突然の報せ
昼食を済ませ、アーサーたちが一服の昼寝で静かになっていた昼下がりのひと時。ある一人の男がカレンの家を訪れた。彼はここの一家宛に手紙を届けに来たのだという。男の荷物には他にも多数の手紙が詰まっており、郵便配達員と見て間違いはなさそうであった。
男はアリアに手紙を渡すと一礼して足早に去っていった。
「宛名は……誰でしょう?」
カレンに代わって手紙を受け取ったアリアは差出人の名前を見て首を傾げた。
「んー、どれどれ……」
アリアから手紙を回収したカレンはその宛名を見るなり真顔になって目を見開いた。それはアリアにとっては知らない人でもカレンたち一家にとっては忘れるはずもない名前だった。
「どなたなんですか?」
「父さん……」
手紙の差出人はなんとカレンたちの父であった。カレンはすぐに手紙の封を切って内容を読んだ。
「向こうでの仕事でたくさんのお金がもらえたので家に帰れそうです。この手紙が届くころには母さんと一緒にそっちに向かっている頃でしょう。近いうちに帰るので楽しみにしていてください」
手紙にはカレンの両親がこっちに帰ってくる旨の内容が記されていた。それも働けなくなったなどの理由ではなく、出稼ぎをする必要がなくなったからという朗報であった。
この内容に偽りがなければカレンたち一家は数年ぶりに全員揃って過ごせるようになるのである。
「起きて!みんな起きて!」
カレンはいてもたってもいられず、昼寝をしている弟たちを起こしにいった。今はとにかくこの喜びを共有せずにはいられない。
「お父さんとお母さんが帰ってくる!?」
「それ本当!?」
「本当本当!この手紙見てよ!」
カレンは父から差し出された手紙をアーサーたちに見せた。それを見たアーサーとロレントは大歓喜するものの、ノエルだけはイマイチ理解が追い付いていないようであった。
それに気付いたアリアはノエルに声をかけた。
「嬉しくないんですか?」
「わかんない。ノエルはお父さんとお母さんの顔を覚えてないから……」
ノエルが語る通り、彼女は物心つく少し前から両親と離れ離れになったためその顔を鮮明に思い出すことができなかった。
「そっか。ノエルはずっとカレン姉ちゃんに面倒見てもらってたもんな」
「よかったなノエル。これでお父さんやお母さんと一緒にいられるようになるぞ」
アーサーとロレントはノエルを挟んで彼女をあやすように撫でまわす。
「ねえねえ、アリアちゃんのお父さんとお母さんってどんな人だったの?」
「私の父と母は……魔法使いでした。でも……数年前に事故で亡くなりました」
カレンに尋ねられたアリアは自分の家族について紹介した。しかし彼女は半ば事故だったとはいえ、両親を自らの手にかけてしまった壮絶な過去までは詳細に明かすことはなかった。
「今の私には両親はいません……でも、家族みたいな人たちはいます」
親殺しの罪を被り、すべてを失ったアリアに手を差し伸べたのがハルトとループスである。今のアリアにとっては二人は自分を守り導いてくれる大切な存在であった。
「ところで、カレンさんたちの御両親は出稼ぎに行かれていたとのことですが……何をされてたんです?」
「そういえば聞いたことないなー。帰ってきたら聞いてみようかな」
カレンの両親は揃って出稼ぎに出ていたものの、出先でどんな仕事をしているのかはカレンも聞いたことがなかった。
「アーサーとロレントは何か知ってる?」
「いや、何も」
「聞いたことないや」
両親の仕事についてはカレンどころか、アーサーとロレントも知り得ない情報であることが判明した。アリアは何か言えないような事情があったのかと勘繰ってしまう。
「よーし!お父さんとお母さんを迎えるために今からいろいろ準備するぞー!」
「おー!」
「お手伝い……させていただきます」
数年ぶりの再会に向けてカレンたち四姉弟は意気込むのであった。




