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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
3章 ブルームバレー
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次にやること

 「さて、次は地主との交渉に踏み切ろうと思うのだが一つ問題がある」


 レジスタンスの規模が大幅に拡大した日の夕刻、ヤグルマは次の展開をハルトに相談していた。彼は次の展開として花畑の地主との談判を行い、入場料の緩和に持ち込むつもりでいたがヤグルマ自身は不安材料を抱えているようであった。


 「問題って?」

 「私はこういった交渉に役立つ知恵が何もないのだ」


 ヤグルマの抱えている不安材料はハルトの斜め上を行っていた。これではいくら交渉に持ち込んだところで相手が専門家を持ち出して来ればこちらが一方的に負けるのみである。よって早急に対策を打ち出す必要があった。


 「まず交渉のための対話に持ち込むためにこっちに応じなかった場合の対応を考える必要があるんじゃないか?」

 「応じなかった場合の対応ねぇ」

 「そう。こっちにも相応の力があることを示さないとそもそも対話に応じてもくれないぞ」


 ハルトは交渉のための材料が必要だと訴えかけた。力のないものの声に上流階級の人間が耳を傾けるはずがない。たとえ同じ上流階級のヤグルマが相手であろうと例外はない。否が応でも対話に持ち込むための圧力が必要不可欠であった。

 

 (奴ら相手にはそうでもしないとな……)


 ハルトがそう考えるのは彼女自身の経験に基づいていた。学生だった頃、自分たちに突っかかる連中はみなこちらの声に耳を傾けようともしなかった。対話一つするにしても拮抗した力が必要だったのである。


 「君はどういう対応を考えているのかな」

 「そうだな……花畑を焼き払うとか?」

 「いくらなんでもそれは物騒すぎる。却下」


 ハルトの出した一例をヤグルマは即座に拒否した。花畑を取り戻すための協議なのにそれを焼き払うのでは元も子もない話であった。


 「でも相手が困るような要求を押し付けた方がいいと思うんだよな。無視できないぐらいのやつをさ」

 「相手が困る要求か……」


 ヤグルマはこちらができる範囲で相手がされて困ることとはなんだろうかと考えた。


 「どうだ?なにかないか?」

 「そうだな。青い花の収益から出た私の取り分を増やすように迫ってみるかな」

 

 ヤグルマは青い花を作った張本人である。花畑の入場料や青い花を使った特産品から得た収益の一部が彼の元へと還元されており、それが彼の収入源になっていた。


 「逆に今まで受け取ってなかったのか……?」

 「受け取ってるよ。花畑の取り分をより増やして私の私服が肥えるようになれば連中は無視できなくなると思ってね」


 敵陣営が花畑を独占する理由は観光客による収益が大きいからである。しかしそこから出るヤグルマの取り分が大きくなれば相対的に他の連中の取り分が少なくなる。向こうからすれば庶民からの成り上がりであるヤグルマに利益で優位を取られるのを絶対に阻止しに来るはずである。


 「アンタのことはなんか上流階級っぽくないと思ってたけどそういうところはちゃっかりしてるんだな」

 「まあね。成り上がったおかげで身に着いたよ」


 ハルトはヤグルマの思惑に上流階級の片鱗を感じずにはいられなかった。自分の立ち位置を交渉材料にする強かさは自分にはない発想であった。


 「よし、じゃあ内容はこれでいこう。日取りを決めなければ」


 ヤグルマとハルトは交渉で要求するもの、条件、日取りを設定した。あとはそれを花畑陣営に突きつけるだけであった。


 「明日これを仲間たちにも共有して、アンタの理念を今日加わった人たちにも理解してもらわないとな」

 「素晴らしい。ぜひそうしよう」


 ハルトは解放運動に参加する同志の結束を強めることを提案すると、それに対してヤグルマも肯定的な反応を見せた。すべてがいい方向へ滑り出していた。


 「ところで、私は君について知りたいことがある」

 「ん?なんだ?」


 話が一区切りついたところでヤグルマは話題を転換し、ハルトへの興味を持ちだした。


 「君は前に上流階級の人間に恨みがあると言っていたが、過去に何があったのか聞かせてくれるかな」


 ヤグルマが興味を持ったのはハルトが活動に加わる動機となった私怨のことであった。自分は対象ではないと断言してはいるものの、なぜ私怨を抱いているのかが気になっていた。

 

 「俺、旅人になる前は有名な魔法学校に在籍してたんだ」

 「ほう。つまり君は魔法使いということか」

 「そういうこと。俺はアンタと同じで出身は庶民、でも周りは上流階級の魔法使いだらけで居場所がなかったんだよな」


 ハルトは自分が元々男であったのを知られない範囲で己の身の上を語った。


 「上流階級の社会に一人だけ庶民が放り込まれれば居心地が悪いだろうな」

 「元々特待生として入ったから成績は他の奴らよりもよかったんだけど、庶民出身で上流階級よりも成績がいいっていうのがかえってダメだったんだろうな。それが余計居心地を悪くしたんだ。今のアンタと似てるな」


 自分たちよりも下位の存在に能力で劣っている現実を突きつけられれば嫉妬に駆られるのは当然であった。そういう点ではハルトとヤグルマは似た者同士であった。


 「なるほど、それで学校という居場所を追われたのかな」

 「そういったところだ。あと少しで卒業できたんだけど、俺が耐えきれなかった」


 学校を事実上中退したのはハルト自身の意思だがそうさせたのは上流階級の人間による差し金である。超保守的にして超閉鎖的に構築された社会、そこに放り込まれて迫害を受けたことがハルトが上流階級の人間を嫌う理由であった。


 「俺は庶民を虐げる上流階級が許せない。だからアンタに手を貸そうと思ったんだ」

 「話を聞かせてくれてありがとう。似た者同士、心を一つにして必ず勝とう」


 事情を知ったヤグルマは改めてハルトと手を取りあった。

 


 一方、その裏では花畑陣営も急激に勢力を拡大したヤグルマ陣営にやられっぱなしで済ませないために着々と反撃の準備を進めているのであった……

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