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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
3章 ブルームバレー
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結束を強める

 大規模な行進を行った翌日、ヤグルマの屋敷の前には何十名ものレジスタンスが集結していた。

 その様子を窓の外から眺めていたハルトはどこか得意げであった。


 「君があれだけの数を集めたんだ。大したものだ」

 「ふふん。まあそれほどでもあるな」


 ヤグルマは屋敷の玄関を開け、レジスタンスの仲間たちと合流した。ハルトもヤグルマの後について歩く。


 「みんな来てくれてありがとう。今日は活動は行わず、私の屋敷を開放して皆との親睦を深め合う日にしたいと思う」


 ヤグルマは屋敷の門を開いてレジスタンスを自分の屋敷へと招待した。レジスタンスは門をくぐり、屋敷の中へと足を踏み入れた。


 「会いたかったよー」

 「耳と尻尾がふわふわしてて可愛いねぇー」

 

 屋敷の中では昨日の鬼気迫る様子とは打って変わってレジスタンスたちは和気藹々とそれぞれ親睦を深めていた。

 そしてレジスタンスの大半はハルトに声をかけてきた。その可愛がりは我が子、あるいは愛玩動物に向けるそれであった。ヤグルマはそんな様子を穏やかな表情で見守っていた。

 

 「俺のことはいいだろう。今はヤグルマさんの話を聞いてやってくれよ」


 ハルトは困ってしまった。彼女の今日の目的はヤグルマの思想理念を参加者に共有し、その結束をより強固にすることである。しかし肝心の参加者たちの関心がヤグルマではなく自分の方に向いてしまうのは本末転倒であった。


 「ふわぁー……」

 「あぁーすごくふわふわのモフモフでいい手触りいいわねー」


 ハルトはなし崩し的にされるがままであった。耳をいじられ、尻尾を触られて人形のように弄ばれていた。そんな状況を見かねたヤグルマが注意を引きつけに動いた。


 「皆さん。盛り上がっているようですがここで我らの目標をもう一度確認させていただきます」


 ヤグルマの一声で集まったレジスンタンスの注意が一斉に彼の方へと向けられた。

 手が止まった隙を見計らい、ハルトは逃げるようにヤグルマの傍に合流する。


 「我らの目標は花畑の地主と癒着した上流階級の連中を地主と切り離し、庶民も楽しめる花畑を取り戻すこと。そのためには組織としての結束を強める必要がある」


 ヤグルマはレジスタンスに改めて目標を語った。さっきまでとは打って変わって緊迫した様子にレジスタンスたちは思わず息を飲んだ。

 その脇でハルトはいじられた耳と尻尾を労わるように整え直していた。


 「先日の行進は成功に終わったがそれで終わりじゃない。次は花畑を取り戻すために話し合いで交渉を行う」


 ハルトはレジスタンスたちに今後の活動予定を伝えた。活動の終着点は花畑を取り戻すこと。ただ声を上げてるだけではそれは成しえない。

 

 「交渉には私が赴くのだが、そこで護衛を頼める人物を数名求めている」


 ヤグルマが護衛を求めるとレジスタンスたちは途端に黙りこくってしまった。やはり上流階級の人間と間近で接触するのが怖いようであった。

 ハルトは自分をダシにして志願者を集めることにした。


 「護衛をしてくれる人にはもれなく俺がなにかしてあげようと思ってるんだけどなぁ」


 それを聞いた途端にレジスタンスは一人、また一人と護衛に名乗りを上げはじめた。ハルトに惹かれて加わったレジスタンスにとって彼女の言葉は絶大な力を持っていた。あまりにも単純な思考にハルトは呆れてものが言えなかった。

 

 「自分の価値をそこに利用できるとは大したものだな」

 「まあ金を掛けずに人を動かせるなら利用するに越したことはないからな」


 ヤグルマとハルトは互いに顔を見合わせてやり取りを交わした。ヤグルマの理想を理解し、利害の一致からそれを実現すべく行動を共にするハルトとその彼女に追従するレジスタンスという奇妙な組織がそこには構築されていた。


 「護衛に名乗り出た連中に何をするか今のうちに考えとかないとなー……」


 ハルトはその後も続いた親睦会を抜け出し、一人呟きながら屋敷の廊下を歩くのであった。 



 一方その頃、上流階級陣営は勢力を急激に拡大したヤグルマ陣営に対して反撃すべく手を撃とうとしていた。


 「ベロニカ様、このままではヤグルマ陣営の連中を鎮圧しようとしても数で押されて歯が立ちません」

 

 陣営の一人がベロニカと呼ばれる人物にそう提言した。提言を受けた男は背もたれの付いた椅子に深く掛けた腰を浮かせた。


 「ふむ。数で勝てぬと言うならこちらにも考えがあるぞ」

 「考え……と申しますと」

 「ヤグルマを抹殺してしまえばいい。そうすれば連中は混乱して空中分解、今後こちらに盾突くこともなくなるだろう」


 ベロニカの提案、それは解放運動の中心人物であるヤグルマを直接殺害してしまうことであった。 そのあまりに人道から外れた提案を受けた陣営の他人物たちはいっせいに表情を凍り付かせた。


 「なに、ヤグルマ本人を殺すかそれ以外の大勢を殺すかの違いだ。一人で済むならお前たちもそちらの方がいいだろう」


 ベロニカにとって反撃のために命を奪うことは大前提であった。その数が増えるか減るか程度の認識しかしておらず、そこには罪の意識など微塵もなかった。

 

 「お前たちはこれ以上何も考えなくてもよい。私が個人的に刺客を雇って差し向ける」


 そう言い放つとベロニカは周囲の反応を待つことなく話を一方的に切り上げ、その場にいた人物をまとめて追い返した。


 「成り上がりの元庶民風情が……身の程を教えてやる」


 ベロニカの手の中には彼にとってのヤグルマの命の価値に等しいだけのマナ札の束が握られているのであった。

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