家族の話
「へぇー、親御さんが帰ってくるの」
「そう。久しぶりに一緒にいられるようになるんだー」
夜、ハルトはカレンから嬉しそうに報告を受けた。家族が一つに戻ることに安堵しつつも一つ懸念事項ができた。
「そうなったら俺たちここから出てった方がいいよな……」
ハルトはカレンたちの両親が帰ってきた後の拠点について考えていた。今は空室になっている両親の寝室をループスと二人で使わせてもらっているが本来の使用者が帰ってくるとなると居座るわけにもいかないのである。
「あー……私も考えてみるから安心し」
カレンもハルトの一言でそれに気づいたらしく、遠慮しすぎないようにフォローを入れた。
「ところでさ、ハルトちゃんとループスさんの両親ってどんな人なの?」
話を切り替え、カレンは両親のことをハルトとループスに尋ねた。二人の家族のことはアーサー、ロレント、ノエルも興味津々であった。
ハルトとループスは自分たちの両親について話すことにした。
「まずは俺からだな。俺の両親は魔法使いだ。母は人形師をやってて、父はその助手もやってる」
「ハルト姉ちゃんって魔法使いだったの?」
「あー、みんなの前で魔法使ったことなかったっけ。そう、俺は魔法使いなんだぞ」
アーサーたちはハルトが魔法使いだったことに驚かされた。カレンだけは先のクエストでハルトが魔法を使用する様子を見ていたがそれを弟たちを伝える機会がなかったため、弟たちがそれを知る由はなかった。
「俺の家族も昔はカレンたちと似たような境遇でさ、生まれ育った町で朝から日が暮れるまで畑仕事や牧場の手伝いをして分け前を貰って日々を凌ぐみたいな生活してたんだ」
「さっきハルト姉ちゃんのお母さんは人形師だって言ってなかった?」
「母さんが人形師になったのは俺が学校に通うために家を出た後だ。この前マスカールの人形祭のコンテストで優勝して名実ともに世界一の人形師になったぞ」
「すご!超有名人じゃん!」
ハルトは両親と良好な関係を築いており、旅をしていることにも寛容である。ハルトにとって両親は愛情が通じた誇れる存在であった。しかしループスの場合はそういうわけではなかった。
「ループスさんはどうなの?」
「俺は……母は俺が生まれたときに亡くなった。父は軍人だったが……わけあって縁を切った」
ループスはハルトとは対照的に実親に対していい感情は持っていなかった。そもそも母は物心つく前から他界しているため片親であり、その父からは過剰な期待を寄せられた結果関係が歪んで絶縁まで至っている。
ハルトたち三人の中でループスが最も複雑な家庭環境に置かれていたのである。
「なんというか……大変だったんだね」
「縁は切ったが後悔はしていない。こうして好きに行動ができているわけだからな」
家族の話から始まった談義はいつの間にかループスを労う会に変わっていたのであった。




