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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
3章 ブルームバレー
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ハルトとヤグルマ

 ハルトはこっそりとヤグルマを尾行しながら彼がひとりになる時を待っていた。できるだけ邪魔が入らない状況で彼と接触するためである。ようやくヤグルマが一人になったのは彼の自宅と思わしき屋敷の前まで訪れた時であった。


 「なあ、ヤグルマっていうのはアンタのことで合ってるよな?」


 ハルトはヤグルマの背後から確認を取るように声をかけた。ヤグルマは門をくぐろうとする足を止め、ハルトの方へと振り向いた。


 「いかにも。私がヤグルマ・ガーベラだが……私に何の用かな」


 ヤグルマはそう名乗ると同時に彼は視界に映ったハルトの耳と尻尾が飾りでないことが一目で見抜いた。

 

 「ひゃっ!?な、なんだよ!?」

 「それ……どうなってるのかな?」


 ヤグルマはおもむろにハルトに近づくと彼女の両耳に触れた。あまりに唐突な接触にハルトは驚いて耳と尻尾を伸び上がらせた。


 「やはり本物か」

 「その……あんまり触らないでくれるか?」


 ハルトは俯いてもじもじしながらヤグルマに訴えかけた。耳に触られることは尻尾を触られる以上に不慣れであった。彼女の反応を見たヤグルマはすっと手を引いた。手を離されたハルトは耳を伏せ、自身の手でそれを抑えると警戒するようにヤグルマを睨んだ。


 「すまない。わざわざ私を尋ねてきたということは何か用事があるのではないのかな?」

 「あ、そうだそうだ。アンタのやってる活動に興味があって話を聞こうと思ってさ」


 ハルトは話を仕切り直した。それを聞いたヤグルマはどこか嬉しそうな表情を見せた。


 「まだ若いのに感心だ。もうじき暗くなるし、私の家で話をしよう」


 ヤグルマは嬉々としながらハルトを屋敷へと招き入れた。どうやら彼は同志を集めることに余念がないらしい。ハルトは誘われるままにヤグルマの屋敷へと足を踏み入れた。



 ハルトはヤグルマの屋敷の中の匂いが気になって仕方がなかった。そこは住み心地を意識しているとはとても思えないようなごちゃごちゃとした匂いがした。その中にわずかに、あの青い花の匂いが感じ取れた。


 「ヤグルマさんはどんな仕事してるんだ?」

 「花の研究をしていてね。花畑に咲く青い花を作ったのは私だ」

 「えぇっ!?マジで!?」


 それを聞いたハルトは驚愕した。自分が気に入ったあの匂いを放つ青い花を作った張本人が目の前にいるとは思いもよらなかった。


 「私の三十年の研究の成果だ。でもまだ終わりではない。次は痩せた土にもこの花が咲かせられるようにするんだ」


 ヤグルマの熱心ぶりにハルトは自分の機械いじりに対するそれと近いものを感じ取った。この人は心の底から花を愛しているからそれができたのだと思わずにはいられない。

 

 「ところでなんでアンタは庶民に肩入れするんだ?同じ上流階級同士で仲良くしておけばもっといい思いできるだろうに」


 ハルトは話題を仕切り直し、単刀直入な疑問をふっかけた。ヤグルマが庶民に肩入れをする理由、それも上流階級の地位に甘んじることを捨ててまでそうする真意がどうしてもわからなかった。


 「私は元々は上流階級の生まれではない。庶民階級の生まれなんだ」


 ハルトはヤグルマの語りから彼が庶民に肩入れする理由をそれとなく察した。彼は上流階級の人間ではあるものの、なにかがあって成り上がった。だから庶民に対して情があるのだろう。


 「庶民だったころの私はこの町の花畑を見ることがただ一つの楽しみでな。いつしかこの花畑に自分の花を咲かせたいと思った。それで私は学を積んで研究者の道を選んだ」 

 「で、青い花を作って上流階級に成り上がったと」

 「そう言ったところだね。町の人々は私のことを町一番の富豪かつ変わり者だと呼んでいるよ」


 ヤグルマは青い花を作った功績から富を得て庶民から上流階級に成り上がった男であった。それと同時に彼の花畑への愛が本物であることをハルトは感じ取った。


 「でも、それだけじゃないんだろ?」

 「そうだね。他の上流階級の人間たちは私のような成り上がりが出てくることを恐れているんだ」


 ハルトはここで上流階級の人間たちが花畑を独占しようとする理由を理解した。研究一筋で自分たち以上の富を得るものが今後現れるようなことがあれば自分たちの地位が危うい。だからそうなる前に芽を摘もうとしていたのだ。


 「私はこの町の花畑を愛している。だからこそ私のように花畑を愛する庶民にも平等に解放されるべきであり、観光客を失望させるべきでもないと思っている」

 「その通りだ。いくらなんでもあの入場料は高すぎるし、庶民階級の観光客があまりに可哀そうだ」


 『自分に愛する花畑は誰でも入れる場所であるべき』という考えがヤグルマの活動の原動力であった。同じく庶民階級の出身であるハルトは彼の考えに大いに賛同した。


 「君も解放運動に参加してみないか。君の力があればきっとこの現状を変えられる」


 ヤグルマはハルトに運動への参加を呼び掛けた。こんな子供相手でも見境なしかと戦慄しつつもハルトはそれに対して肯定的であった。


 「俺も参加する。せっかくブルームバレーに来たんだから花畑を見たい!」

 「そうだろうそうだろう」

 「それに……」

 「それに?」

 「俺も上流階級の人間にはちっとばかし恨みがある身だからな」


 協力の同機にはハルトの私怨も含まれていた。何を隠そう、元の姿を失って今の姿になったのは紛れもなく上流階級の人間のせいである。庶民を虐げる上流階級は自分と無関係でも許せるものではなかった。


 「途中で私に反旗を翻すようなことはしないでくれたまえよ」 

 「するわけねえじゃん。よろしく頼むぜ」



 こうしてハルトはヤグルマに手を貸すことを決めた。それと同時に、彼女の中にあった『上流階級は庶民階級を虐げる存在である』という決めつけにも等しい意識は例外を目にしたことで少しばかり改められたのであった。

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