゃないか」

 「アンタも似たようなもんだろ」


 ハルトは庭の木陰に腰を下ろしてヤグルマに言葉を返した。片や学生ではないながら魔法に励み、片や年老いてもなお研究を続けている。

 二人は互いに顔を見合わせると口元に笑みを浮かべた。


 「そっちはどうなんだ?どこにでも咲かせられる青い花ってのはできそうなのか?」

 「今は寒冷地に咲く花と交配させている最中だ。三年前から続けてるんだが寒冷地に咲かせることはできてもどうも花を青くすることができなくてね」


 ヤグルマは自身の研究の進捗をハルトに語った。ハルトにはヤグルマが何をしているのかさっぱりわからなったが彼が研究の中で試行錯誤を重ねていることだけは理解できた。


 「生きてるうちに実現できそうか?」

 「あと二十年もあればできるさ。きっとね」


 ヤグルマはすでに五十を超える老齢であった。そこからさらに二十年以上生き続けることを前提に希望を語るヤグルマを滑稽に感じたハルトは思わず笑いを零した。


 「何がおかしい」

 「だってアンタ見たところ結構歳いってるだろ?なのにあと二十年って」

 「老いても夢は見るもんだよ。案外それが寿命を延ばしてくれるかもしれんしな」


 肉体が老いてもなおそれを理由に理想をあきらめないヤグルマの姿にハルトは心を打たれた。何度失敗を繰り返しても折れない心、それこそが彼の生きる力であった。

 

 「私も魔法のことはわからないが、君が何をしていたのかを聞かせてもらいたい」

 「これか?攻撃に使う魔力を調整してるんだ。これを弾に詰めてこの道具で撃つ」


 ハルトは懐から銃を取り出して手元でクルクルと回しながら語った。片手に機械、片手に魔導書、決して交わることがないだろうと思っていたものが隣り合う姿にヤグルマは目を疑った。


 「それはどういう仕組みになってるんだ?」

 「専用の弾を魔力を推進力にして撃ちだすんだ。ここを開くと弾を詰められるようになってる」


 ハルトは目を輝かせ、饒舌に銃の仕組みを語った。機械に興味を示してくれる存在に初めて巡り合えたことに大喜びし、無意識に尻尾がブンブンと揺れる。そんな様子をヤグルマは話を聞きながら眺めていた。


 「どこか面白いところでもあったか?」

 「いや、こうして話を聞いてると私に孫娘ができたみたいな気分になってね」


 ハルトとのやり取りの中でヤグルマは感傷に浸っていた。彼はすでに孫がいてもおかしくはない年齢である。きっと同年代の人間の中にはこんなやり取りをしている者もいるのだろうと考えると感慨深いものがあった。

 それと同時にハルトはヤグルマの家族構成のことが気になり始めた。


 「そういえばアンタの家族構成ってどうなってんだ?結婚とかしてるのか?」

 「昔は妻と子供がいたよ。今は見ての通りの独り身なんだけどね」

 「なんで独り身になったんだ?」

 「妻に愛想を尽かされたんだよ。私は見ての通り研究にしか能がない人間だからね」


 ヤグルマは自嘲しながら離婚の経緯を語った。彼の素性を知っているハルトにはその理由は納得のいくものであった。それと同時にもし自分が恋人を持って結婚までありついてもこうなるのかもしれないと考えると戦慄するものがあった。


 「今頃はどうしてるんだろうな」

 「さあね。別れた人のことはわからないけどきっと元気に暮らしてるよ」

 「だといいな。あとそれはそれとして頭を撫でるのやめてくれねえか。俺はアンタの孫じゃねえぞ」


 ハルトは知らず知らずのうちに頭頂部に置かれていたヤグルマの手を払いのけた。距離が近いとヤグルマは手癖のようにこの仕草を取る。

 

 「まあまあいいじゃないか。私だって十何年も一人で寂しかったのだから今は許してくれ」


 ヤグルマはそう言いながら今度はハルトの両脇の下に手をまわした。抱き上げようと少し持ち上げたところで何を思ったかヤグルマはすっと手を引いた。


 「思ったよりも重かった……」

 「失礼な!アンタが非力なだけだろうが!」


 ハルトは耳を後ろに絞って怒った。学生時代には理解できなかった女子が体重を気にする理由がわかったような気がした。


 そんな戯れをしていると、配達員と思わしき男性がヤグルマ邸の門をくぐるのが見えた。


 「ヤグルマ・ガーベラ様ですね。あなた宛ての手紙を預かってます」

 

 配達員の言葉を聞いたヤグルマとハルトは息を飲んだ。今このタイミングで来る手紙の送り主は一人しかいない。協議の日時が決まったのだ。

 手紙を受け取ったヤグルマは封を切って中身を確かめた。



 「三日後の十一時……」


 今日から三日後の十一時、それがあちら側から提示された協議の日時であった。こうして羽を伸ばすときは終わりを告げ、次なる戦いの幕が上がるのであった。

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